第18話
「クロ。ちょっと出てくるぞ」
『クゥン、クゥン』
「大丈夫。必ず戻ってくるって」
『クゥン…』
再び家を出ようとした俺に、クロが飛びかかってくる。
置いていかないで、というように甘えた声を出すクロをしばらく撫でて落ち着かせる。
両親に見捨てられたからか、クロは俺にも見捨てられるんじゃないかって思ってかなり神経質になっているようだ。
大丈夫、置いていかないよ、と囁きかけながら撫でること数分、クロはようやく大人しくなった。
「それじゃ。すぐ戻るよ」
最後にクロにそう言ってから、俺はドアを閉めて自宅を後にする。
目指すは学校。
もしかしたらそこに、俺の幼馴染が避難しているかもしれないからだ。
「無事だといいが…」
探している幼馴染がモンスターに殺されていないことを祈りながら、俺は半年ぶりに登校路を歩く。
引きこもる直前は、学校に向かうのが苦痛で、通学路を歩いているだけで吐き気が込み上げてきたが、今は状況が状況のため、そういうこともなかった。
むしろ、このモンスターの溢れた世界において俺だけが襲われないという特性を持っているが故に、気分は落ち着いていて、かなり余裕があった。
もし学校に行って、万一いじめっ子たちに遭遇しても…今なら冷静に対処できるのではないだろうか。
こんな世界になった以上、スクールカーストなんてものは最早機能しないし、今の俺にはたくさんの食料とスキルだってある。
「むしろ今は俺の方が立場が上だよな…復讐とかも出来るかもしれない…」
俺がいじめっ子たちにされたことは、ひどく卑劣で許し難いことだ。
もし復讐の機会が巡ってきたとしたら、きっと俺は躊躇うことをしないだろう。
復讐は虚しいからしないとか、彼らのしたことを許すとか、そういうことは多分ないと思う。
それだけのことを、俺は彼らにされたのだから。
「ま、第一目標はあいつを助けることだけどな」
もちろん、わざわざ彼らを探し出してまで復讐に固執するというような馬鹿なことはしない。
学校に向かう目的はあくまで幼馴染を助けることだ。
最後まで俺を助けようとしてくれたあいつの恩に俺は報いたい。
それが叶わなくも、せめてお礼ぐらいは言わせて欲しいのだ。
「頼むから生きていてくれよ…」
俺は目的の幼馴染の無地を願いながら、時折死体などの転がっている殺伐とした登校路を歩いたのだった。
「着いた…」
それから歩くこと半時間。
俺は目的地である学校へとたどり着いていた。
半年ぶりに訪れた、どこか懐かしく感じる高校。
虐められていた頃は、ここが地獄にも思えたっけ。
「案外、何ともないな」
ここにくれば多少なり過去を思い出して気分が悪くなるかと思ったが、そういうこともなかった。
こんなとんでもないことが起きて、感覚が麻痺してるのかもな。
「ごめんよ〜…通りますよっと」
俺はハエのたかった生徒の死体を飛び越えて、校門から校内へと足を踏み入れた。
「あんま、人の気配とかはないな…」
今のところ俺以外に人は見当たらなかった。
大勢の人間がここに避難してきて、校門にバリケードを作って立て籠っている……なんて事もあるかなぁ、なんて思ったが、今のところ大人数が避難してきた形跡もなかった。
「無駄足だったかなぁ」
俺はポリポリと頭を掻いて引き返そうか迷う。
「ま、ここまで来たんだし中も覗いてみるか…」
が、少し考えて、せっかくここまで来たのだから、中を確認していく事にした。
これだけ広い学校だ。
中に隠れる場所はたくさんあるし、誰かいるかも知れない。
「まずはA棟からだな」
俺は手近な棟から確認して見ることにした。
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