Op.1-3第3節

 のぞみの発言により、先程案内してくれた店員はチラチラとこちらを見ていた。どう思われたのだろうか。

 灯莉あかりは無関心に水をのんでいた。

 みやびは心臓をバクバクと響かせながら、すぐさま言葉を返す。


「まて、どういう意味か説明してくれっ!」

「ごめんなさい。私の言い方が悪かったよね」


 と、のぞみはすぐに謝った。

 みやびは、のぞみはただ揶揄からかってるだけで、中身は素直な印象を受けた。


「先週と今日のライブを見て、私は東雲しののめ灯莉あかりさんと九重ここのえみやびくんに犯されたいのっ!!」

「お前、一回ぶん殴られたいのか!?」


 前言撤回。揶揄からかうのが好きな人間のようだった。


「冗談は置いておきましょ」

「置いとくな、捨てろ」

「ふふっ、面白いのね」


 と、のぞみは水を一口飲む。


「ライブをするにあたってのルール、男女一人ずつのデュオって形じゃないと出来ないのは知ってるわよね」

「うん」

「それで、私は誰とも組めない、余り物なの」


 ライブをするにあたって幾つかのルールが存在している。

 そのうちの一つが、みやび灯莉あかりがデュオになっているように、『男女でデュオを組むこと』だ。

 これは体力や魔力などが女性よりも男性の方が高い傾向にあるため、そのバランスを考えた結果、男女一人ずつで組む『デュオ』が前提となっていた。

 しかし、〈演奏者ディーバ〉になれる素質は女性の方が圧倒的に多いため、のぞみみたいにデュオになれない〈演奏者ディーバ〉は珍しくは無い。

 ライブ演習での実践の時、女子生徒は女子生徒と仮のデュオとして組むことで、ライブ演習を行なっていたが、仮は仮である。卒業しても〈演奏者ディーバ〉としての活動は難しい。


「余り物なのは分かったが、もしかして、『灯莉あかりとのデュオをやめて私と組んで』と、言いたいのか?」

「いいえ。私は、今の〈演奏者ディーバ〉の制度について、改訂をしてほしいと思ってるの」

「か……改訂って……、ただの、す……〈演奏研修生スタジエール〉だと無理……だよ」


 と、ドリンクを飲み干した灯莉あかりは、のぞみの考えていることを否定した。


「だ……第三者委員会だいさんしゃいいんかいに……〈演奏研修生スタジエール〉のこ……ことばは……通らないと思う……よ」


 と、灯莉あかりは言葉を続けた。

 第三者委員会とは、現役を引退した元〈演奏者ディーバ〉で構成された期間で、様々な魔法が関係する調査を行う機関である。ライブのルールもここで作られ、第三者とは名乗っているものの、魔法に関しての決定権があると言っても過言では無い。

 〈演奏研修生スタジエール〉が第三者委員会に制度改定が通った試しがないのも事実だった。


「やってみなきゃわからないわ」

「そうだな、やらないと分からない」

「み……みやびくんまで……」


 今まで通った試しがないだけで、内容によっては第三者委員会で通る可能性がある。そう、みやびは思った。

 灯莉あかりはちょっと落ち込んだ声を出したが、みやびが着ている制服の裾を軽く掴み、灯莉あかりは若干身体をみやびの方へ寄せた。

 みやびは腕に触れる灯莉あかりの柔らかい身体を感じてしまい、軽く赤面する。それをごまかすように、話を進めた。


「と、ところで、どんな内容で提出しようとしてる?」

「『デュオ』って『二重奏』って言う意味で取ってるわ。それを『トリオ』、『三重奏』という意味で、男の子一人と女の子二人の三人組を考えているの」

「なるほど、三人組か」


 と、みやびは軽く握った手を顎へ持ってくる。

 もし、そのトリオの改訂案可決された場合、数の問題で余ってしまう女性の〈演奏者ディーバ〉が減るのは一目瞭然だった。

 それを置いたとしても、三対三で戦うことになるため、より戦術が求められるのも明白である。


「それはありかも知れないな。それで、それだけの用じゃないだろ?」


 と、みやびは切り出す。

 もし、トリオのそんな話であれば、その内容をそのまま第三者委員会に送ればいいだけだ。


「もう、気づいているのに、気づいてない振りは辞めてほしいわ。トリオ案は正直どうでもいいと思ってるの。私は九重ここのえみやびくんに穢されたい!」

「ふざけんなよお前っ!?」

「冗談よ」

「ふざけんなよお前っ!?」


 みやびはあまりにも驚きすぎて同じことを二回叫び、立ち上がる。

 デジャブだろうか、みやびに白い目線が突き刺さる。

 みやびは軽く会釈して座る。

 

「ふふっ、からかいがいがあるわ」

「ぜひやめてくれ。心臓が持たない」


 みやびは多少落胆しながら言い返すと


「み……みやびくん……」


 灯莉あかりはそう言いながら、今度はみやびの腕へしがみつき、身体を預ける。

 みやびは、さっきよりも密着した、灯莉あかりの柔らかい部分の感触を受け、頭の中で邪念撲滅を唱える。


(あかっ……ええ!? ちょっ)


 テンパりすぎて唱えられないみやびである。

 そんな様子を見ていたのぞみ


「イチャラブなのね、ふふっ、私もそこに入ろうかしら」


 と、

 それに気づいた灯莉あかりが、ますます、みやびの腕にしがみつき、その柔らかい部分がダイレクトに伝わる。


(灯莉あかり、やめてくれええええ!! 心臓がもたないからっ!!)


 と、一人悶絶しているみやびであった。

 「ふふっ」っともう一回小さく笑ってから


「冗談よ」

「僕のこと殺す気か?」

「いいじゃないの。こんなに可愛い子に殺されるなんて、男の子にとっては本望なの」

「そんな事実は絶対にあり得ない」

「本当にからかいがいがあるわね。まあいいわ、話が脱線してきてるから、置いておきましょ」

「置いとくな、捨てろ」


 と、これまたデジャブな会話が続く。埒が開かない。


「トリオの件、もし通ったら、私も参加していい? って言うのを言いたかったわ」

「それなら最初っからそう言ってくれ……」


 と、落胆するみやびであった。

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