秘密 2

 待っていた感覚は来なかった。


「ねえ、どうして今なの?」

 首を振られた。

「私、あなたのことずっと探してたの。」

 自分のことを指さして、手で日差しをつくってあたりをキョロキョロしたあと、私のことを指さした。

「あなたもってこと?」

 うんうんと頷かれる。

「私、あなたのこと黒ずくめって呼んでいる  の。」

 仮面が微笑んだ。

「薬をもらえないかな。」

 首を振られた。

「どうして?」

 首を振られる。

「くれない?鈴ちゃん。」

「あげられない。」

「やっぱりね。」

「分かったと思ったの。」

 黒ずくめが春霞と杏奈、そして自分の前に現れた時点で、保健室登校の誰かであることはほぼ確定する。そして自分より背が高いこと、声を出したら誰だか分かってしまうこと。 

 そして、黒ずくめの話をしようとすると止めたこと。香名は毎夜ゲームをしているから、黒ずくめはできない。従って、鈴なのである。

「私が断ったのが失敗だったみたいね。保健室登校児を全員殺す夢でもあるの?」

「確かに涙子ちゃんが断るのは予想外だった。でも全員殺す気なんて毛頭ない。ただ死にたい人の手助けをする気だったの。香名を殺す気はないよ。だってあの子は死にたがってない。」

「薬を渡さないのは正体がばれたから?」

「そう。渡せない。」

「じゃあ私はここから落ちる。元々そのつもりだったの。」

「死なせない。」

「肩、離してもらってもいい?」

 掴まれっぱなしの肩に目をやった。

「離せない。」

「じゃあ、さ。私にも黒ずくめ、やらせてくれない?鈴ちゃんだけじゃないよね。黒ずくめ。」

「私だけじゃない。好きにすれば。」

「仮面とローブと薬は。」

「薬は渡す。あとは百均で買えば?」

「死にたい人はどうやって見つけるの。」

「自分がその思いを持ったなら、分かる。」

背を向けて歩き出そうとする彼女を呼び止めた。

「仮面の顔を動かすの、どうやるの?」

「秘密。」

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