第28話


「はぁ…!!」


気合の声とともに俺は拳を前に突き出した。


バァン!!!


『……ギ』


破裂音が鳴り、前方にいたゴブリンの体が爆散する。


ゴブリンは短い悲鳴とともに、瞬時に絶命した。


「ふぅ…」


俺は吐息を吐くと共に、ゴブリンの体液の付着した手を払った。


「よっと」


地面に散らばったゴブリンの血肉を飛び越えて、先に進む。


レベリングを始めてから一週間。


レベルがそろそろ50に届きそうなところまで自らを鍛えた今の俺は、ゴブリン程度のモンスターなら一回の攻撃で瞬殺出来るようになっていた。


もはや金属バット等の武器は必要ない。


俺自身の拳が……単なる鉄の塊よりも破壊力を持っているからだ。


「さて、次だ次」


ゴブリンを殺した俺は、次の標的となるモンスターを探すことにした。


立ち止まり、目と閉じて、聞こえてくる意識を集中させる。


すると、レベルアップによって強化された聴覚が、数十メートル先を走るモンスターの足音を捕らえた。


「行くか!」


地面を蹴り、俺は疾走する。


すぐに前方に、走る黒い獣……ブラック・ウルフが見えてきた。


そのスピードは、走る車と同等、少なくとも通常の人間では決して追いつけないほど。


だが、今の俺なら、全力で疾駆するブラック・ウルフに追いつくことも雑作ではない。


「ふっふっふっ」


軽く息を吐き、走るスピードを上げると、ブラック・ウルフの背中はどんどん迫ってきた。


「おりゃっ!!」


追いつく数瞬前になって、俺は地面を蹴って宙に飛び上がった。


そして走るブラック・ウルフの前方に回り込む。


『ギャン!?』


突然現れた俺にブラック・ウルフは驚いたように目を見開いた。


慌てたように踵を消して逃げようとするが、

俺は、一瞬で肉薄し、その胴体に蹴りを叩き込んだ。


『ギャンッ!!!』


悲鳴が響き渡った。


俺に蹴り上げられ、吹っ飛んだブラック・ウルフは、そのまま近くの民家の屋根に激突した。


『…』 

ガシャァアアン!と凄まじい破壊音がなり、ブラック・ウルフは沈黙する。


死体はズルズルと下に向かって滑っていき、そのまま重力に従ってどさっと地面に落ちた。


「一丁あがり」


ブラック・ウルフも一撃で仕留めた俺は、次のモンスターを探して歩き出す。


ゴブリン、ブラック・ウルフを続け様に倒したが、レベルアップはない。


最近では、雑魚を数匹倒した程度ではレベルアップはしなくなった。


レベルが高くなるたびに、上がりにくくなっているのだ。


雑魚のみを討伐してレベルアップするには、それこそ十匹に迫る数を倒さなくてはならない。


簡単なのは、オークなどの、強いモンスターを倒すことだ。


だが、ここ一週間でこのあたりを彷徨いている中型のモンスターはあらかた狩り尽くしてしまっていた。


よって現在の俺は、このように雑魚狩りを余儀なくされている。


「そろそろ拠点を移すかぁ…」


自宅を拠点にこのあたりのモンスターを狩る生活に、見切りをつけたほうがいいかもしれない。


クロとともに活動拠点を移して、新天地でモンスターを狩るのもありだなと俺は考え始めていた。


「…そういや、あいつどうしてんのかな?」


移動を考えたことを契機に、俺はあることをふと思い出していた。


「藍沢…もう流石に逃げたよな?もしくは殺されたか…」


学校のトイレに隠れていた藍沢愛莉。


あいつはどうなったのだろうか。


俺が学校であいつと再会してから、もう一週間が経過した。


流石に同じ場所に隠れているなんてことはないだろう。


まだ生きているのだろうか。


それとも、女子トイレを出て、あのトカゲ人間……リザードマンに見つかって殺されたか?


「様子を見に行ってみるか…」


それはちょっとした興味本位だった。


学校を徘徊していたトカゲ人間は、今ではレベル40程度のリザードマンというモンスターだと判明しているし、俺にとって危険な場所ではない。


いないとは思うが、しかし、あの後藍沢がどうなったのかは少し興味がある。


もしかしたら、斬殺したいとかも見つかるかもしれない。


「まぁ、あいつの死体を見ても心は痛まないだろうがな」

レベルもだいぶ上がり、焦る必要も無くなった。


食料にもまだまだ余裕があるし、一日無駄にしたところで痛手ではない。


俺は藍沢がどうなっているかを学校に確認しに行くことにした。





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