Op.1-5第3節1拍

 灯莉あかりは夜、一人で外に出歩いていた。

 コンビニへ行き、夕飯として食べる弁当をレジへ持っていく。


 ピッ……ピッ……


 と、店内にかかっているBGMバッググラウンドミュージックと、レジから響く、バーコードを読み取っている音。

 これらの音は日常的に聞く音であり、灯莉あかりが料理できないってこともわかる一端である。


「い……いいかな?」


 灯莉あかりは自問自答して、コンビニを出る。

 ディーバ魔法学園の寮に住んでいる灯莉あかりは、学園の敷地内にあるコンビニへ毎日、夕飯の買い出しに来ている。

 そこで買うバニラソフトクリームは絶品で、他のコンビニチェーン店ではなぜやらないのだろうと不思議に思うのだ。


 寮の庭にあるベンチに座って、バニラソフトクリームを食べる灯莉あかり

 今の時期は気温差が激しく、寒い夜もあれば暑い夜もあるため、体調管理しっかりしないと大変と、灯莉あかりは思いつつ頬張る。

 今日は少し暑い夜であるため、ソフトクリームの冷たさが身体に染みる。


「んっ……おいしい……」


 灯莉あかりは思わず独り言をする。

 今日は頑張ったからか、いつもと同じ味なはずなのにいつもより一段と美味しい。

 サクサクとしたアイスクリームコーンの食感と、とろりとしたアイスクリームの食感が混ざり合う。


「み……みやびくんと一緒に……食べたい……」


 みやびと出会ってから、〈解放フォルテ〉を使うことで見始めた

 その不安を拭いたい灯莉あかりは、みやびのことを思う頻度が増えた。


「わ……わたし、しつこい……って思われてる……のかな……」


 と、思ってしまう。

 そんな不安を知らぬか、灯莉あかりへ近づく怪しい影が二つあった。


「お嬢ちゃん、今暇?」

「楽しいことしよーよ」


 と、男二人組は灯莉あかりの肩に触れる。


「い……いやです……」


 灯莉あかりは恐怖と男に触れられることに対する事から、声が震えてしまう。


「ほら、拒否しなくたって、楽しい事してあげるよ?」


 と、ベンチの背もたれにくっつけていたはずの背中に割り込む、男の手。

 抵抗しようと少しもがくが、その抵抗は虚しく、男たちの


「あっ……あっ……」


 と、水を探す魚のように、口をぱくぱくし始め、目からは涙がとめどなく溢れ始める。


「た……助けて……みやび……くん……!!!」


 灯莉あかりは思わず叫ぶが、その願いも虚しく、連れ去られてしまった。


 後に残ったのは、コンビニで買った商品が入った袋と、静粛に包まれた空間であった。


          ♪


 次の日、みやびは絶望感で埋め尽くされた。

 学園からの連絡で、灯莉あかりが拉致されたとの連絡があったのだ。

 みやびはすぐさま学園へ急行する。


 職員室


 と掛けられたプレートの扉を開くみやび

 すると、神林かんばやし先生がみやびのことに気づき、別室へ行くように指示される。


 別室へ案内されたみやびは、無理矢理落ち着こうとする。


九重ここのえ東雲しののめが誘拐されたというのは、実は世間には知らされてない」


 と、神林かんばやし先生が言う。


「今、危害が喰らわれているかどうかは正直わからない。ただ、今後何かしら進展があったら連絡する。質問があれば遠慮なく」

「質問です。仮に灯莉あかりがいる場所がわかり、そこを偵察する際、防御魔法の使用許可を得てよろしいでしょうか」

「許可する。ただ、無謀なことはしないようにしてくれ」


 と、神林かんばやし先生は言う。

 基本的に魔法を一般人に使用できないため、相手に危害を加えない、防御魔法のみの使用許可を得ることが可能だ。

 これは、相手も魔法が使える〈演奏者ディーバ〉の場合、相手からの襲撃を受けてしまう可能性があるからだ。


「今は精霊魔法による精霊を使って灯莉あかりの存在を調べている最中だ」

「精霊魔法……」


 その魔法に心あたりがある。


のぞみですか?」

「そうだ。のぞみはもう少し早く来てもらった際に、偵察してくれと旨を伝えた」

のぞみにも迷惑かけてしまったな……。神林かんばやし先生、次、のぞみにあったら、『迷惑かけてごめんなさい』と伝えてもらってもいいですか?」

「わかった。伝えておく」


 と、神林かんばやし先生が快く受けてくれ、このまま解散となった。


 廊下へ出るや否や、近くで待機していた花蓮かれんが〈転移術テレポート〉でみやびを家へ送る。


花蓮かれん灯莉あかりが連れ去られた」

「先輩が……。わかった。ちょっと探してみるね」


 と、花蓮かれんが、ベースを取り出し、魔法を再現する。


「〈生体捜索サーチ・ホムン〉!」


 キュイーーーーーーン……


 と、目を閉じた花蓮かれん

 そこからは、とても人間から発せられているとは思えない駆動音を音を立てながら、捜索する花蓮かれん

 暫くすると、音が鳴り止み、花蓮かれんが目を開く。


「にぃ、こっちの方面にそれっぽい人がいるよっ」

「ありがとう。それじゃ、行こうか」


 みやび花蓮かれんの手を取る。

 すると、花蓮かれんは〈転移術テレポート〉の魔法を唱え、ある廃病院へと転送された。

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