Op1-2 歌姫と子孫の告白

Op.1-2第1節

 ディーバ魔法学園では、午後の課程は全てライブの練習に割り当てられており、そのうちの週末である金曜日はライブ演習を行うことになっている。

 みやび灯莉あかりは演習場に居た。大体直径五十メートルくらいはある円形のステージで、明日の演習に向けての打ち合わせをしていたのだ。


灯莉あかり、明日のことなんだが、やっぱり欲しい」

「や……やっぱり、歌わ……ないと……ダメ?」

「だって、さっきも魔法発動しなかったし」

「うーん………、それの方が……みやびくんにも、め……迷惑かからないし……、頑張ってみるっ」


 と、灯莉あかりは言ってくれたが、あまり歌いたくない理由があった。

 それは、人前で歌うのがただただ恥ずかしいっていう理由。


「〜♪」


 みやびは『人』として認識されていなかった。


「〈火炎球ファイアボール〉」


 と、指を前に出し、魔法を発動させようとするが


「あ……あれ?」


 魔法は発動しなかった。

 それもそのはず、灯莉あかりは歌っていたが、誰も演奏していなかったのだ。


「ごめん、演奏してなかった」


 と、みやびは原因に気づき、謝ると灯莉あかりは「むぅ」と睨みつける。


「ちゃ……ちゃんと演奏……してっ」

「はいはい」


 睨みつけてはいるのだが、可愛くて迫力がないのは如何なものか。

 みやびはショルダーキーボードで曲を奏でる。


「〜♪」


 さっきと同じ曲を歌っているが、心なしか、さっきよりも嬉しそうだ。


「〈火炎球ファイアボール〉」


 と、指を前に出す。

 すると、先程とは違い、その指先から赤色に燃え上がる〈火炎球ファイアボール〉が、綺麗な放物線を描き飛んでいく。

 地面へ衝突し、メラメラと炎が上がっていた。

 みやびはすかさず自分の曲を弾き、奏でる。


「〈氷魔結晶コンゲラート〉」


 燃え上がっていた炎は、みやびの魔法によって凍っていく。そして、炎がなくなると同時に霧散した。

 灯莉あかりの大抵の魔法は火属性がもとになっている。そこにみやびの水属性をどう合わせるかを考えていたが、先に灯莉あかりが、その後にみやびが攻撃すると言うスタイルが今のところしっくりくる戦い方だった。

 ライブは基本、男女で二人組デュオになって行われる。理由は、性別による力量差が生まれないようにするためだった。


「……歌うの、は……恥ずかしい」


 と、顔を赤らめる灯莉あかり


「歌声、上手いし綺麗だから自信を持ってくれればいいのに」


 みやびは思ったことを素直に言い、柔らかに微笑む。


「そ……そうかな」

「そうだよ」

「……♪」


 嬉しそうにハミングしてる灯莉あかり


「も……もう一回、やろっ」

「よし、わかった」


 と、もう一回やりたいと言う灯莉あかり

 先程よりも声量が大きく、さらに綺麗に歌っている。


「〈火炎球ファイアボール〉」


 と、先程よりもさらに大きく、威力が増した火炎球は、先程よりもより激しく地面へぶつかり、ゴウゴウと火柱が上がっていた。

 それを見たみやびは先ほどと同じように〈氷魔結晶コンゲラート〉を唱え、炎を鎮静化させる。

 それと同時に、みやびは思ったことを聞いた。


「もしかして、今楽しい?」


 と、笑顔を浮かべている灯莉あかりへ声をかけると、灯莉あかりは元気よく頷いた。


「う……歌うのは、恥ずかしいけど……、好き……だから」


 と、灯莉あかりは急に我に返り、恥ずかしそうに明後日の方向へ向いた。

 みやびはそんな灯莉あかりを見て笑みが溢れた。そして、先程の灯莉あかりを見てた時に思っていたことを聞いた。


「歌ってる間って、見られて恥ずかしいって思ってる?」


 すると、灯莉あかりは少しも悩まず


「は……恥ずかしくはなかった……かな。お……奥からズンズンって、響いて……くる感じがあって……」

「それは別の意味で快楽になってるよ!?」


 「何てことを言い出すんだ!?」と、みやびは思った。今は周りに人がいないから問題ないが、これで周りに人がいたら勘違い……


「な、なんてはしたないプレイしていますの!?」


 ……されました。

 この場所には確かに出入り自由なので、人がくる可能性はあった。

 みやびは声がした方へ向いて弁明する。


「違うんだ! これには理由があって……」

「いいこと? このような場で、そう言う、なんていいますか……、いかがわしい事はやめてくださいましっ!」


 と、みやびの弁明を聞くことも無く、薄い緑色の長い髪を持つ少女は声を上げ、その場を立ち去ってしまった。

 その後ろ姿をそのまま茫然と眺めてしまったみやびは、続きを言うことも出来ず、「女の子といかがわしいことをしていた」という勘違いをさせてしまい、「噂にならないでくれ」と思うのであった。


「み……みやびくん」


 と、一連の騒動の発端でもある灯莉あかりは、申し訳なさそうにしていた。


「ごめん……なさい」

「大丈夫だって。堂々としてれば何も起きないから」

「……(こくっ)」


 みやびは「大人しい状態だったら勘違いとかさせずに済むんだけどな」と思うが、すぐさま「無理だな」と結論付ける。


 キーンコーンカーンコーン


 と、チャイムの音が聞こたので、今日の練習は終了となった。


「明日はがんばろうな」

「うんっ」


 みやび灯莉あかりは気合を入れ直し、お互いが「明日は勝ちたい」と思いながら教室へ戻るのであった。

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