Op.1-2第3節

 これから、クラスメイト達が疑問に答えることになる。


灯莉あかり、行くぞ」

「うんっ」


 みやびがショルダーピアノを弾き、灯莉あかりが全身でリズムをとる。

 ピアノで音が掻き消されてるので、みやび達はわかってないのだが、観客であるクラスメイト達はざわついてた。

 スマホで動画撮影する人まで現れる。


「〜♪」


 灯莉あかりが歌う。その可憐で綺麗な歌声は、ライブに相応しい。

 そんな、世界に十二人しかいないと思われていた、〈歌姫〉である灯莉あかりにクラスメイトたちは釘付けになっていた。

 対戦相手である森崎もりさき・シルフィドールデュオは、一瞬驚いてしまうが、すぐさま立て直すことで曲を途切れさせなかった。


「〈火炎球ファイアボール〉」


 と、詠唱速度でがある、灯莉あかりの先制攻撃がシルフィドールへ向けられた。

 詠唱を終えてないシルフィドールは、轟々と燃える〈火炎球〉を、軽やかなステップで避けていく。

 これで灯莉あかりの一曲が終わった……


 訳ではなかった。


「〈火炎球ファイアボール〉〈火炎球〉〈火炎球〉っ!!!」


 と、シルフィドールが避けた瞬間、灯莉あかりは立て続けに魔法を再現した。

 シルフィドールは避ける素振りを見せない。

 灯莉あかりは内心、勝ち誇っていて、嬉しさが顔に出る。

 しかし、その表情は崩れ去ることとなった。


「〈魔風防壁ウィンドシールドッ〉!」


 轟々と唸る風の音。

 シルフィドールが生み出した風の防壁に、灯莉あかりが放った火炎球が組み合わさる。


「九重っ!!これでも喰らえっ!!〈流動デイビアッ〉!!!!」


 森崎もりさきが放った〈流動デイビア〉により、炎を纏ったシルフィドールの魔法が襲いかかる。

 みやびはそれを避けようと左へ跳躍する。


「〈流動デイビア〉はこういうこともできるんだぜ」


 森崎もりさきは、発動している魔法の旋律スペルを即座に書き換え、軌道を変えた。


「何!?」


 みやびはそれに対して反応できず、その身に魔法を受け、地面に叩きつけられる。

 魔法自体のダメージは〈幻想障壁デュハーヴァ〉で軽減できているが、地面へ叩きつけられたダメージは軽減できず、身体に激痛が走った。


「かっ……はっ……!!」


 肺から強制的に空気が漏れる。

 魔法を受けたみやびは、衝撃で曲を止めてしまった。灯莉あかりも歌えず、何もできない状況。


 これが〈歌姫〉における『弱さ』である。


 みやびは即座に立ち上がり、灯莉あかりへと声をかけようとしたが


「うあぁあああっっ!!!!」


 灯莉あかりは攻撃を受けたみやびの方へと走り出そうとしていたが、その隙を突かれ、魔法を受けてしまった。

 バキンッと、甲高い音が流れ、灯莉あかりの〈幻想障壁デュハーヴァ〉は砕け散る。


 みやび灯莉あかりの負けが決まった。


 灯莉あかりは魔法を受けた衝撃でドサッと地面へ倒れた。

 みやびはそんな灯莉あかりの元へ向かい、声をかける。


灯莉あかりっ! 大丈夫かっ」

「だ……大丈夫だよ。み……みやびくん」

「それならよかった。僕が……曲を止めてしまったせいで……」

「わ……わたしも……、油断し……しちゃった……から」

「いや、僕のせいだよ。ごめん」

みやびくんは、わ……悪くないよ。……わたしのほ……方こそ、ご……ごめん」


 みやび灯莉あかりが負けたことに対して気持ちが沈む中、クラスメイトたちは割れんばかりの拍手を送っていた。

 その中には「〈歌姫〉ってこと隠してたのかよー」という、明らかに灯莉あかりへ向けられた声も聞こえていた。

 みやび灯莉あかりは対戦相手であった森崎もりさきとシルフィドールに、それぞれ握手をして解散した。


          ♪


 全試合が終わり、解散及び帰宅になった。

 みやび灯莉あかりは神林先生の許可を得て、誰もいない演習場にいた。

 みやびはと灯莉あかりはお互い、負けた原因は〈歌姫〉であるが故のデメリットだとわかっていたので、その対策をどうするかを考えていた。


「一人で二人分の活動をするしかない……。というのが今の所の対策法なんだけど、何かいい案ある?」


 灯莉あかりは少し首を傾け、考え始めた。そして、


「み……みやびくんって、ま……魔力は……どれくらい……あるの?」


 みやびは、予想外すぎる言葉に、驚き、考えた。

 みやびは、灯莉あかりに嘘をつこうとも考えたが、嘘をつくことで信頼関係に関わるため、正直に話すことにした。


 みやび自身が魔女の子孫であり、魔力量だけなら膨大ということ。

 膨大であればあるほど、本来は威力が上がっていくのだが、みやび自身が使える魔法は本来であれば相手を攻撃するためではなく、威力がそんなにないということを。


 それを聞いた灯莉あかりは、みやびに寄るために一歩近づく。みやびは反射的に一歩下がってしまう。

 そんなみやびの反応に灯莉あかりは面白くなって、もう一歩進める。またしてもみやびはもう一歩下がった。


「な……なんで下がるの……?」

灯莉あかりが近づいてくるからだろ……」


 と、灯莉あかりみやびは言い合う。

 近づいてくるからだ。と言われた灯莉あかりは今度はみやびへ飛び込む


灯莉あかりっ!?」


 みやびは呼びながら、正面から飛び込んできた灯莉あかりを受け止める。

 その柔らかい身体を感じた、みやびの心臓は絶賛稼働中。


「お……教えてくれて、ありがとう」


 灯莉あかりは続けて


「ま……魔女は魔女、みやびくんはみ……みやびくんだから。わ……わたしは気にしないよ」


 その言葉にみやびは救われた感じがした。


灯莉あかり、そう言ってくれてありがとう」


 みやびはお礼をいうと、灯莉あかりは微笑んだのだが、みやびの胸に顔を埋めていたのでみやびには見えなかった。


「み……みやびくん、いろいろ……練習しよ?」


 灯莉あかりみやびから離れて背中を向け、そう言った。その背中はとても凛としていた。


「とりあえず、今の現状をどうするかだな」

「い……一緒に繋がろ…?


「勘違い発言が無ければ完璧なのにな」

 と、みやびは思った。

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