Op.1-5第2節

 今日はゴールデンウィーク三日目。みやび灯莉あかりのぞみに呼ばれ、学園にある施設のうちの一つであるスタジオ一◯一号室へ来ていた。

 スタジオは全ての部屋が防音になっているため、基本的に楽器の練習をしたい〈演奏研修生スタジエール〉はここを利用するのがほとんどだ。


「ここ、やっぱり難しいな」


 みやびはキーボードで灯莉あかりの新曲を練習しているのだが、今回は連弾と呼ばれる、一曲を二人でピアノを弾くという弾き方を採用した。


 灯莉あかり自身がピアノを弾きながら魔法を発動するために歌う場合、基本的に魔法が発動しない。発動しても再現度が弱いと言うデメリットしかない。

 それをもう一人の〈演奏者ディーバ〉が弾くことでそのデメリットを無くし、〈歌姫メロディエスト〉本来の強さである詠唱速度の時短を実現できた。


 なぜ連弾をするのかと言うところだが、〈演奏者ディーバ〉は曲を作る際、再現したい魔法を想像すると、頭の中にフレーズが思い浮かぶ。そこから音をとるのだが、全ての音を取ると人間に弾くことが不可能な曲が出来上がってしまうため、それを自分で弾けるように音の数を減らす、簡略化と言う作業をして一つの曲を作る。

 もちろん、簡略化をすると弾きやすくなり、魔法を再現できるようになるのだが、代わりに簡略化した分だけ魔法再現度は落ちる。

 では、魔法再現度をなるべく落とさないようにするためには、フレーズの音をなるべく簡略化しないことだ。


 そこで、連弾と言う二人で一つの曲を弾くことで、音の数を増やせる。これにより再現度をあまり落とすことなく魔法を扱えるようになるのだが……


「なんでこんなに音符が連なってるんだ……」

「弱音を吐くのはみっともないですわ」

「とは言っても」

「み……みやびくん、がんば……って」


 と、目の前にある楽譜の音符の量を見て戦慄し、みやびに、のぞみ灯莉あかりがそれぞれ言う。


「唯一の救いは、再現するまでの時間が早いから、一曲一曲が短いってことだな。よし、頑張るか」


 と、自分自身に言い聞かせるみやび


 一方、のぞみ灯莉あかりが書いた楽譜の清書として、ノートパソコンで、楽譜作成ソフトを使い打ち込む。

 灯莉あかりみやびとは対照的に、自分の曲と言うこともあってか、スラスラと弾いていた。

 インスト部分が終わると、自分の歌声も載せ、歌詞を紡ぐ。歌を歌っているのに、演奏技術は衰えないのが不思議だなと思うみやびであるが、サビへ入るや否や別のことを考える余裕も無くなってくる。


「〜♪」


 灯莉あかりは楽しそうに、愛おしそうに歌詞スペルを紡ぐ。


 サビが終わると魔法をいつ再現しても大丈夫な、インストの繰り返し部分に入る。

 インストを二周だけすると、みやび灯莉あかりは曲を終える。


「はぅ……楽しい……」

「疲れた……」


 と、光悦感に浸る灯莉あかりと疲労感あ襲うみやび


「一旦休憩していい?」

「い……いいよ」


 灯莉あかりは弾きながらみやびの提案を返す。


「んーーー……、終わったわーーー!」


 みやびが休憩し始めたと同時に、のぞみは作業終了とばかりに背筋を伸ばす。


東雲しののめ灯莉あかりさん、これでどうかしら」


 手にしていたノートパソコンを見せるのぞみ。その楽譜を全て見た灯莉あかりは満足そうに頷く。


「転送開始するわ!」


 と、のぞみは元気よく楽譜のデータをスタジオ内にある印刷機へ送ると、それに応じて動き始め、楽譜が印刷され始めた。


 ウイーンガッシャンガッシャン


 と、稼働音が鳴り響いていたが、暫くすると停止する。


 のぞみは印刷された楽譜を取り、順番通りになるように楽譜ファイルへ入れ、みやび灯莉あかりに手渡してくれた。


「僕のパート、さらに技術が要求されてるような気がするんだけど」

「わ……私の〈演奏研修生スタジエール〉だから、頑張ってほしい……かな?」


 みやび灯莉あかりへ文句を言うと、灯莉あかりは適当にそれを流す。


「勘弁してくれ……」


 と、みやびは言うのだが、なんだかんだで灯莉あかりの曲をちゃんと弾けるまで練習するので、灯莉あかりはそこら辺の心配はしていないのであった。


        ♪


 みやびは家へ帰宅をした。


「にぃ!今日はにぃが大好物の夕食にしてみたよ!」


 と、花蓮かれんがパタパタと玄関まで大きな声で言いながら駆け寄ってくる。


「それは嬉しいな。荷物置いたらそっち向かうよ」


 みやび花蓮かれんにそう返答すると、自分の部屋へ向かう。


 自分の部屋に入ったみやびは、いつも持ち運んでるキーボードを立てかけ、リビングへ向かう。


 花蓮かれんの手料理はとても美味しい。世界一と言っても過言ではない。と思うみやび


「今月末だっけ? にぃのイルミネーションでの初ライブ!」

「まだ決まったわけではないけど、出られるように練習するよ」

「形式は『三重奏トリオ』だけど、にぃ一人でも勝てるもんね! だってにぃは……」

を使う気はないからね? 正々堂々と戦わないと不公平だ」

「むー」

「まあ、負けないように努力はするからさ、応援しててくれる?」

「うん!」


 みやび花蓮かれんのためにも、今度行われる選抜を勝ち進めないとな。と、思うのであった。

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