第19話


校舎の中に足を踏み入れる。


「…誰も…いないな…」


外と同様、中もがらんとしていて人の気配を感じなかった。


コツコツ、と廊下を歩く俺の足音が周囲に響き渡る。


「誰も来てないってことはなさそうだな…」


通り過ぎる教室の机や椅子は、散乱していて所々に血も付着している。


また廊下を歩いていると、窓ガラスが割れている箇所もあり、ここにもモンスターが侵入した形跡があった。


「誰もいなさそうだな…」


しかし、見た感じ、ここが避難場所として使われているようには見えない。


この棟にもし誰もいなかったら、俺は別の棟を確認するのはやめてそのまま帰ろうと思っていた。


3棟は横並びに立っていて、他2棟も同じような状況だろうと考えたのだ。


「とりあえず屋上とかも確認してみるか…」


屋上に人が隠れてる、ということはないだろうが、この高校は比較的高台に建てられているため、屋上からなら校内の敷地のみならず、周囲の街の様子が一望できるだろう。


そう考えて、俺が廊下の突き当たりにあった階段を登ろうとしたそのときだった。


『シュルルルルル…』


「…っ!?」


何かが聞こえてきた。


蛇の鳴き声のような、背筋をゾワっとさせるような音だ。


俺はバッと振り返る。


「ん…?」


遠く…廊下のずっと奥、俺が入ってきた場所に、一体のモンスターがいた。


「な、何だあれ…」


『シュルルルル…』


そいつはトカゲの頭を持っていた。


硬そうな鱗に、長い舌。


一見すると蛇のようにも見える。


だが、そいつには手足があった。


例えるなら二足歩行のトカゲ、と言ったところだろうか。


「うわ…気持ち悪い…」


生理的な嫌悪を覚えるその外見に俺は、表情を顰める。


『シュルルルル…』


校舎の入り口付近に現れたそのトカゲ人間は、しばらくこちらを向いていたが突如として動き出した。


「は、速い…っ!!」


地を這うトカゲのように、目のもとまらぬ瞬発力と速さで接近してきたトカゲ人間は、あっという間に俺の目の前に到達した。


「…っ」


『シュルルルルル…』


細くキョロキョロ動いている目が、真上から俺を見下ろしている。


デカイ。


遠くにいるときは近づかなかったが、こいつ、2メートルはある。


この距離で相対して、コンビニの店内で倒したオークよりも、威圧感を感じた。


襲われたらなすすべなく殺されるだろう。


『シュルルルル…』


「だ、大丈夫…俺は襲われないはずだ…大丈夫…」


俺は必死に自分にそう言い聞かせながら、トカゲ人間を刺激しないよう直立不動の姿勢を守る。


『シュルルルル…』


トカゲ人間は一度ぐっと俺に顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぐような動作を行ったが、すぐに匂いを嗅ぐのをやめ、踵を返して離れていった。


そのまま、俺が向かおうとしていた階段をペタ、ペタと足音を立てて登り始める。


「は、はぁああああ…」


トカゲ人間が去った後、俺は安堵の息を吐いてへたり込んでしまった。


「し、死ぬかと思った…」


一瞬死を覚悟した。


あいつは間違いなく俺より強かった。


多分これまで出会ったモンスターの中で、あの巨大鬼の次に強いのではないだろうか。


襲われたら、多分瞬殺されていたことだろう。


だが、自らのモンスターに襲われないという特性のおかげでなんとか助かった。


「そりゃ…あんなのが徘徊してたら、無理だわな…」


この校舎に人がいない理由が早くも判明した。


おそらくみんなあいつに襲われ殺されたのだろう。


「もういいか…帰ろう…」


探している幼馴染がここに避難している可能性を考えてきてみたが、こんな危険な場所を避難場所に選ぶバカなんていないだろう。


俺は早々に捜索を打ち切って帰ることにした。


さっさとレベル上げやスキル獲得の事も考えないと、この襲われない特性がなくなった時に生きていけない。


そう思い、俺は入り口に向かって廊下を歩き出す。


そんなときだった。


「ん…?」


ガタン、と。


通り過ぎた女子トイレから物音が聞こえてきたのは。

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