Op.1-2第2節

「ねえねえ、東雲しののめさんとエッチな事をしたってマジ?」


 教室に戻るや否や、クラスメイトの一人から声をかけられた。みやびは「噂になってるのかよ」と思い、冷や汗をかく。


「あれは……そうそう、あのが勘違いしたことなんだよ」


 みやびは薄緑色の長い髪を持つ少女へ指を刺し、弁明した。


「シルフィドール・ローゼンハイムか」

「シルフィドール・ローゼンハイムっていう名前なのかあの娘」


 みやびは聞き直した。と言うよりも、


「なんだ、九重ここのえ。クラスメイトの名前まだ覚えてないのか」


 そう、みやびはクラスメイトの名前が全く覚えられてないのだった。

 顔と名前が一致してないならまだしも、名前を覚えてないのは如何なものか。


「すまん。まだ覚えきれてないんだ。ローゼンハイムさんね、教えてくれてありがとうな、ちょっと行ってくるわ」


 と、クラスメイトとの会話で、みやびは追及されたくないので強引に終わらせ、シルフィドールの席へ向かい、声をかける。


「ローゼンハイムさん。ちょっといいかな」

「どなたですの?……まあ、先ほどのいかがわしいお方ではありませんか」


 みやびはシルフィドールから掛けられた言葉に精神面でのダメージを受け、少し落ち込む。

 すぐに立て直し、さっきのことが誤解だってことを伝え、なんとか誤解は解けた。


「わたくしの早とちりで申し訳ございません。ですが、公共の場で会話していい内容ではありませんの。ご理解頂いてもよろしくて?」


 「それは僕のせいじゃないよなぁ」とみやびは思いつつ、シルフィドールのいうことに一応頷く。


わかって頂けたのでしたら、この件は終わりにします。今後、お気をつけ下さいまし」

「なるべく気をつけるよ」


 シルフィドールの席から立ち去り、自分の席へ向かい、座る。


「み……みやびくん。ごめん……ね?わ……わたしのせいなのに……」


 灯莉あかりが謝った。


「大丈夫だよ」

「ほ……本当に?」

「本当に」


 と、みやびが言うと、灯莉あかりは「あ……ありがとう」とお礼を言い、前を向いた。「みやびくんは、や……優しいなぁ……」と呟いたが、ガヤガヤとした周りの声に掻き消されたので、みやびは聞こえなかった。


          ♪


 翌日。

 今日は毎週金曜日に行われるライブ演習の時間。

 クラスのメンバーは全員、演習場にいた。

 クラスの人数は三十二人で、ライブは男女二人一組のデュオ形式が基本なので、合計十六チームになる。


 みやび灯莉あかりのくじ引きの順番になった。

 『7』

 と書かれた紙を引いた。ということは、『8』を引いたデュオと戦うことになる。


「では、初めに1番と2番を引いたデュオから、準備してください」


 と、神林かんばやし先生が指示を出すので、移動を開始する。


 ライブには基本的なルールがあり、そのうちの一つは使用曲数の制限だ。一つの試合では、ライブごとに使用できる曲の上限が決まっている。過去に、決着が永遠とつかなかったライブがあったので、それを防ぐための手段だ。もし、上限で決められた曲を全て使い切ったらその時点で負けとなる。

 そして、これに準ずるものとして同じ曲の使用だが、これはOKとなっていた。ただ、2回同じ曲をやった場合は2曲としてカウントされる。


「では、これよりライブを始めます。勝ち負けは成績に含めませんので、安心してください」


 と、神林先生が言いながら防護魔法〈幻想障壁デュハーヴァ〉を、四人の〈演奏研修生スタジエール〉たちにかけた。

 〈幻想障壁デュハーヴァ〉を味方が一人でも破壊されても負けとなる、ライブの勝敗を決める一つでもあった。


 みやびは目の前で戦っている〈演奏研修生スタジエール〉を眺めて、この人たちと次以降、当たった時の対策を考えていた。

 相性の関係でジリジリと押されていく2番を引いたデュオ。


 バキンッ!!!


 と、大きな音を立てて〈幻想障壁デュハーヴァ〉が砕け散った。

 これで勝敗が決定し、拍手が響く。

 そしてすぐに、次の対戦を知るために移動が始まる。

 灯莉あかりは自分の出番が近づくにつれて緊張の色を濃くしていった。


 そして、みやび灯莉あかりの出番となる。


「よし、頑張るか」

「う……ん。緊張……してる……けど、が……頑張らないと」


 灯莉あかりはそう言い、ステージへ上がる。

 みやびもそれに続く。

 さっきまでの静けさとは違う、明らかにざわついているクラスメイト達。


「あら、いかがわしいことをしていたここのえさんですこと」


 その声を聞いたみやびはギョッとした。

 それは昨日、誤解を解いたはずなのに、開始前にそれをいきなり言うシルフィドール・ローゼンハイムだった。


「ローゼンハイムさん。それは誤解を解いてくれたんじゃなかったの?」

「誤解はありませんの。ただ、九重ここのえさんを揶揄からかってみたくなりまして」

「是非やめて」


 頭を抱えたくなるみやびだったが、ローゼンハイムの隣にいた男子生徒、昨日、みやびに対して「いかがわしいことを」と話しかけられた本人がいた。


「昨日はわりーな。面白そーだったから、俺が提案したんだ」

「黒幕登場っ!?」


 みやびは驚きすぎて変に高い声が出てしまい、恥ずかしくなってしまった。


「俺は森崎もりさきって言うんだ。よろしくな。九重ここのえ

「こちらこそよろしく」


 握手を交わすみやび

 女子サイドでも「よろしくお願いします」と、握手を交わしていた。


東雲しののめさん、少しよろしくて?貴方の楽器はどこに……」

「そろそろ始めてもいいでしょうか」


 シルフィドールが話し始めたタイミングで、神林先生によって会話が止められる。

 神林先生から〈幻想障壁デュハーヴァ〉が掛けられた。


 そして、みやび灯莉あかりの初ライブが始まる。

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