Op.1-4第2節

 灯莉あかりは帰宅した。

 今日はとても機嫌が良い灯莉あかりは、帰宅早々脱衣所へ向かう。


「〜♪」


 鼻歌混じりに衣服を脱ぎ始める。

 そこそこ汗をかいていたため、晒された素肌が少しベタついてて気持ちが悪い。


「せ……洗濯は後でも、だ……大丈夫だよ……ね?」


 と、脱いだ服を洗濯機へ放り込み、産まれたままの姿へとなった灯莉あかりはシャワー室へ入った。

 レバーを回すと、そこから冷たい水が出てくる。

 灯莉あかりは冷たい水を全身に浴びた。


「き……気持ち……いい」


 火照った身体に降り注ぐ冷たい水が心地よく、徐々に暖かいお湯へと変わると今度は疲れが吹き飛び、生き返る感じがした。

 少し浴びた後、身体を洗いはじめるため、泡を自分の身体へ纏い始めたところ、脳裏にみやびが浮かび上がる。


「み……みやびくんのこと、ひ……膝枕しちゃった」


 数刻前に灯莉あかり自身が行ってたことを思い返し、嬉しさで心が踊る。

 そこから少し前の記憶を辿ると、灯莉あかりが膝枕されてたことに恥ずかしさを覚えた。

 さらに記憶を辿り、夢で見た光景を再度思い出した。


  あなたは運命の選択を迫られました


 という一文はなにを意味しているのであろうか。

 みやびと出会った日の夕方に見た夢では、

 『わたし』自身が戦場へ駆り出され、次々と敵を無感情に倒していた。

 これと何か関係があるのか。と、思う。灯莉あかりは考えてみるが、やはり繋がっているとは思えなかった。


「た……多分、わ、わたしの気にしすぎ……だよね?」


 と、自分の胸へ手を当てながら呟いた。

 身体を洗う行為の途中だったというのを、身体についた泡で思い出し、急いで洗う。

 ボディタオルで隅々まで洗い、お湯で泡を残さず流す。

 最後に、温度を変えられるバルブを捻り、水を出し、全身へと浴びた。

 水冷から始まり、水冷で終わる、灯莉あかりのお風呂におけるルーティーンだ。

 冷やしすぎると身体に毒なので、少しだけ浴びるとそのままシャワーを止め、脱衣所へと戻る。


 灯莉あかりは、身体をバスタオルで拭きながらこう思う。


「あ……明日も頑張らない……とっ」


 健気で頑張り屋の灯莉あかりはお風呂を終えるとそのままベットへ、自身の身体は重力に任せ、目を閉じてそのまま意識を旅立たせた。


          ♪


 二週間程度が過ぎた、金曜日。

 今日を終えるとゴールデンウィークという連休へ突入する日であり、みやびはすっかり浮かれていた。

 今日の実習では念願の初勝利ということもあり、左隣に座っている灯莉あかりも上機嫌であった。

 やはり、〈調律チューン〉の効果は絶大で、脳内での会話によって、いい連携ができたことによる勝利。

 しかし、入学してから考えると勝率は悪く、四戦一勝という。


「み……みやび……くん」


 灯莉あかりみやびへ声をかけた。


「きょ……きょう、先生がだ……大事な話が、あるから……って、なんのこと……だろうね?」

「うーん、そう言われたら僕にもわからないな」

「し……しかも全員、残るように……っていうし……」

「逆に僕たちが残れってなったらそれはそれで困ると思う」

「あー、たしかに、そ……それもそうだね……」


 などと、雑談をしていると急にガラガラと、ドアが開き神林かんばやし先生が教団へ立つ。


「えー、明日から連休になるが、ここでみんなに一つ、連絡だ」


 と、一呼吸置き


「五月二十九日、スプリングイルミネーションが開催されるのは知ってるな?」


 クラスメイト達は黙って頷く。


「そこで、スプリングイルミネーションへ出場する選手を二組、初等生から選ぶ事になった」


 ざわつきが起きる。「え、いつもは中等生以上が参加するんじゃないの?」「俺たちにも出場するチャンスが!?」などといった、疑問や歓喜によって埋め尽くされた。


「もちろん、出場する選手は五月の連休後から選抜を行う。そして、つい最近できた、新しいルールのデモンストレーションとしての参加資格が得られることになった」


 みやび新しいルールその言葉にある一点へ視線を向けた。そこにいるにはのぞみだ。

 のぞみは、さも当たり前のように佇んでいることでみやびにはわかってしまった。


「えー、新しいルールなんだが、『三重奏トリオマッチ』だ。男一人、女二人で一つのペアになる。他のルールはほとんど変わらん。連休中に今余っている女子は連休が終わるまでに、一緒に戦ってくれるメンバーを選ぶように。以上」


 と、いい、選抜のルールが記載されたプリントを全員に渡す。

 みやびはそのプリントに視線を落とすと、やはり、二週間前のカフェでのぞみが言っていたことが書かれていた。


 『三重奏トリオ』のルール

 一つ、構成は男一人、女二人で行うこと

 二つ、使用していい曲は三人で十曲まで

 三つ、現行していたルールを『二重奏《デュオ』と定める。

 四つ、それ以外のルールは現在行われている『二重奏』と同じである。


 と、とてもシンプルで簡潔だった。

 今までは一人五曲、すなわち二人で十曲までだったのが『三人で十曲』と、さらに制限されるため、より戦略である魔法の相性が複雑になった。


「み……みやびくん、のぞみちゃんが、い……言ってたこと、通っちゃったね」

「そのようだな」

「ってことは、も、う……受け入れるの?」


 とは、のぞみみやびにした、『三重奏トリオ』の案が通るとき、パートナーになってほしいということだ。


「今更無下にできないから、受け入れるしかないな」


 と、みやびは口にすると



「そ、そうだよね……」


 と、灯莉あかりはつぶやく。

 それ以外にもみやびには聞こえない声で何か別のことも言ってるが、みやびは気づかなかった。

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