第5話


「クロ!!!」


その悲鳴を聞いた時に、俺の体は自然と動いていた。


急いで廊下を走って玄関へ。


傍に立てかけてあった金属バッドを手に取って俺は外に出た。


『キャンッ!!キャンキャンッ!!』


「クロっ!!!大丈夫か…!?」


『グギギ…ッ!!』


『グギッ、グギッ!!』


外に出てまず目に入ったのが、庭に繋がれている真っ黒な中型犬。


我が家の愛犬のクロだ。


クロは、庭の中を必死に走りながら逃げ回っていた。


そんなクロへ、緑色の二匹の生物がにじり寄っていく。


「う…」


その生物の見た目のあまりの醜悪さに、俺は顔を顰める。


緑色の小鬼。


いわゆる、ゴブリンのような見た目の生き物が敷地内に侵入していた。


先ほどサラリーマンを追っかけ回していた奴らと全く同じ見た目。


あのサラリーマンを諦めて戻ってきたのだろうか。


それとも別の個体…?


『キャンッ!!キャンキャンッ!』


『グギィ!!』


『グギグギッ!』


考えている暇はなかった。


二匹のゴブリンは、明らかにクロを狙って近づいていっていた。



「やる、ぞ…!」


クロは十年以上も一緒に暮らした愛犬だ。


見捨てる選択肢はなく、俺はバッドを握る手に力を入れる。


「大丈夫…俺ならやれる…」


そう自分にいい聞かせ、自らを鼓舞する。


人間の子供ほどの身長のゴブリンは、なぜか俺には一切の興味を示さなかった。


『キャンッ!キャンキャンッ!!』


クロが俺に助けを求めるように悲痛な鳴き声をあげる。


「う、うおおおおおおお!!!」


覚悟を決めた俺は、金属バッドを握りしめ、雄叫びとともに突っ込んでいく。


「おらあっ!!」


そして全力で振りかぶった金属バットを手前のゴブリンの頭部目掛けて振り下ろした。

グシャ!!!


『…ギッ!?』


何かが壊れるような音がなった。


俺の全力の一撃を受けたゴブリンの頭部が、ひしゃげ、形を変えた。


ぽろっとゴブリンのギョロついた目玉が片方、飛び出て地面に落ちる。


『…』


ドサっとゴブリンは地面に倒れ、沈黙した。


ぽたぽたとバットに付着した緑色の体液が地面に垂れる。


「あ…」


こんなに大きな生物を殺したのは初めてだった。


俺はしばしの間、バットを下ろして唖然としてしまう。


『キャンキャンッ!!』


「…っ!!」


数秒後、クロの鳴き声によって俺は我に帰る。


仲間が一匹やられたと言うのに、ゴブリンは俺に襲いかかってくる様子はなかった。


まるで俺の存在なんてないかのように、クロに近づいていっている。


「なんで、だ…?」


自分より弱い生き物を狙う習性でもあるのか…?


わからんが、しかし、一方的に攻撃できるこの状況は俺にとって都合がいい。


「うおらっ!!」


二度目だからか、今度は比較的スムーズな動作でバットを振った。


グシャ!!


『ギ……』


正確にゴブリンの頭蓋を打ち砕き、絶命させる。


「はぁ、はぁ、はぁ…」


外に出てこんなに動いたのなんて久しぶりだ。


俺は荒くなった息を整える。


「く、クロ…大丈夫か?怪我はないか…?」


『クゥン、クゥン…』


気分が落ち着いてきた俺は、すり寄ってくるクロに怪我がないか確認しようとする。


その直後のことだった。


パンパカパーン!!


〜ゴブリン2体の討伐を確認しました〜


〜おめでとうございます。レベルが5になりました〜


〜スキルポイントを10獲得しました〜


「…っ!?」


脳内で突然ファンファーレと共にアナウンスのようなものが聞こえ出したのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る