第30話



名前:西村博隆

レベル:49

スキルポイント:290

スキル:回復、収納、鑑定、加速、浮遊、探知、転移

獲得可能スキル一覧

・消去スキル(必要スキルポイント300)

・予知スキル(必要スキルポイント500)



藍沢が泣き止むまでの間、暇なので俺は自分のステータスを確認する。


レベルが一つ上がって49になっていた。


それ以外にさしたる変化はない。


スキルポイントも変わらないし、獲得可能スキルも増えていないようだった。


「ま、こんなもんか」


リザードマンは大体レベルが30〜40の間でつまり俺よりも弱いモンスターだ。


今までの傾向上、スキルポイントは、自分より強いモンスターを倒したときに手に入りやすかった。


新たに獲得可能なスキルをゲットするのも、自分より強いモンスターを倒した時が多かった気がする。


「さて…」


自分のステータスを確認し終えた俺は、改めて藍沢に向き直る。


藍沢はまだヒック、としゃっくりを繰り返したりしていたが、話をできる程度に落ち着いて入るようだった。


「よく生き延びたな、お前。逃げなかったのか?」


「…うん、怖くて…」


藍沢がしおらしく答えた。


なんか調子が狂わされる。


「食料はどうしてたんだよ」


「部活棟の冷蔵庫に…残ってたやつを食べた…」


「なるほど」


「に、西村…あ、あんた…何をしたの?」


「ん?何が?」


藍沢が外に転がっているリザードマンの死体を指さした。


「あんたが蹴っただけで…あいつが吹っ飛んで…ど、どうやったの…?なんかの…武術の技…?」


「違う。レベル上げしたら肉体が強化されたんだ」


「へ…?れ、れべる…?肉体が強化…?」


藍沢がぽかんとする。


俺はしまったと慌てて口をつぐんだ。


藍沢はどうやらレベルアップのことを知らないらしい。


まだこいつが一体もモンスターを倒してないからなのか、そもそもモンスターに襲われないというこの特性同様、レベルアップやステータスも俺固有のものなのか…


そんへんもおいおい調べていくか。


「あぁ、すまんすまん。なんでもない。俺は実は格闘技の経験者なんだよ」


「そ、そうなんだ…」


少し納得いってない感じの藍沢だが、しかし丁寧に説明してやる義理はない。


「ま、無事なら無事でいいか。俺は興味本位で見にきただけだし、その様子だと一人でもやっていけそうだな。これからも頑張れよ〜」


藍沢の様子を確認するという用は済んだ。


俺は早々にその場を立ち去ろうとする。


「待って…!行かないで…!」


すると藍沢が俺の腕を掴んできた。


「なんだよ?」


「お願い見捨てないで…西村…助けて…」


「は?食料はあるんじゃないのか?助けがくるまでここに隠れてたらいいだろ」


「む、無理…もう食料は残ってない…もう三日も何も食べてない…」


「だとしても俺の知ったことじゃないな」


俺は藍沢の腕を振り払って歩き出す。


「あっ、やだっ…行かないで…っ」


藍沢が俺の足を掴んできた。


構わず歩き続けると、藍沢の体は廊下に引きずられる。


「あっ、あうっ…!」


摩擦熱が痛かったのか、藍沢が悲鳴をあげる。


「はぁ…なんなんだよ」


俺はため息を吐いて足を止めた。


「話せよ藍沢。邪魔なんだよ」


「お願いよぉ…助けてよぉ…謝るから…あんたにしたこと全部謝るから…」


「また口だけの謝罪か?」


「違うっ…心から、謝るからっ…」


「そうか。なら、土下座しろよ」


藍沢に向き直った俺は、土下座を要求する。


どうせプライドの高いこいつは、いじめられっ子の俺に土下座なんか出来ないだろう。


心から謝るといっても、それはこの場しのぎのもので、結局心の中では俺のことを馬鹿にしているに違いない。


そう思ったが、次の瞬間、俺は衝撃を受ける。


「西村…本当にごめん。私が間違ってた」


「…っ」


藍沢がなんの躊躇もなく、土下座をしたのだった。


謝罪の言葉には真剣みがこもっている。


とても適当にいったようには聞こえなかった。


「はははっ…」


俺は藍沢のあまりの代わりように、思わず嘲るように笑う。


そうか。


人間は所詮こんなものか。


極限状態に追い込まれればプライドも、以前までの関係性も何も意味をなさなくなるのだ。


藍沢の中にあるのはとにかく生き延びたい、死にたくないという感情。


そのためなら、プライドを捨てて土下座だろうがなんだろうがやるということだろう。


「やれやれ…なんか馬鹿らしくなってきたな」


もはや完全に牙の抜けた藍沢を追い詰めることに意味を感じなくなった俺は、藍沢に食料を渡してやることにした。


藍沢が土下座しているうちに、収納スキルで収納しておいた食料をポケットの中に入れる。


それは一本のチョコバーだった。


「ほら、藍沢。ちゃんと謝れたご褒美にこれやるよ。顔上げろ」


「え…?」


藍沢が顔を上げる。


俺はポケットからチョコバーを取り出して、藍沢に見せた。


「…っ」


藍沢が表情を輝かせる。


ごくりと喉が動いたのを俺は見逃さなかった。


「欲しいか?」


「…っ」


コクコクと藍沢が頷いた。


「じゃあやるよ」


「…っ、あり、がとう…っ」


俺はそのまま藍沢にチョコバーを渡すふりをして…わざと寸前で上に持ち上げた。


「あっ」


チョコバーを掴み損なった藍沢が、悲壮な声を上げる。


そんな中、俺は藍沢の前でチョコバーの包みを破り、ぼりぼりと自分で食べ始めた。


「あっ…あっ」


チョコバーが減っていくたびに、藍沢が悲しそうな表情になる。


俺は半分くらい食べたところで、藍沢の頭上で残りのチョコバーを掲げた。


「食べたいか?」


「くだ、さい…お願いします…っ」


藍沢が泣きそうになりながら言う。


俺はニヤリと下卑た笑みを浮かべ、半分のチョコバーにペッと唾を吐きかけた。


そして地面にチョコバーを落とす。


「ほら、食べろよ藍沢」


「…っ!?」


「お前、俺の弁当に唾吐きかけたことあったよな?あの時の仕返しだ。ほら、食えよ」


地面に落ちた俺の唾液付きチョコバーを俺は藍沢の方に蹴っ飛ばした。


すると藍沢は、迷いもせずにそのチョコバーを手に取ってむしゃむしゃと食べ出した。


「え…」


俺が呆気にとられる中、あっという間にチョコバーを食べ切った藍沢は、名残惜しそうにチョコのついた自分の手をぺろぺろと舐める。


それから俺を見上げて、にっこりと笑った。


「ありがとう。美味しかった」


「…」


なんだか調子を狂わされ、俺はぼりぼりと頭をかいた。






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