Op.1-5第6節2拍

 その様子を見届けたみやび達。花蓮かれんみやびの隣に座ると、各々おのおのクレープを食べ始める。


「お……おいしい……」


 灯莉あかりはご満悦な表情で塩バタークレープを食べる。


--はむはむ


 花蓮かれんは美味しそうに、無邪気に食べ進む。しかし、そのほっぺたにストロベリークリームがくっついていた。


花蓮かれん。ほっぺたにクリームがついてるぞ」


 みやび花蓮かれんのほっぺたに付いているストロベリークリームを指で絡めとり、そのまま自分の指を


「……」


 灯莉あかりは、その様子を見てしばし固まる。

 そして、自分のクレープの中身にクリームがあるかの確認をするが、当然そんなものはない。


「むぅ……」


 と、灯莉あかりは一人で落胆し、不貞腐るふてくさる


「……?」


 みやびは、そんな灯莉あかりの行動に意味が分からず、首を傾げるしかないのである。

 そして、灯莉あかりは無心に食べ進め、みやびがクレープ紙を破く時には食べ終わっていたのであった。


灯莉あかり、そんなに急いで食べなくても……」

「そ……そんなこと……言わないで……」

「ごめん」


 分かり辛いが、少し怒り気味な口調の灯莉あかりに、みやびは謝ることしか出来なかった。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 みやびの裾を少し引っ張る。


「お兄ちゃんのクレープを食べたい」

「分かった。交換しようか」

「やった」


 花蓮かれんは小さく喜ぶ。

 みやび花蓮かれんから受け取ったクレープを一口食べる。

 口の中に広がるのはストロベリーの風味。

 クリーム自体が甘くないためか、甘酸っぱい味がより強調されていた。

 ただ、抹茶アイスは花蓮かれんに真っ先に食べられていたため、その味だけ堪能できなかった。


「美味い」

「でしょ」


 みやびは感想を言うために、クレープを口から離した。

 灯莉あかりは、みやびの口元にクリームが付いていたら雅が花蓮にした事さっきのように、取ってあげようと思ったのだが、付いていなかったため、「むぅ〜」と周りには聞こえない小さな声で言いながら、さらに落胆してし、テーブルへ頭をつける。


灯莉あかり、大丈夫か?」

「だ……大丈夫……」

「ならいいけど……」


 と、灯莉あかりは、こう言う時には勘が鋭いみやびを適当にあしらう。


「……っ」


 灯莉あかりは、机へ頭を預けているからか、それとも、暖かく心地よい天気のせいか、眠気が襲いかかり、欠伸を噛み締める。

 ちらっと、みやび達を見ると、楽しそうにおしゃべりしながら食べている。それを見たら何もかもがどうでもよくなり、睡魔に身を任せた。


          ♪


 あなたは、自宅に連れてきた人間に色々と問います。


「あなたの名前はなんていうの?」


 人間は口を少し開け、「×××」と、名乗りました。


「そう。いい名前だね。そんな素敵な名前がほしいかったわ」

「お姉さんの名前は何?」

「わたしはね……」


 あなたはどこか遠くを見つめます。


「わたしには名前がないの。みんなには『魔女』って呼ばれているけれど、それで問題はないかな」

「良くない」


 人間は即座に、強く言い放ちました。


「名前がないと不便じゃないか?」

「そうね。これからは不便だね。×××が弟子になるんだもの」

「そしたら、お姉さんの名前は、


 あかり


 とか、どうかな?」


 あなたは、「それでいいかもね」と言いました。


「あかり……、あかり……」


 そして、あなたは、その名前を気に入りました。

 なんて素敵な響きなのでしょうか。あなたは何回も噛み締めます。


「気に入ってくれた? あかり」


(その……名前、わ……わたしと……)


 目の前にいる人間が微笑みかけます。

 姿×××


          ♪


「……り。……あかり」

「!!」


 灯莉あかりは、何回もみやびに声をかけられたことに気づき、勢いよく起きると


「あ……。ご……ごめん! みやび……くん!」


 灯莉あかりの頭と、みやびの顔がぶつかる。みやびは、ぶつかった場所を少しさすった。


「平気だ。それよりも、何回も呼んでたのに、起きてくれなくて心配したぞ」

「ゆ……夢をみてたの……」

「夢か。いい夢だった?」


 灯莉あかりは、みやびの顔を見る。

 思い詰めた表情をしている灯莉あかり

 みやびはその様子をみて、『夢』の内容が気になった。


「ま……まえにも話した……と、お……おもうけど……、不思議な夢」

「現実味がある夢の話だったか。また見たの?」

「う……うん」


 灯莉あかりは口にする。

 夢で見た、自分の景色を。

 すると、みやびは一瞬はっと驚く。しかし、すぐに表情を戻した。


灯莉あかり。今日、家に帰ったら、大事な話がある」

「だ……だいじな、話……?」

「そうだ。時間は大丈夫?」

「だ……大丈夫だよ……」


 みやび灯莉あかりへ手を差し伸べると、灯莉あかりはその手を掴む。


「じゃ、早く行こうか。日が暮れちゃう」


 灯莉あかりは複雑な気持ちだったが、今は花蓮かれんの記憶を戻すほうが優先のため、何も考えないことにした。

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