Op.1-4 わたしの魔法、あなたの魔法

Op.1-4第1節

 あなたは、魔法という普通ではない現象を巧みに使いこなし、人々を助けていました。

 うたい、踊り、傷ついた人々を徐々に癒していきます。


 しかし、その行動はあなたたちにとっては良いものでしたが、あなた以外にとっては有害であることを知りました。


 あなたの心の奥底にしまい込んだ『わたし』が徐々に芽生える感覚を覚えます。


 あなたがわたしの声に浸食され、運命の二択を迫られていました。


 一つは、この奇跡の力を使い、人々の希望となってもらうこと。

 そして、もう一つは……


          ♪


「あれ……」


 と、目を覚ました灯莉あかりが、おぼろけな目でつぶやく。


「か……かわいい……きもちよさそ……う」


 身体を起こすことを忘れ、真上から聞こえる、一定のテンポで刻まれたみやびの寝息が静粛に包まれている教室に響き、灯莉あかりの耳をくすぐった。


「ま……また、ひ……膝枕、してもらっちゃったなぁ」


 灯莉あかりは、頭が乗っかってる、自分のような柔らかい感触ではない、男らしい、少し硬い太ももの感触で気づいた。


 灯莉あかりは、身体を起こし、壁へ寄りかかって寝ているみやびの隣へ正座する。

 起こさないように、壊れないよう繊細な手つきで雅の身体を自分のほうへ倒す。

 その際に自分の胸に頭が当たり、「もぅ、む……胸まくら……でも、いいかなぁ」と、つぶやくが、羞恥心のほうが勝った。顏を赤らめ、みやびの身体をもっと倒す。

 みやびの頭が灯莉あかりの太ももに乗っかた。

 足もまっすぐ延ばそうとしたが、灯莉あかりの腕と今の体勢のせいで、動かすことはできず、みやびは横顔になり、くの字の形で寝る感じになった。


「お……起きたらび……びっくりするかなぁ」


 と、少し笑みをこぼす。


 灯莉あかりは、先ほどの夢の内容がやはり、不思議に感じられた。

 今まで魔法を使った反動で寝ることはあったが、こんな夢を見ることはなかった。

 みやびが何か関係があるのかと考えるが、いまいちよくわからないと、結論が出る。


「……」


 灯莉あかりは、横顔のみやびを見てると、自然と頭に旋律が流れ始める。

 灯莉あかりは、楽しそうに、自分が思い描くイメージと合うフレーズを取る。これは、〈演奏者ディーバ〉であればだれもができることであるのは間違いないのだが、この作業が一番重要であり、魔法の再現度や、威力効率などの重要項目が八割方決まるといっても過言ではない。

 灯莉あかりは〈歌姫メロディエスト〉であるが故、実はこの作業が一番大変である。なぜなら、この曲を二人でまとめ上げなくてはならないからであり、普通は自分の分だけで済むところ、みやびの分含めた二人分の量をこなすしかないのであった。

 変わりに詠唱スピードや威力は〈演奏者ディーバ〉とは比べ物にならないほど高い傾向にあるが、代わりに二人で一つの魔法しか再現できないというデメリットもある。

 しかし、今回は灯莉あかり自身、戸惑いがある、とても不思議な曲になりそうな予感がしていた。

 二人で一つではなく、二人で二つの魔法の再現。それができると思いはせると、自然と楽しく、この大変な作業も楽にこなせる。


 今は午後三時。あと二時間で下校せざるを得ない時刻になるため、次、みやびと会える明後日月曜日までには完成させたいと思った。

 灯莉あかりみやびと一緒にできると考えるだけで、胸の鼓動が早くなる。顔が熱くなる。ドキドキする。

 それが、灯莉あかりが抱いている恋の心だというのは、灯莉あかり自身自覚をしていなかった。


          ♪


 しばらくすると、みやびが目を覚ました。


「お……おはよ」

「おはよう」


 と、みやびは挨拶を返す。


「って、僕、寝てたんだ」

「すやすや……って、ね……寝てたよ」

「寝ないって思ってたのに……やっちゃったな」


 「ごちそうさま」と、灯莉あかりは続けていうのだが、その声が小さい。


「なんか言った?」

「な……なんでもないよ」


 と、灯莉あかりは濁すのであった。


「今何時だ?」


 みやびは身体を起こし、教室にある時計を確認すると、時刻は午後四時過ぎを指していた。


「もうすぐ帰らないと」


 と、みやびは言う。灯莉あかりもそろそろ帰る支度をしなくてはと、地面から立った。

 ふわっと舞う髪の毛が、みやびの鼻をくすぐる。

 女の子特有の香りが心臓に悪い。みやびは顔を赤らめたが、慌てて明後日の方向へ向く。


「み……みやびくん、また、げ……月曜で……」


 灯莉あかりみやびのほうを振り向き、声をかけた。

 みやびは、灯莉あかりのほうを向くことはできずに


「また明後日」


 とだけ言い、灯莉あかりを見送った。

 灯莉あかりは「なんでこっち向いてくれないの」と、悲しげな表情を浮かべて帰ったのであった。

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