Op.1-5第6節1拍

 少し、時間を遡る。


『ご苦労じゃったな。パセリ』

「はい。依頼でしたので、お気になさらず」

『そうじゃったな。また頼むかのぅ』

「是非」


 耳に装着されているイヤホンからツー……ツー……と、通話完了したとの合図が鳴り、そのままボタンに触れると、合図が鳴り止む。


「……」


 パセリと呼ばれる仮面を付けた少女、本名はパセレッタ・ベラルーシ。パセレッタは物心がついたときには、人体実験は当たり前に行われる、狂気的な施設に引き取られていた。

 パセレッタの四肢には、無数のメスが入れられており、その場所だけ皮膚の色が濃くみえている。

 パセレッタは空に浮かぶ上弦を観ながら、夕方頃に出会った男女三人組を思い出していた。


「……」


 しかし、感情というものがないパセレッタに、何かを思うことができない。

 そのことに気づくか気づかないか、パセレッタは思い出すのをやめた。

 そのまま手を下ろすと、影へ溶け込み、元から何もなかったかのように、消えた。


          ♪


 みやびは、灯莉あかり花蓮かれんと共に廃病院へ向かっていた。


「お兄ちゃん。あれ何?」


 道中、花蓮かれんは不思議そうに、道に停車していたある一点を指差す。

 『お兄ちゃん』という、『にぃ』じゃないいつもと違う呼び方をしているが、みやびは慣れているので気にしてはいなかった。

 みやび灯莉あかり花蓮かれんの指を指す方へ視線を向けると、

 そこには、『クレープ』という文字が書かれている、キッチンカーがあった。


「いい……に、匂いする……」

「クレープか。花蓮かれん、食べたい?」

「うん」

「わ……わたしも」


 みやびたちは早速、クレープ屋へ立ち寄る。

 そこには色とりどりのフルーツが散りばめられたクレープのサンプルが広がっていた。


「お兄ちゃん、これ」


 と、花蓮かれんは目を輝かせながら、視線で物を指す。


 抹茶アイス&ストロベリーホイップ


 と、書かれた値札。お値段なんと六百円。やお手頃価格である。みやびは速攻で買うことを決めた。


「これ食べたいのか?」


 みやびの言葉に反応して、首を縦に振る花蓮かれん。その様子は小動物みたいで可愛らしい。


「僕もすぐに決めないとな」


 と、待ち遠しそうにしている花蓮かれんをよそに、急いでメニューを決めるみやび

 シンプルがいいと思ったみやびは、塩バターにすることにした。

 ちなみに、塩バターの値段は四百円で全商品の中で一番安い商品である。


「わ……わたしは、これ……で」

「かしこまりました♪」


 と、灯莉あかりは既に決めていたようで、店員に食べたいクレープを伝えていた。


「あと、これとこれを……」

「はい。以上で宜しいでしょうか?」

「大丈夫です」

「かしこまりました♪ お値段、千四百円です」


 みやびは言われた金額を払う。

 店員から「少々お待ちください♪」と、楽しげに言われたので、そばにあったテーブルで待つ。


「あれ」


 と、椅子に座った時にふと見たレシートで何かに気づいた。


「み……みやびくん、どうし……たの?」

灯莉あかりも僕と同じやつ選んだんだなって思ってさ」

「むぅ。い……いま気づいたの……?」


 レシートに、塩バターが二個、抹茶アイス&ストロベリーが一個と書かれていたのだ。

 灯莉あかりは頬を膨らませ、みやびに怒ってますよアピールをするが、その顔が可愛いので迫力がない。


「み……みやびくんと……おなじ……や……っ」


 徐々に声が小さくなる灯莉あかり。最終的にはそのまま俯いてしまった。


「まあいいよ。と、いうよりも……。花蓮かれん。こっちにこい」

「……?」

「あっ……」


 灯莉あかりは恥ずかしがってしまって、殆ど声に出せてなかった。ただ、なぜか服をちょこんとつまむ。


「クレープってこうやって作ってるんだね。お兄ちゃん」


 記憶を失っている花蓮かれんは、円を描きながら薄く伸ばし、生地が焼かれていく光景に目をキラキラさせていた。

 生地が焼いている最中、隣に置かれたクレープ生地に、砂糖と四角く切り揃えられたバターが乗せられる。

 その後すぐにクレープが折り畳まれ、クレープを入れる専用の、三角形のクレープ包装紙に入れられた。

 みやび灯莉あかりが頼んだ塩バターだ。

 既に一個作り終わっていたのか、クレープホルダーには同じ塩バターが既に刺さっており、その隣に出来立ての塩バターが入れられる。

 クレープ店員の手際の良さに感嘆するみやび

 間をおかず、花蓮かれんが頼んだクレープを作り始めた。


 クレープ生地の中央から扇型になるよう、ストロベリーホイップの線が描かれた。そこに、細かく刻まれたイチゴが散りばめられ、この時点でも充分美味しそうだったのだが、くるくると、クレープ生地が巻かれてからが本番と言わんばかりに、ディッシャーで掬われた抹茶アイスが乗せられる。その上からストロベリーソースがかけられ、最後に、スティックストロベリーチョコが刺された。


 そのボリューム満点のクレープが出来上がり、クレープ店員は花蓮かれんへ手渡す。

 みやび灯莉あかり花蓮かれんへ渡されたのを見るや否や席を立とうとするが、クレープ店員がクレープホルダーを持ってこちらへ来ており、花蓮かれんもその隣を歩いてきていた。


「お待たせしました♪ 塩バターでございます」

「ありがとうございます。いただきます」

「あ……ありがとう……ございます」


 みやび灯莉あかりはクレープを受け取ると、クレープ店員はキッチンカーへ戻った。

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