Op.1-4第5節

「あれ、灯莉あかり……?」


 演習場へ入るや否や、みやびは困惑した声を上げた。

 それもそのはず、いるとは思ってなかった人物、灯莉あかりがこちらに背中を佇んでいた。


「び……びっくりさせちゃった……かな?」


 灯莉あかりが振り返りながら言う。


九重ここのえみやびくんに伝えるなって、東雲しののめ灯莉あかりさんから言われたわ」


 と、のぞみが言う。


「今日は、私の魔法を、基本的に使うもの全て見せるわ。東雲しののめ灯莉あかりさん、お相手よろしくね」

「わ……わかったよ」


 灯莉あかりみやびの近くへ来る。対照的に、のぞみみやび達から離れた位置へ向かう。


「み……みやびくん、防御魔法……弾いて……?」

「ああ、ごめん、忘れてた」


 魔法を見せてもらえる場ではあるが、灯莉あかりはほぼ全てに魔法において、みやびの演奏が必要不可欠な〈歌姫メロディエスト〉だ。

 みやびは謝りつつ灯莉あかりが持っていた、灯莉あかり自身のキーボードを受け取る。

 据え置き型のキーボードを少し弾き、指を多少動かせるようにする。


「いくよ」


 みやびはそう宣言し、灯莉あかりの防御魔法、〈要塞フォーレ〉を弾く。

 たった八小節で再現できる灯莉あかりの魔法。


「守ってっ!!」


 灯莉あかりがそう叫ぶと、目の前に不可視の壁が浮かぶ。


「準備はいい? では行くわ! 森の精霊、〈カーバンクル〉!」


 しばらくしてからのぞみは空へ手を掲げ、魔法を発動すると、眩しい光が覆う。

 どんどんと縮小していく光。そこから現れたのは、小さく美しい黄緑色の精霊。

 ふわふわと浮かび上がりながらのぞみの周りを巡り巡る。

 のぞみは歌いつつ、〈カーバンクル〉を指揮する。

 カーバンクルはクルルと鳴きながら、口を開く。

 シュウシュウと、その小さな体躯には似合わない音を立てた後、光が発射される。


 バッギィィィ-----……


 と、甲高い音と割れた音が混じり、最終的に不協和音となり襲い掛かる。


「なっ……!?」


 みやびは絶句する。

 一瞬で灯莉あかりが再現した〈要塞フォーレ〉を破壊しつつも有り余る破壊力。

 すぐ後ろに着弾した衝撃波となってみやび灯莉あかりに襲い掛かり、気づいたら宙を舞っていた。


「〈解放フォルテ〉!!」


 と、灯莉あかりが切羽詰まった声で魔法を再現。


「えっ?」


 と、みやびがおかしいことに気がつく。目の前の光景が、とてもゆっくり動いていることに。


灯莉あかりの〈解放フォルテ〉を掛けられたのか」

 みやび灯莉あかりと出会った、最初の日の会話からそう思った。すぐさま、灯莉あかりの方へと目を配る。

 そこには、灯莉あかりが意識がなく、仰向けのまま、頭から落下するモーションへ入り始める。

 みやび灯莉あかりを助けるため、自身の体勢を整えると、そのまま地面との高さをみると、みやびの足がぎりぎり地面へ届くくらいまで迫っていた。

 みやびはそのまま足を地面へ触ると、〈解放フォルテ〉の力を利用し、一瞬だけ踏みとどまることに成功。

 そのまま、灯莉あかりのいる方へ力任せに地面を蹴る。すると、傍目ではたった一瞬、みやびの視界ではそこそこの時間を掛けて灯莉あかりへ追いつく。灯莉あかりの上を行くみやびはそのまま灯莉あかりを抱き抱え、身体の位置を反転させ、みやびが下へ向いた状態となり……


 そこでみやびに掛かった〈解放フォルテ〉の影響がなくなる。

 地面とさほど距離がなかったためか、すぐにみやびは背中から落ちた。


「クッ……」


 と、肺から強制的に空気を吐き出されそうになるのを必死で堪え、地面を滑る。いくら〈幻想障壁デュハーヴァ〉で魔法のダメージがないとは言っても衝撃波や物理ダメージは食らうため、背中が擦れ、鋭い痛みが大部分を襲った。

 少しずつ滑る速度が落ち、完全に停止した。

 灯莉あかりは未だに意識がないが、その身体には傷一つ見当たらない。みやび灯莉あかりのことを守ったのだ。


「ごめんなさい! やりすぎましたわ!」


 と、遠くから聞こえるのぞみの声。

 みやびの視界もぼやけ、のぞみの声も段々と聞こえなくなる。

「もしかして……、〈解放フォルテ〉の……」と、みやびは思う。〈解放フォルテ〉の反動を喰らい、そのまま意識を失った。


         ♪

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