第14話


「…」


あまりの光景に、現実だと認識するのが遅れて、俺はしばしその場に突っ立って呆然としてしまう。


『ハァ、ハァ、ハァ…』


豚頭のモンスターの体は、荒い息とともに前後に動いていた。


犯されている女性はされるがままで少しも動かず、すでに死んでしまっているようだった。


「う、うわぁああああ!?」


こちらに向けられた死んだ女性の虚な瞳と目があったような気がして、俺は我に帰った。


叫び声を上げて、飛び退く。


ガタンガタンと商品棚が揺れて、ぼとぼととおにぎりが地面に落ちてきた。


豚頭のモンスターは、座っている状態で俺よりも遥かに身長が高かった。


殺される。


そう思ったが、しかし、豚頭のモンスターに動きはなかった。


無我夢中で、目の前のモンスターを犯している。


「なんで、だ…?」


まるで俺の存在なんて無視しているかのようだった。


女性しか襲わないモンスターとか…?


もしかしたら生殖行動に夢中になって、俺の存在に気がついていないのかもしれない。


「…っ」


ごくりと喉がなった。


金属バットを持つ手に力が入る。


今なら不意打ちで倒せる。


そう思った。


どの道ここで食料を確保できなければ、俺は野垂れ死ぬことになるだろう。


やられる前にやる。


「う、うおおおおおおお!!!」


覚悟を決めた俺は、豚頭に向かって突っ込んでいった。


「おらぁっ!!」


背後から渾身の一撃を頭蓋に振り下ろす。


グシャ…!


『ブォオオオオオオオオオ!?!?』


頭がひしゃげ、形を変えた。


豚頭のモンスターが豚の鳴き声をや太くしたような咆哮とともに、くるりとこちらを向いた。


ダラダラと頭部から緑色の液体が流れている。


あれが…血液なのだろうか。


「…っ」


俺はバットを構えて豚頭と対峙しながら、内心不味いと思っていた。


一撃で仕留められなかった。


こいつは明らかに俺より強い。


正面から挑んでも勝ち目はないだろう。


初撃でかなりダメージは入ったみたいだが、手負の動物が通常の倍の力を発揮することがあるという。


勝てるだろうか…


俺はいつどこからでも攻撃が来ていいように、集中力を研ぎ澄ます。


『ブォオ…』


「…?」


奇妙なことに、豚頭のモンスターは俺を見ても、全く襲いかかってこようとはしなかった。


俺の一撃によって潰れなかった方の目がじっと俺を見下ろしているが、殺気のようなものも感じない。


まるで戦う気が最初っからないかのような雰囲気だった。


「こ、来いよ…っ!!」


俺は自らを奮い立たせるために、豚頭に向かって怒鳴り声をあげる。


が、これにも豚頭はさしたる反応も見せず、なんと俺を前にして、くるっと向きを変えてしゃがみ込み、再び女性の死体を犯し始めた。


「は…?」


思わずぽかんとしてしまった。


どうして俺を無視するのだろうか。


俺の最初の一撃で、豚頭には確実にダメージが入った。


俺はこいつにとって十分脅威になり得る存在のはずだ。


なのに、なぜか俺を敵として認識していない。


「こいつも…なのか…?」


俺の中で何かが繋がりかけていた。


ずっと偶然だと思っていた。


ゴブリンの時も。


ブラック・ウルフの時も。


俺が無視されたのは、偶然か、もしくは、俺の知らない特性が彼らにあるせいだと思っていた。


が、今、この豚頭のモンスターに無視されてようやく気づいた。


これは俺の特性だ。


なぜか俺は…モンスターに襲われない特性を持っている。


「ははっ…なんだよそれ…」


気づいてしまった俺は、思わず笑い声をあげる。


一気に緊張がほぐれて、おかしくなってきたのだ。


「そういうことだったのか…」


何かつっかえた取れたような気分だった。


もしかしたらここへくる前に遭遇したあの巨大鬼も…俺の存在を認識はしたが襲わなかったのかもしれなかった。


「そうと決まれば…やることは一つだよな?」


俺は金属バットを振り上げる。


それから、地面を蹴って豚頭に向かって突進していった。


「モンスターを狩って狩って狩まくる…!レベル上げてスキル手に入れて…俺はこの地上を生き延びる…!」


俺の渾身の一撃が、豚頭の頭蓋に振り下ろされた。




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