Op.1-3 悩み、悩む、対策会

Op.1-3第1節

 「今日も敗北か……」


 先週、シルフィドール・森崎もりさきと戦ったみやび灯莉あかりは、『片方しか演奏ができない』という、弱点があらわになり、みやびが曲を止めたせいで負けた。

 それから一週間後である今日も弱点を突かれ、負けてしまった。

 「今後も課題になっていくんだろうな」と、つくづく思った雅である。


 放課後、教室でみやび灯莉あかりは、何か強くなれる方法がないかと考えていると、ふとある情景を思い出したので、左隣の席に座っていた灯莉あかりへと声を掛ける。


灯莉あかり、そういえば〈解放フォルテ〉って発動してたけど、あれはたまたま?」


 灯莉あかりみやびのことを屋上へ連れた時に見せてくれた魔法。それは偶然ではないよと、灯莉あかりは首を横に振った。


「あ……〈解放あれ〉はね、わたしがちゃんと使える……唯一の魔法……」

「それって、灯莉あかり自身にしか掛けられない魔法?」


 またもや首を横に振る。


「だ……誰でも使える……、強化魔法……なの」


 と、灯莉あかりは言った。

 雅は、「『誰でも使える』をみやび自身に使って戦うことができないか」と考えていた。


「それを僕に使うと、灯莉あかりみたいにすぐに意識が落ちることはない気もするけど」

「それでもダメッ……!」


 と、いつもの穏やかな声ではない、灯莉あかりにとっては珍しい、張り上げた声。


「あ……ごめんね……。〈解放あれ〉は……、か……身体が……イッちゃうから……」

「……灯莉あかり、それは周りから白い目で見られるから……」

「い……いつものことだから……気にしないで……」


 と、顔を赤らめる灯莉あかり。言ってることもわかってしまうくらい、クラスメイトたちは気にした様子もなかった。

 みやびが未だに慣れてないのも違う気がする。


「あ……あと、身体に負担が……かかっちゃうし……」

「それでも、出来るのであれば、試したい」

「じゃ……じゃあ、今日の放課後に……」

「なにを悩んでるんですの?」


 と、みやび灯莉あかりが話し合ってると、綺麗で透明なお嬢様ボイスを持つ、シルフィドールが話に割って入った。その隣にはパートナーである森崎もりさきもいた。


「実は……」


 みやびは、灯莉あかりと話し合ってた事情をシルフィドールと森崎もりさきに伝えると、「なんだ、簡単じゃないか」と森崎もりさきが言う。みやび灯莉あかりがお互いの目を合わせる。


「あんたら防御しないだろ。ただ避けるだけで」

「「あ〜」」


 みやび灯莉あかりが声をハモらせる。

 みやびはそんな簡単な事も気づかなかった自分を殴りたい気分になった。


「常識的に考えまして、自分の身は自分で守らなくてはなりませんわ。攻撃的なスタイルもいいですけれど、それは諸刃の剣でもありますのよ」


 シルフィドールから言われた言葉にみやびはぐうの音も出ない。


「ありがとう。森崎もりさき、ローゼンハイム」

「シルフィって呼んでくださる? そっちの方が落ち着くんですの」


 みやびがお礼をいうと、シルフィドールがあだ名で呼んで欲しいとのこと。

 みやびは一瞬「えっ」とはなるも、「断る事もないだろう」と、結論付けた。


「分かった。シルフィ。これでいい?」

「よ、よろしいですわ」


 と、何故か顔を赤らめてそっぽを向く。

 森崎もりさきは苦笑いをして、言葉を付け足す。


「よーするに、シルフィはあんたらと友達になりたいんだよ」

「な、何を言ってるんですの!? 九重ここのえさん、そ、そんなことはありませんわ! いいですわね!」


 と、シルフィドールは珍しく、取り乱して違うというのだが、その様子はとてもお嬢様って感じがしなかった。


「じゃあ、その『九重ここのえ』って言うのやめて欲しい。僕のことも『みやび』でいいから」

「わ……わたしも……『灯莉あかり』……って呼んで欲しい……なぁ」


 みやび灯莉あかりが名前で呼んで欲しいと言う。

 シルフィドールは


「わ、分かりましたわ。今後、『みやびさん』、『灯莉あかりさん』と、名前でお呼び致します」

「ありがとう、シルフィ」


 昨日の敵は明日の友。と言うが、この場合は二週間前の敵は二週間後の友だ。


「どーせあんたらの事だ。この後演習場借りるんだろ」

「それはそうだけど」

「なら、俺たちも混ぜろ。練習に付き合うぜ」

「わたくしも手伝って差し上げますわ」


 みやび灯莉あかりは向かい合い、頷き合う。


「じゃあ、お願いしようかな」

「わ……わたしも……」


 みやび灯莉あかりが言う。


「よし、早速行こうぜ」

「行きますわよ」


 と、今度は森崎もりさきとシルフィドールが言う。

 その言葉を聞いて、みやび達は教室を後にした。


 なお、灯莉あかりみやびに〈解放フォルテ〉を使いたがらない理由は、〈解放それ〉を使うと、演奏してくれるみやびがいなくなり、灯莉あかりが相手から狙われ、負けるのを知っていたからだ。みやびはそのことに気づくことは無かったが。

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