「こちら側」

どうやったら、授業中に先生にばれずにイヤホンを使えるのだろう。

 隣の席の男子を見ながらそんなことを考えられるくらい、自習の時間は暇だった。教卓に、よぼよぼの自習監督の先生が一人。この人、なんのためにいるんだろう。

 用もないことを考えては、時間が過ぎるのを待った。自習だからと思って来てみたが、普段の授業を受けていないのに、自習ですることがあるわけなかった。おしゃべりする人もいない。この学年が始まった頃には、少しはいたのに。

 

 私は、チャイムが鳴ると、保健室に駆けこんだ。

「おかえり。」

 声を掛けてくれた、私と同じ保健室登校の子に会釈を返した。同学年に、私を含めて保健室登校は五人。私に今声を掛けてくれた子も、その一人。彼女は学校へ私服で来る。今日も、レースのついた薄桃色のワンピース着ている。ファッションのことはよく分からないけど、とても可愛い。

「ねえ、鈴ちゃん。」

 部屋の奥から、私服の彼女にハスキーな呼び声がかかった。カーテンで仕切られたスペースで、ソファーに座っている女の子三人。その中の一人が、顔をこちらに向けていた。鈴ちゃんと呼ばれた、私服の彼女は、私にちょっと微笑むとソファーの三人の元に向かった。

 私は入口から一番近くにある椅子に腰かけた。こちらから四人が見えなくて、四人から自分が見えない位置に。

 正直、理解できなかったのだ。どうして保健室登校をしてまで女の子どうしできゃあきゃあするのか。同学年に保健室登校の人がいるのは悪くないけれど、女子女子しているのは本当に嫌だ。私以外の四人は昨年から保健室登校で、噂の的だった。

 去年の、中学一年生の私は「みんな側」だった。学校に来ているのに、授業に出ない彼女たちに、授業に出ないのに休み時間は廊下で遊んでいる彼女たちに、訝しげな視線をぶつけて、なんのために学校にいるんだろう、なんて思っていたのだ。

 私はもう、「こちら側」に来てしまったのに、まだ彼女たちに疑問を抱いていた。そして、彼女たちを受け入れなかった。


 私は彼女たちと同じにされるのが本当に我慢できなかった。一緒にされているかすら分からないのに。

 違う、とさけびたかった。私は「こちら側」じゃない。私だけは違う。こんな子たちと一緒にしないで。

 じゃあなんで今、授業中なのに保健室にいるんだ。ここに置いてある荷物は何だ。

 認めるんだ。私は「こちら側」の「保健室登校児」だ。

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