第5話
「うーん、悩むなあ。勇人ちょっとこっち来て」
「ん、どうしたの?」
僕が明美に歩み寄ると、彼女は急に僕の頬を両手で挟んだ。「っも!?」という変な声が口から漏れる。
「うわ冷たい! やっぱり今日寒いんだ。カーディガン着てこ」
「人を天気予報にするんじゃない」
彼女の掌の熱を両頬に感じながら僕がクレームを言うと「へへ、すまんすまん」と彼女は悪びれる様子もなく手を離した。いや結構本気で熱かったんだが。そろそろ朝方と夜は触れ合わない方が良いかもな。
「秋なんて来なきゃいいのにね」
カーディガンの袖に腕を通しながら彼女は零した。こちらに背を向けているため表情は見えない。
「常夏の島にでも引っ越そうか」
「あはは、それアリ」
彼女は振り返って笑った。
実際には僕の体温変化は偶然四季の間隔と似通っているだけなので日本を離れたからといって症状の進行が止まることはない。むしろ気温との温度差に苦しむだけだろう。それもお互い分かっていた。
「あ、やば。そろそろいかなきゃ」
明美は腕時計を見てぱたぱたと玄関で靴を履いた。そしてくるりと振り返り、爪先立ちで僕の唇にキスをする。いつもより熱い彼女の唇が季節の巡りを立証した。
「よし、いってきます!」
「いってらっしゃい」
手を振りながら扉を開けて飛び出していく彼女を、僕も手を振って見送る。
右手の人差し指で、彼女の熱が残る唇に軽く触れた。
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