第29話
十中八九もういないだろうと思われる藍沢の様子を好奇心で確認するために、俺は学校の敷地に足を踏み入れる。
学校は相変わらずガランとしていて、校庭には書類や死体、机や椅子などがそこかしこに散らばっていた。
俺は校門を潜って校舎に足を踏み入れ、廊下を歩いて藍沢が以前に隠れていた女子トイレへと向かう。
「いやっ、きゃぁあああああ!!!」
静かな廊下をまっすぐに進んでいると、突然悲鳴が聞こえてきた。
俺はすぐに地面を蹴って駆け出す。
『シュルルルルル…』
「いやぁっ!?来ないで!?誰か!?」
現場にたどり着いてみると、そこでは一人の女がモンスターに襲われていた。
「うわっ、マジかよ…」
思わずそんな声が漏れた。
襲われているのが藍沢だったからだ。
一週間前に会った時よりも明らかに痩せこけて、あちこち泥だらけだ。
どうやら俺の予想に反して、あれから今まで本当に学校の中に止まっていたらしい。
『シュルルルルル…』
「ひぃいい!?」
藍沢が引きつった声を漏らし、目の前のモンスター……リザードマンから逃げようとする。
だが、もう走る余力が残されていないのか、すぐに転けて地面に這いつくばった。
『シュルルルル…』
「あ…」
リザードマンに見下ろされ、藍沢から命を諦めたかのような声が漏れる。
「仕方ねぇな」
見殺しにしても心は痛まないが、しかし、一応恨んでいる相手とはいえ、目の前で死んでほしくはなかった。
どうせならどこか俺の知らない場所で勝手に死んでほしい。
「おらよ」
俺は相変わらず俺の存在に気づいていない…
いや、気づいていて無視しているのかもわからないリザードマンに背後から回し蹴りを叩き込んだ。
ドゴッ!!!
バァアアアアン!!!
『ギシェェエエエ!?』
衝撃音とともに、リザードマンが吹っ飛んだ。
そのまま窓ガラスを割って貫通し、外に転がる。
その体は俺に蹴られた箇所から折れて、千切れかけていた。
当然時間もたたずに、リザードマンは絶命する。
「お、レベルが上がったな…」
頭の中でアナウンスがなった。
リザードマンを倒したことにより、レベルが一つ上がったようだ。
「あんた…西村…どうして、ここに…?」
俺が新たに獲得可能なスキルが増えてないかなどを確認するためにステータスを開こうとしたところで、藍沢が声をかけてきた。
「暇だったからお前の様子を見にきたんだ。てっきりのたれ死んでるか、モンスターに殺されたかと思ったんだが…まだ生きてたとはな」
「あ、あうぅ…」
「…?」
「西村ぁ…っ!」
突然地面を這って近づいてきた藍沢が、俺の足元に縋り付いてきた。
「お、おい…?藍沢…?」
「怖かったぁ…怖かったよぉ…もう死ぬかと思ったよぉ…」
「おい、すがりつくな…離れろよ…」
「ひぐっ…うぇええええん…」
「…」
俺のズボンに縋って泣き始めた藍沢。
水分が足りていないのか、涙は出ていない。
だが、嗚咽を漏らして必死にズボンに縋り付いてくる。
「うーん…」
流石に跳ね飛ばすわけにもいかず、俺はどうしていいかわからずに藍沢の精神が落ち着くのを見守ったのだった。
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