「こちら側」3

 初めて授業を抜けて保健室に行った時、保健室には「保健室登校児」たちが勢揃いしていた。

 竹田香名、林杏奈、山崎春霞、そして宮内鈴。私は彼女たちの名前を、話したことが無くても知っていた。彼女たちが何故保健室登校かも大体聞いていた。学年中で噂されていて、私は噂に聞き耳を立てる性格だったからだ。

 まず、竹田香名。彼女はゲーム中毒だ。これは保健室登校よりも有名な話で、戦闘ゲームでも、音楽ゲームでも、彼女に勝てる人はいないらしい。お金も時間もかけるし、ゲームで徹夜は普通。ゲームを全くしない涙子にとって、驚きだった。彼女は授業にも出ずにゲームばかりやっていると陰口を叩かれているが、保健室で見ている限り、一向に気にしていない。これは本人にいわれたのだが、イヤホンを付けて爆音でゲームの効果音やサウンドを聴いていたところ、左の耳が難聴になったらしい。

 私はそうなんですか、と答えるしかなかった。

 林杏奈はいじめの加害者だ。小学校が違うためよく知らないが、気に入った女の子を集める癖があるのは確かで、小学校と同じ要領でいじめを始めたらクラスメイトに糾弾された。私はこの話を聞いた時、空気の読めない悲しい人だと思った。彼女はクラスメイトから白い目で見られ、友達と呼べるものがいなくなってから、保健室登校になったらしい。去年、彼女のクラスでは、彼女は忘れ去られた存在だった。

 顔がいいのもあって、他クラスに友達はいると思うけれど、いじめをして保健室に姿を消した人とは話しにくいのが普通だ。それでも彼女が休み時間を廊下で過ごすことに、私は一種の尊敬の念を抱いていた。「こちら側」の四人のリーダーは彼女で、保健室でも女子の馴れあいを展開する、女子の鑑だ。

 みんなと話していると、時々能面のような表情をするから、私は彼女が苦手だった。

 山崎春霞は、よく分からない子だ。小学校が同じだったが、その頃から不登校気味で、保健室登校だった。みんなが話していても、一人ポカンとしていることが多い。長いこと考え込んだり、喋るのが遅かったりで、集団行動はどう考えても苦手だろう。

 最後に、宮内鈴。保健室に来るまで、噂でしかその存在を知らなかった。普段穏やかだし、一番話しかけてきて、優しい感じだが、着ているのは、頑として私服。気性が激しい一面もあるのだろうか。

 そのときも、彼女たちは私の予想を裏切らず、保健室で楽し気にお喋りしていた。

私が入って来たことに気が付くと、口を噤んでこちらをチラチラうかがっていたが、頭痛がすると嘘をついてベッドに寝転がった頃には、お喋り熱は復活していた。

 それから、五回目ぐらいまでは入室するたびに気まずい雰囲気が漂っていたが、その後は完全スルーが板についたみたいだった。時々、鈴と香名が話しかけてくるだけだ。

 保健室にいて、「こちら側」の彼女たちに対して、私と同じなのにどうしてこんなに楽しそうで能天気なんだろうと思った。

 でも、私も思われているかもしれないのだ。どうしてこんなに暗くて愛想が悪いのだろうと。

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