Op.1-5第4節

 急いで家へ戻ったみやび

 そこにはソファで寝ている灯莉あかりと、床で寝そべっている花蓮かれん


「にぃ……?」

「ただいま」


 花蓮かれんは、みやびの姿を見る。


「にぃ、疲れちゃったよ」


 と、力無く微笑む。


「充分頑張ったよ。花蓮かれん


 みやび花蓮かれんの身体を、お姫様抱っこし、一階にある花蓮かれんの部屋へ行き、ベッドに寝かせた。

 みやびは背中に背負ってるキーボードを取り出し、魔法を発動させる。


「にぃ、ありが……」


 と、花蓮かれんはそこまで言うと、そのまま眠りに落ちた。


花蓮かれん、お疲れさま。ゆっくり休んで」


 このまま約一日、眠り続けることでみやびの継続治癒魔法で、今までと元通りに活動することができる。


「次は……」


 みやび花蓮かれんの部屋を出て、灯莉あかりの元へ戻る。

 先ほどと同じ、継続治癒魔法をかけた。


 灯莉あかりは元から眠りについてるため、今からさらに二十四時間、眠り続けるのは確定する。


 みやびはスマホ端末を取り出し、学園へ連絡をするため、電話を掛ける。


「お疲れさまです」

九重ここのえ。どうした』

「実は……」


 みやびはさっき起きた出来事を多少端折はしょりながら、無事に保護出来たことを伝える。

 みやびの妹である花蓮かれんも現場に行き、相手に攻撃を加えようと仕掛けたのは濁したが……


「という報告です」

『報告感謝する。東雲しののめの容態は無事か?』

「はい。今のところは問題ないです。ただ、疲れて眠っているので、今はそっとしといてあげてください」

『もし、問題があったらすぐに連絡する様に。九重ここのえ、お疲れさま。ゆっくり休みなさい』

「お気遣いありがとうございます。では、失礼します」


 と、みやびは言うと、そのまま通話を終了する。


「あと、のぞみにも……」


 みやびのぞみにも灯莉あかりが無事ということを電話で伝えた。

 のぞみ灯莉あかりの無事を喜び、ほっと安堵していた。


「じゃ、僕は寝ないで見守るか」


 みやびは念のために灯莉あかり花蓮かれんの面倒を見る。

 二十四時間、されども二十四時間。

 何も起きないことの方が普通だが、念には念を入れるみやびであった。


          ♪


 あなたにまだ感情が多少残っていた頃。


 ひとりの、ボロボロの服に身を包んだ、とても貧しそうな人間を助けました。

 その人間は、あなたのことを酷く怯えた目で見ていましたが、あなたは優しく微笑みかけます。


「怖がらなくて大丈夫よ」


 あなたはそう問いかけます。

 人間は、目の前に転がって動かない、かつて、肉親であった肉塊を一瞥します。


「もしかして、両親が殺されたのが嫌だった?」


 あなたは感情はありましたが、命に興味がありません。命が亡くなったという事実を伝えることになんら抵抗もありませんでした。


 人間は、あろうことか、嫌ではないと、首を横に振ります。

 それもそのはず、人間のことを奴隷のように扱う両親は、ストレスを発散するためだけに殴り、蹴り、はたき、締めるという行為が日常となっている、正真正銘、社会のゴミだったためです。


「そう。それならよかったわ。では、わたしはこれで」


 あなたは、人間の元を去ろうと、背中を向けました。

 すると、あなたは立ち止まります。

 いえ、立ち止まるしかなかったのです。


「あら、どうしたの? なにかわたしに言いたいこと、あるの?」


 人間は首を縦に振り、不安そうな表情で、あなたに思いを伝えます。

 それを聞いたあなたは、微笑みます。

 そして、ある提案をすると、人間は不安そうな表情を崩すことなく、あなたに……


          ♪


「……?」


 灯莉あかりは目を開けました。


「あ……あれ、わたし……」


 と、灯莉あかりは誘拐された後の記憶が全くないせいで、混乱していた。


灯莉あかり……?」


 その声を聞いて、灯莉あかりは思わず涙が溢れる。


「み……みやびくん……。わたし……」


 灯莉あかりは身体を起こそうとするが、うまく起き上がらない。


「あ……れ? わ……わたしの身体、ど……どうしちゃったの?」

灯莉あかり。落ち着いて聞いてくれ」


 みやびはそう前置きをする。


灯莉あかりは二日間眠っていたんだ。身体は大丈夫だ。もう少し経ったら徐々に動かせるようになる」

「よ……よかった……」


 灯莉あかりは安堵する。


「わ……わたしのせいで、みやびくんに……迷惑が……」

灯莉あかりが僕に最初に言ったこと、忘れた?」

「え……?」


 灯莉あかりは質問の意味を理解しようとするが


「『わたしの〈演奏研修生スタジエール〉になって』って言っただろ?」

「あ……」

「僕は、灯莉あかりの〈演奏研修生スタジエール〉、パートナーだ。いくらでも迷惑かけてもいい。そうやって、自分だけを責めないでくれ。僕も灯莉あかりを守れなかった。ごめんな」

「み……みやびくんの……せいじゃ……ないよ……」


 と、自分を責め続ける灯莉あかり

 灯莉あかりはみんなに対して優しい。

 しかし、優しすぎる。危ないくらいに。


灯莉あかり。もう自分を責めるな。過ぎたことだ。次、同じことを起こらないようにすればいい」


 みやびはそう言いながら、灯莉あかりの頭を撫でた。




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