Op.1-1第2節

 「えっ?」


 呆然してしまうみやび


「……実はわたしはね、ま……魔法が使えないの」

「魔法が使えない…?」

「……うん、わたし一人ではできないんだよね……。だから、わ……わたしには一緒にやってくれる〈演奏者ディーバ〉が欲しい……」


 一拍置いてから


 わたしは歌うことしかできない、〈歌姫メロディエスト〉と呼ばれる……存在だから。


 〈歌姫メロディエスト〉という単語を聴いてみやびは驚いた。

 〈歌姫メロディエスト〉はこの世にしかいない、特殊な〈演奏者ディーバ〉である。


東雲しののめさんは、本当に〈歌姫メロディエスト〉なんだよね?」


 みやびは確認するように言った。


「……う、うん。そうだよ。……今までは、わ……わたしが楽器を弾きながら……魔法使ってたから、誤魔化せてた……」


 〈歌姫メロディエスト〉とは、でしか魔法を発動できない、常識の埒外にある存在。

 歌うだけでは魔法を再現できない。

 魔法を再現するためには、楽器による演奏は必要不可欠であるため、〈歌姫メロディエスト〉自身、楽器を演奏するしかないのだが、その状態で魔法を使うと『威力』『魔法の再現力』が著しく落ちる挙句、魔法が再現されないって言うこと起こってしまう。

 〈歌姫メロディエスト〉本来の強さを発揮するためには、別の〈演奏者ディーバ〉いう存在が必要であるのを灯莉あかりは知っていた。

 これからは「ライブ」で戦うことになるため、共に戦ってくれる〈演奏研究生スタジエール〉が必要という。


「……九重ここのえくんにやって欲しい……。わ、わたしだけの……〈演奏研修生スタジエール〉になって!」


 みやびは悩んでいた。


(本当に僕なんかがパートナーとして努めてもいいものか)


「……わかった。僕でよければこれからよろしくね」


 と、みやびは、そこそこな時間を費やし、言った。

 その言葉に対して、灯莉あかりは心底嬉しそうに、紅色の瞳を輝かせ、笑顔を浮かべていた。


「わ、わたしも……これからよ……よろしくおねがいしますっ!」


 灯莉あかりは言いながらみやびに抱きついた。

 妹である花蓮かれんとは違う、強く抱きしめたら壊れそうな体躯。

 みやび灯莉あかりの行動に驚いた。


 ♪

  ♪


「にぃ、何やってるの!?」


 すると、教室のドアがガラッと勢いよく開けられ、それと同時にそんな声が聞こえた。

 灯莉あかりは即座に身体を離し、声がした方に振り向いた。

 灯莉あかりのツインテールがふわっと宙を舞い、みやびの鼻をくすぐる。

 みやびのことを「にぃ」と呼ぶ人はこの世に一人しかいない。花蓮かれんだった。


「ねえ、にぃ。そこにいる女の子と今まで何をしてたのかな?」

「……な、何もしてな」

「そうじゃないよね?抱き合ってたよね?」


 みやびが話し終える前に問う花蓮かれん。否と言わせない、強い口調だ。


「あ、あの……」

「そういえば先輩、名前はなんですか?」


 灯莉あかりが声をかけた瞬間、花蓮かれんは敵対視する様に灯莉あかりを見ながら名前を聞く。


「し……東雲しののめ灯莉あかり……です」

「そうですか、先輩。私のにぃに抱きついて、何やってたんですか?」

「わ……わたしの九重ここのえくんなんだから、なにをや……やっててもいいと思うな〜」

「よくないですっ! 私の……私のにぃに抱きつくなあああああああ!!!!」


 と、教室中に響き渡る声。

 名前を聞いたのに、『先輩』と呼び名を変えず、抱きついてた


「と……とりあえず、抱き合ってたの……は置いといて」

「先輩。置かないでください」

「この子、こ……九重ここのえくんの妹……?」


 「置かれた!?」と、驚愕の表情を見せる花蓮かれん

 みやびは話題を逸らすために灯莉あかりの話に乗った。


「妹の花蓮かれんだ」

「にぃまで……まあいいよ。私は花蓮かれん。にぃの妹で婚約者。花蓮かれんって呼んで貰っていいですよ。先輩」

「じゃないからな?ただの妹だからな?」

「そ……そうなんだね。こ、九重ここのえくんはいいな……。花蓮かれんちゃんがいるんだもん」


 花蓮かれんの言葉の意味が分からず、言葉に詰まった。


「た……大したことじゃないんだけど、わ……わたしってひとりっこだから……」

「一人っ子か、退屈しそうだな」

「……でも、ほ……本読むのが好き……だから、退屈……は、してなかったよ……?」

「私はにぃがいるから遊び道具になってるけど」

花蓮かれん。いつものアレは是非ともやめてほしい」

「やーだ!にぃ成分とらないといけないもん!」


 「にぃ成分ってなに!?」とみやびは思ったが、口に出すと余計ややこしくなりそうだったので無視した。

 灯莉あかりは苦笑いしてた。


「た……退屈じゃなかったけど、いもうととかいたらもっと……たのしかったんだろうな〜って」

「それは、当然ですっ!」

「僕のことを毎朝サンドバッ……」

「にぃは黙ってて」

「は……はい」


 みやびには発言権がないようだ。


「にぃ、女の子の一人っ子って結構辛いものなの」

花蓮かれんには何がわか……いぎぃ!!??」

「にぃ、それ以上言ったらどうなるかわかってるよね……?」


 と、思い切り脛を蹴られたみやび。その痛さに悶絶しながら花蓮かれんみやびを脅していた。

 目が笑っていない花蓮かれんに、おぞましい雰囲気を感じ、みやびはコクコクと頷くしかなかった。


「わ……わたしはつらくないし、大丈夫だから、花蓮かれんちゃん。し……心配しないでね……?」

「先輩がそう言うのであればいいんですけど、本当に辛くなったら言ってくださいね!私が相談役になってあげますから!」

「あ……ありがとう。その時は……よろしくね」


 その言葉を聞いて、花蓮かれんは笑みを浮かべた。


「あ、いけない! もうこんな時間! にぃ、先に帰ってるから、先輩に変なことはしないでね!」

「……おう」

「じゃ、まったね〜!」


 と、教室にあった時計を見るや否や、早々に立ち去る花蓮かれん。言いたいことだけ言って帰った感じがしたが、性格は良いのだった。

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