Op.1-5第5節

 その直後、花蓮かれんの部屋の扉がガチャリと開く。

 灯莉あかりに掛けた魔法が解ける。というのは、同時に、花蓮かれんにかけた魔法も解ける。


花蓮かれん?」


 みやび花蓮かれんにそう問いただす。


「あなた、誰」


 と、いつもの陽気な声とは正反対である、冷たい声を発する花蓮かれん


花蓮かれんの兄。みやびだよ」

「か……れん? みや……び?」

「そう、君は花蓮かれん。僕はみやび

「み……みやびくん。か……花蓮かれんちゃん、どうし……ちゃったの……?」


 花蓮かれんが記憶を失っているのを知っているみやびは、それがさも当たり前のように会話している。その光景を見て、未だに困惑している灯莉あかりは、思い切って聞いてみた。


「み……みやびくん……。花蓮かれん……ちゃん、どうし……ちゃったの…?」


 みやびは「そういえば」といった感じで


「記憶を失っているんだ。灯莉あかりが使う魔法の、反動だよ」

「だ……大丈夫、なの……?」

「大丈夫」


 その言葉を聞いた灯莉あかりは安堵する。


「か……花蓮かれんちゃん」

「何」


 花蓮かれんは冷たく言葉を放つ。刹那、灯莉あかりを起こす。


「か……花蓮かれんちゃん、わ……わたしのため……に、あ……」


 ありがとう


 と、そう言いながら灯莉あかり花蓮かれんの頭を、自分の胸へ抱き抱える。


「……」


 無言で、なされるがままになっている花蓮かれんの目から一筋の水滴が灯莉あかりの胸を濡らした。

 その様子を知る知らずか、みやびはちょうど会話が終わったであろう、灯莉あかりへ話始める。

 それは、花蓮かれんに関係していた。


花蓮かれんは、〈演奏者ディーバ〉として使える魔法はかなり、いや、世界的に見てもトップクラスで強い。それは確かだ」


 灯莉あかりはその言葉に耳を傾けながら灯莉あかりの頭を撫でる。


「だが、花蓮かれんが魔法を使うとそこから二十四時間という、制限時間が設けられる」


 灯莉あかりは自分が涙を流していることを見せたくないのか、それとも甘えたいと思っているのか、腕を灯莉あかりの背中へ回し始め、そのまま少し強く抱きしめる。


灯莉あかり?」


 なにをやっているのかと、思わずつぶやくみやびであるが、少し咳払いして話を続ける。


「最初の一回を使った段階で運動が出来なくなる。

 二回目はさらに全身に痛みが走る。

 三回目はさらに魔法が使えなくなる。

 と、言った具合に使った回数が多くなればなるほど代償はどんどん大きくなる」


 灯莉あかりみやびのそのセリフに、思わず撫でていた手を止めてしまう。


灯莉あかりは、その代償で記憶を失っているんだ。もちろん、灯莉あかり自身、それはわかって使っている」


 花蓮かれんは申し訳なさそうに灯莉あかりを見つめる。


「ただ」


 と、みやびが言った刹那、花蓮かれんは反射的にみやびの方へ向いた。


灯莉あかりは魔法を使うたびにその場に一つ、見えない『欠片』を落とすんだ。『代償になりうる情報が刻まれた欠片』を。灯莉あかりの代償が現れた後、持ち主が近づくと『欠片』は見えるようになり、自然に灯莉あかりへ取り込まれる」


 その話を聞いた花蓮かれん


「そ……それじゃ、い、今から……集めに行くの?」


 みやびへ、明るい声を出しながら問いかける。


灯莉あかり、手伝ってくれるか?」

「う……うん。わ……わたしのせいで、こう……なっちゃったし、い……入れるの、てつだわせ……て?」


 灯莉あかりはそう言い、強い決心と共に手に力を入れる。


「ふご〜っ!! んん〜!!」


 と、うめき声が聴こえ、なにやら熱い風が胸をくすぐっていることに気づいた灯莉あかり

 そこを見ると、灯莉あかりの胸へ埋もれている花蓮かれんが、酸素を求めて悶えているところだった。

 灯莉あかりはすぐさま花蓮かれんのことを解放させる。

 花蓮かれんは顔を赤くしながら、ポカポカと灯莉あかりへ軽く突くように叩いていた。

 その様子を見たみやびは思わず笑うのであった。


          ♪

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