Op.1-4第4節

 みやびはふと窓の外を見る。すっかり夜になっており、街灯によるイルミネーションが瞳に映る。


「……すっかり夜だな」


 と、みやびはスマホ端末の電源を落とし、未だに抱きついて寝ている灯莉あかりを起こしにかかる。


灯莉あかり、起きろ」

「う……ん」


 みやびは声をかけながら灯莉あかりの身体を揺さぶると、灯莉あかりは寝ぼけた声を出し、みやびから離れる。

 キョロキョロと、周りを見る灯莉あかり。視界にみやびの姿を捉えると


「み……みやびくん、ご……ご……ご……」

「ぷっ……」


 慌てる灯莉あかりを見て思わず吹き出してしまうみやび


「むぅ」


 と、それを見た灯莉あかりは、恥ずかしがりながら頬を膨らませた。


「ごめんな」

「ゆ……ゆるしてあ、あげない」


 ぷいっと、明後日の方向を向く灯莉あかり

 すぐに灯莉あかりみやびの方へ振り向く。


「う……うそだよ」


 と、灯莉あかりは少し微笑む。


「許してもらったことだし、帰るか」

「そ、そうだね」


 みやびは伝票を取ろうとした。


「あれ?」


 違和感を覚えた。本来あるはずの場所である、伝票立てに伝票がないのである。


「もしかして、のぞみが払ってくれたのか?」


 と、みやびはスマホ端末でのぞみへメールで連絡を取ると、すぐに返信が返ってきて思わず「早っ!?」と驚く。

 返信には『もちろん払っておいたわ』と一言書かれていた。

 みやびは明日会う時に自分達の分の代金を返そうと考える。


「お金は払ってくれたらしいから、次会ったらお礼言っておこうな」

「う……うん」


 と、みやび灯莉あかりへ言い、灯莉あかりは返事を返す。

 そのまま、店を後にした。


          ♪


 翌日の昼、みやびは約束通りファミレスへ来ていた。目の前にのぞみがいるが、今日は隣に灯莉あかりがいない。


「とりあえず、楽譜これを渡しておくわ。見るのは家に帰ってからにしてほしいの。なんていうか、その……、恥ずかしいから……」


 と、楽譜を渡しつつモジモジと恥じらうのぞみ。やはり、いつもと違う光景にみやび


「なんか変な物食べたのかな」

「食べるわけないでしょ」

「そうだよね……」


 と、秒で言葉を返される。


「恥ずかしいのは本当なのよ。楽譜を見られるってことは、恥ずかしいってことだわ」

「説明になってないんだけど……」


 みやびは呆れる。


「恥ずかしいだなんて嘘だわ、ごめんなさい。ところで九重ここのえみやびくん。このあと、予定ってあるの?」


 何を引っ掛けようとしたのかは定かではないが、のぞみのこう言うところは好感が持てる。


「特に予定はないけど」

「ふふっ、ありがと。早速、付いてきてくれるかしら」


 と、席を立つのぞみ

 その手が伝票へと伸ばされるのを見たみやびが止める。


「昨日は払ってもらったから、今日は僕が払うよ」

「ふふっ、好きになっちゃうわ」


 と、妖艶な笑みを浮かべるのぞみ

 その笑みを見たみやびは一瞬ドキッと心臓が鳴るが、すぐに落ち着く。


揶揄からかうのはぜひやめて」


 みやびはそう言いながらレジへ向かう。

 のぞみは「効かないの!?」と驚きつつ、みやびの後を追った。


          ♪


 レストランを出た二人は、のぞみが行きたい場所へと向かうことになり、みやびはその後をつける形となっていた。


「あれ、みやびじゃねーか」


 と、後ろから声をかけられた。


森崎もりさきと、ついでにシルフィが一緒だな。いつも通り……」

「『ついでに』とは愚問ですこと」


 森崎もりさきとシルフィドールと言う、いつもの二人がそこにいた。


「ところでみやび、そいつは新しい女か?」

「私は九重ここのえみやびくんの新しい女ですわ」

「否定しろよ!? 認めるなよ!?」

「わたくしもみやびさんの女ですの。取らないでくださいまし?」

「「違うだろ!?」」


 と、女性陣はとんでもないことを互いに口にしたせいで、最後にはみやび森崎もりさきが声をハモらせる羽目になる。


「冗談だわ」

「冗談ですの」


 同じタイミングで冗談と言う二人。

 ここが学園の敷地内のお陰で、ほかに聞かれている人がいないところだけが救いだろうか。


「ところで、お二人さんどこに行かれるんですの?」


 みやびは聞かされてはいないのだが、粗方予想はつく。


「私の魔法を魅せるんですわ。今後の『三重奏トリオ』のために」


 と、みやびが予想していた通り、魔法を見せるためだった。


「『三重奏トリオ』に出るのか、みやび

「そういう約束しちゃってたからな。森崎もりさきたちは?」

「俺たちはでねー」


 そういう選択もありだろう。


「なんか『二重奏デュオ』でも「めんどー」って思ってるのになんで『三重奏トリオ』の方がめんどー」

「わたくしも今のままでいいですの。とても面倒なきがしまして」


 面倒くさがり屋コンビだった。


「とりあえず、今部屋を押さえてるっぽいし、時間もあまり多くはないから、立ち話はこれくらいでも大丈夫か?」

「ああ、わりー。手間を取らせたな」


 森崎もりさきがそう言い「頑張れよ」と付け加えてくれた。そのまま背中を向けて歩き始める。


「頑張ってくださいまし。応援していますの」


 と、森崎もりさきの後をシルフィドールが追う形で歩くことになった。


「結構いいコンビですわね、あの二人」

「似た物同士だからね、相性はいいんだろう」

「あら? 私たちも相性はいいですわよ? 主に夜の」

「急に揶揄からかうのは心臓に悪いから是非やめて!?」


 と、みやびはこの後もこんな感じだろうなと思うのであった。

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