Op.1-4第3節

 放課後、みやび灯莉あかりは二週間ぶりに学園側にあるファミレスへと来ていた。

 言うまでもなく、二人が座ってる席の反対側にのぞみが座る。これも二週間前と同じだ。


のぞみが言った通りになったな」

「ふふっ、女の子の〈演奏者ディーバ〉の救世主だわ」


 と、のぞみは当然のように話す。

 まあ、のぞみ自身が余りものだったのであるが。


「約束は約束だ。『三重奏トリオ』のメンバーへようこそ」


 みやびはそう言いながら手を前へ出す。


「よろしくおねがいしますわ」


 のぞみも手を前へ出し、握手を交わす。

 握手が終わると、みやびの着ているブラザーの裾を灯莉あかりが優しく摘む。それと同時に、灯莉あかりみやびへくっついた。

 みやびはその行為にドキドキと鼓動が大きくなる。

 「邪念撲滅……邪念撲滅……邪念撲滅……」

 と思い、そんなみやびの思考を読み取っているのか定かではないが、のぞみがニヤニヤとこちらを観察していた。


「ラブラブですわね」

「み……みやびくんは、わ……わたしのなのっ……!」

のぞみ!?」


 灯莉あかりは、のぞみの発言に被せるように自分のもの発言をする。

 みやびは驚いたせいで、声が裏返ってしまう。


「別に九重ここのえみやびくんのことを取る気はないわ」

「そ……それならいいけど」


 灯莉あかりの物ではないからな?と、みやびは思ったのも束の間


「ただ、抱きついたりはしてしまうかも……」

「お願いだから是非やめてっ!?」


 と、みやびはすぐさまツッコミをした。


「むぅ」


 灯莉あかりみやびの腕へ自分の腕を絡める。


灯莉あかり、なんでそこで抱きつくんだ」


 と、みやびは講義の声を上げるが、灯莉あかりはさらに抱きついてきて、顔まで埋めた。


「嫉妬してるのかしら」


 と、揶揄からかうように言うが、灯莉あかりは何も反応を示さなくなった。


「まあ、いいわ」

「良くないよ……」

「『三重奏トリオ』を組むにあたって、私の得意属性とかは共有しておくわ」


 と、のぞみはスマホ端末を操作し始める。

 そのスマホ端末の画面をみやびに差し出した。そこには


 得意属性:土属性

 系統:召喚系


 とだけ書かれていた。

 「楽譜が有れば、ある程度はそこから読み取れる情報があるのにな」と、みやびは思う。


「一応楽譜はあるから、それは後で渡すわ。今は持ち合わせてないの」

「明日には渡せる?」

「構わないわ。そしたら、明日の昼十二時にここで待ち合わせってことでどうかしら」

「わかった」


 と、みやびのぞみは約束を交わし合った。


「今日は遅くなる前に帰らせてもらうわ」


 と、席を立ち、レジへ向かうのぞみ

 みやび灯莉あかりが抱きついているせいで、動けずに佇んでいる。


「離れちゃ……いや……」


 すると、今まで何も反応がなかった灯莉あかりが急に喋り始めた。

 しかし、みやびの腕から離れようとはしなかった。


灯莉あかり……?」


 と、みやびは声を掛けるが反応がない。

 みやびは耳をすますと、周りのガヤガヤとした音にまぎれて、灯莉あかりの規則正しい寝息が聞こえてきた。


「寝てるし……」


 みやびはブレザーを脱ぎ、そっと灯莉あかりの身体へ掛ける。

 さっき身体をくっ付けてきたのは単に眠たかったからなのかもしれないと、みやびは思った。


「それにしても、『三重奏トリオ』のルール、三人で十曲までしか演奏できないのは痛いな。召喚系統の魔法だったら有利に働くとは思うけど」


 と、みやび灯莉あかりが起きるまで戦略を練ることにした。

 『三重奏トリオ』の形式上、一人あたりおよそ三曲しか演奏ができないルールに加え、自分と相手の属性がさらに一つ増えるため、より相手との相性のことも考えないといけない。

 特に、属性相性よりも重要視されているのが系統だ。

 系統を大きく分けると、放射系、範囲系、操作系、召喚系と基本的にはこの四つに分けられる。


 放射系と呼ばれる系統は、威力が高かったり、連射で攻撃の手数を増やせるというメリットがあるが、放物線で、直線的にしか進むことができない挙句、単調なので基本的に敵に避けられるため、一人では動きを制限することしか出来なくなるデメリットもある。


 範囲系と呼ばれる系統は、魔法が及ぼす範囲を自由に変えられ、相手に確実にダメージを与えたり、環境変化を変えられるというメリットがあるが、効果範囲を広くしようとすると、その分詠唱する時間も長くなる挙句、一回しか発動できないと言うデメリットがある。


 操作系と呼ばれる系統は、たとえば放射系の魔法と組み合わせると、本来放物線でしか描けない軌道が自由に変えられるため、相手をずっと追い続けるホーミングなどとして、作用することができるというメリットがあるが、単体では何も効果がない挙句、魔法の威力を底上げしたりすることもできないというデメリットもある。


 召喚系と呼ばれる系統は、たとえば巨大な鳥を召喚し、その背中に乗りながら戦うこともできたり、甲冑を着た剣士を召喚することで、自分自身と剣士、二人で攻撃を加えることもできたりもする。召喚されるものに応じてメリットも変わってくるが、基本的には、一つの曲で永遠と相手を攻撃することができると言うメリットがあるが、詠唱速度が異常に長いというデメリットがある。


 事前にチームデュオ・トリオの相性を確認し、それに応じて再現する魔法を決め、連携を取るのがライブでの一般的な行為であるため、一人増えるだけでその連携がより複雑なものへとなっていく。


「というか、なんか僕が戦略立てる人ってなってない? 大丈夫?」


 みやびは色々と考えている最中に、ふと思ったことを口にだした。


「まあ、何もできない僕が唯一役に立てるってわけでもあるし、問題はないけど」


 と、みやびはそんな現実を受け入れるのであった。

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