Op.1-3第2節

 演習場へ着いた四人は、みやび灯莉あかり森崎もりさきとシルフィドールといういつものデュオに分かれ、ライブを始めた。

 もちろん、〈幻想障壁デュハーヴァ〉を事前に先生に掛けてもらってからだが。


 みやび達は、詠唱速度が速い灯莉あかりをメインに戦うスタイルを行う。


「〈火炎球ファイアボール〉」


 灯莉あかりが使える火属性をライブ開始後、わずか数秒で放った。

 一小節ワンフレーズで放った魔法のため、大きさは小さく、威力も弱く、シルフィドールに直撃するも、大したことはなかった。

 そのまま曲が終了することはなく、灯莉あかりの曲はまだ続く。

 灯莉あかりは歌い、手を挙げる。


「〈暴風槍擲ホーク・レイ〉!」


 シルフィドールが灯莉あかりの攻撃モーションである、手を挙げるのを見たのと同時に魔法を再現、みやびへ放った。


 みやびは迫り来る〈暴風槍擲ホーク・レイ〉の数に驚く。

 ぱっと見た感じでも風の槍と化した魔法が十本もあったからだ。


「くっ……!」


 みやびは演奏をやめないように注意しながら右側へ走り出し、避ける。

 みやびが先ほどまで立っていた場所に〈暴風槍擲ホーク・レイ〉が突き刺さり、轟音が鳴り響く。

 灯莉あかりみやびのことをチラッと見て、安心したような表情を見せ、歌うことに集中し直す。


「タンマタンマ!」


 と、急に森崎もりさきが片手を上げてひらひらと動かす。

 それと同時に歌っていた灯莉あかりは歌をやめ、みやびも演奏をやめた。


みやびっ! 防御魔法使えないのかっ!」


 と、距離が離れているため、大声で叫ぶ森崎もりさき

 四人は離れていた距離を詰め、ステージ中央へ集まった。


「使えないよ。僕はそもそも攻撃の魔法も殆ど使えないんだ」

「それは〈演奏研修生スタジエール〉として終わってるぞ」


 みやびの言葉に、森崎もりさきは呆れる。

 みやびは曲を持っていない訳ではない。なだけあって、戦うことには向いていないのだ。


「新しく作ればいいじゃねーか。防御魔法」

「確かに」


 森崎もりさきが言った提案をみやびは納得する。


「今作ってる曲が出来てから……でも遅くは無いかな……」


 と、みやびが少し俯きつぶやくと


「わ……わたし、あるよ……防御魔法……」

「あるの!?」


 みやびは初めて知った情報に驚いて声を荒げた。


「聞かれなかった……から、い……言わなかったんだけど……」

灯莉あかり、それを使ってもう一回ライブしてみよう」

「え……あ……うん……」


 と、みやびは意気込み、ライブを始めようとするが、灯莉あかりは戸惑っていた。

 それもそのはずで、


「あ、防御魔法の曲わからな……」


 という、ライブ開始後、みやびの慌てた声で、灯莉あかりは肩をすくめた。

 そこへ、シルフィドールが発動した〈暴風槍擲ホーク・レイ〉が襲い掛かり、直撃した。

 〈幻想障壁デュハーヴァ〉のお陰で、魔法による直接的な怪我はないのだが、その衝撃までは殺せず、みやびの身体は吹っ飛び、背中から地面へ落ちる。


「かはっ……!!」


 灯莉あかりみやびの元へ駆け寄る。


「きょ……曲渡してないのに……」

「完っ全に忘れてた……」


 思わず灯莉あかりは小さく噴き出す。

 遠くで森崎もりさきとシルフィドールは二人で笑っていた。


-まだ残っている生徒は速やかに下校してください。-


 そのアナウンスが流れたのを機に今日の練習を終わらせる。

 そのまま四人は職員室へ行き、演習場の扉を閉めてもらった。遠隔操作式である。


「また今度付き合うぜ」

「わたくしも付き合いますわ」


 と、昇降口を出たところで森崎もりさきとシルフィドールがまたねと背中を向けて歩き出す。

 みやび灯莉あかりはその後を付けるように歩き始めようとしたが、突然聞こえた女性の声で立ち止まることになった。


「あ、いたいた、東雲しののめ灯莉あかりさん、九重ここのえみやびくん。ちょっと時間大丈夫?」


 声がした方向へ向くと、艶やかな黒髪のショートヘア、闇を思わせる、若干紫掛かった瞳を持つクラスメイト、ひいらぎのぞみがいた。


「大丈夫」

「わ……わたしも大丈夫……」


 何の用かと思うみやび灯莉あかりは、のぞみが歩き始めたので、その後に続けて歩くしかなかった。


         ♪


「わ……わたし達に……何の用」


 みやび達は学園側にあるファミレスへと来ていた。テーブルに着くや否や、灯莉あかりが聞く。

 のぞみはサービスで出たお冷を一口飲み、


東雲しののめ灯莉あかりさん。九重ここのえみやびくん。私を穢してっ!!」


 と、言ったのである。

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