醜聞

「私の尾行でもしてたの?」

「してないです。」

「じゃあ、たまたまって言いたいわけ?」

「そうです。本当に…」

「たまたま見かけて、写真撮ったってこと?」

「いいえ。撮ってないです。知らなかったです。」

「そんなの信じられないって。」

「でも、拡散されたのは私が見かけた日の写真じゃなかったですよね。」

「確かにね。でも他の日につけて撮ったかもしれないじゃん?」

「私じゃないです。」

「じゃあ誰?」

「知りません!」

「最近突然授業に出るようになったじゃん。タイミング良すぎない?」

「たまたまです。」

「さっきからたまたまばっかりだね。」

「でもそうなんで。」

「SNSで叩かれてるの。知ってる?」

「知ってます。」

「気味がいいんでしょ。」

「そんなことないです。」

「じゃあ私がそれで悩んでるって言ったら?」

「力になりたいと思います。」

「嘘、つかないで。」

「ついてないです。」

「私はあなただと思ってるから。」

「私じゃないです。」

いなくなろうとするその人に言った。

「私じゃないです、林さん。」


 【林杏奈の秘密】、これが目下の注目を浴びているスクープだった。撮影したのは本当に私ではなく、恐らく近くに住んでいる男子生徒だ。

 建物も顔もばっちりで、拡散され、男子の話題はとにかくそれだった。女子は見て見ぬふりがほとんどだったが、人がいないところなどでコソコソ話している人ももちろんいた。

私が授業に戻ってきてから数日経っていたので、近くにいる女子が話しかけてきたりする。

「涙子ちゃん、林さんも保健室通いだったでしょ?仲良かった?どんな感じだった?」

「ごめん、あんま話したことない。」

 私は別に嫌悪しなかった。彼女がしたいことならばこちらがとやかく言うことではない。

 ただ、私は杏奈が羨ましかった。どんな形であっても、杏奈はみんなと違うものを持っていたのだ。


 杏奈の醜聞が広まってから数日後、私は頭痛で保健室に行った。低気圧で偏頭痛がしたのだ。杏奈のことがあってからも、夜の徘徊は続けていたため、低気圧が無かったとしても、身体のどこが痛んでもおかしくなかった。

 保健室の先生に頭痛を訴え、ベッドを借りた。ちゃんと寝てる?、と聞かれたが、寝ていると言い通してごまかした。

 その日の保健室は閑散としていた。杏奈の噂を聞いて、馬鹿な男子達が集団で保健室に押し掛けたせいで、杏奈は学校に来なくなってしまったのだ。


「失礼しまーす。林さんいるって聞いたんですけどー、顔見せてもらえませんかー」

「体調が悪くないなら入らないでください。」

「林さんも、体調悪くないですよねー?」

「俺たち心配してるんですよ

「あ、いた!」

「待って、宮内もいるぜ。」

「やば、あいつふりっふりの服着てる。」

「不登校じゃなかったんだな。」

「ゲー中もいる。」

「そっちはどうでもいいだろ。」

「いや、それな。」

「保健室で何してんの。」

「遊んでるんだろ。」

「てかあれだれ?」

「一個上じゃね?やめとけよ。」

「あいつ山崎だよ。」

「だれ?知らん。」

「小学校からずーっと、不登校。」

「保健室登校な?」

 それで、鈴も香名も来なくなってしまった。

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