第26話
鑑定スキルを手に入れた後、俺は引き続き、モンスターを探して周囲を練り歩く。
だが、なかなかモンスターに遭遇することは出来なかった。
明らかに自宅付近のモンスターの数は減っていた。
「人間が皆逃げたから、モンスターもいなくなったのか?」
人によって倒された、とかではないはずだ。
俺は国の人たちが、銃などを武装してモンスターと戦っているところをまだ見ていない。
それに安全になったのなら、人が戻ってきてもおかしくないだろう。
つまり、人が非難するのと合わせて、おそらくモンスターたちも移動してしまったのだと考える方が妥当だ。
「うーん…今の俺にはあんまり有難い状況じゃないなぁ…」
どれだけモンスターが居ようと、今の俺には襲われない特性がある。
これがあるうちに、出来るだけ多くのモンスターを倒しておきたいと思ったのだが、こうもモンスターに遭遇しないのは、少し想定外だな。
「人が集まりそうな場所にでも行ってみるか…」
もしかしたらそこにモンスターも集まっているかもしれない。
俺が、大勢が非難しそうな場所の候補地を頭の中で列挙している最中のこと。
「うわぁああああああ!?」
「!?」
どこからか悲鳴が聞こえてきた。
直後にパンパン!と乾いた銃声のような音も聞こえる。
続け様、『ガァアアアアア!!!』という空気を振動させるような低い唸り声も聞こえてきた。
「モンスターだ…!」
おそらく人が襲われている。
俺はほとんど反射的にそう判断し、音のする方向に向かって走り出した。
「うわ…よりにもよってあいつかよ…」
現場に到着した俺は、思わず顔を顰める。
襲われている人物を助ける…というよりもモンスターを倒すためにこの場に来たわけだが、そこにいたのはよりにもよって、あの巨大鬼のモンスターだった。
「く、くるなぁああああ!!!」
パンパン、と響き渡る銃声。
銃を撃っているのは、制服を着た警官と思しき人物だった。
筋肉に包まれた巨体に向かって何発も撃っているが、まるで効いている様子はない。
「…鑑定」
助ける、助けないの判断の前に俺はまず巨大鬼のステータスを確認することにした。
先ほど獲得した鑑定スキルを早速使う。
巨大鬼と俺の距離は20メートル以上あったが、鑑定スキルは問題なく発動した。
名前:オーガ
種族:モンスター
レベル:54
スキル:威圧
「レベル54…まじかよ…」
目の前の半透明ウィンドウに表示された巨大鬼……オーガのステータスを見て、俺はごくりと唾を飲む。
レベルは54で俺の2倍以上。
オークと違いスキルも有している。
勝てっこない。
瞬時にそう判断した。
「わ、悪いが…力になれそうもない…」
最初に出会った時に、どうあってもあいつには勝てそうもないと感じた俺の直感は正しかったようだ。
レベル54。
明らかに格上のモンスターだ。
俺が助けに入ったところで、出来ることなんてないだろう。
「すまんな…」
俺は警官を助けることを諦めた。
俺には襲われない特性があるが、オーガに対して横から一方的な攻撃を続けられるかはわからない。
俺の攻撃じゃそこまでダメージにならないだろうし、あの警官を狙った攻撃が万一俺に当たったら、俺は即死するだろう。
俺は罪悪感を押し殺して、警官対オーガの戦いを見守る。
『オガァアアアアアアアアア!!!』
「ひぃいいいいい!?」
警官は銃の引き金を引くが、もう弾がないようだった。
オーガはゆっくりと警官に近づくと、巨大な手でその頭部を握り込んだ。
「あ…」
短い悲鳴が上がった。
直後、ぐしゃっと音が鳴ってオーガの手の中で警官の頭蓋が弾けた。
まるでトマトのように簡単に潰され、オーガの巨大な手は血に染まる。
『オグゥウウウ…』
オーガは、不快そうに血に濡れた手を払うと、警官の残った動体を片手で持ち上げた。
それから服ごと一気に、喰らっていく。
「…っ」
バリ、ボリという咀嚼音が響き渡る。
たった数分で、オーガは人間一人の体を完全に喰らい尽くした。
『オグゥウウウ…』
死体が完全になくなると、オーガは満足したように低く唸り、ズンズンと足音を立てて去っていってしまった。
「……っ」
俺は衝撃で体を動かすこともできずに、ただ一部始終を見守ることしかできなかった。
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