第2章
第12話 高校生になりました
深夜、窓からこっそり抜け出した俺は軽い足取りで屋根の上へと移動する。
「ふっ」
そして勢いをつけて隣の家の屋根へと飛び移った。
「うおお、マジで出来た……」
マンガやゲームの忍者のようなことが出来たことに思わず感動してしまう。
しかもこれだけのことをしてのけたのに、全く疲れを感じない。
そのまま屋根を飛び移りながら駅前の繁華街に移動する。
すると目の前に大きなビルが現れた。
「……よし」
俺はそのビルの屋上を見据えると、大きく深呼吸をする。
そして力を込めて勢いよく飛び上がった。
(あ、やば……)
ビルの3~4階までは軽々と飛び越えられたのだが、8階部分に近づいたところで失速してしまう。
俺はとっさに『風魔法』を発動して浮力を得ると、何とか屋上部分に着陸した。
どうやらいきなり10階建てのビルの屋上にジャンプで行くのは無茶だったようだ。
「『ステータス』」
―――
伊織修 Lv110 人間
HP31350/31350
MP830/850
SP740
STR120
VIT125
DEX120
AGI130
INT120
スキル 鑑定 万能翻訳 空間転移魔法 認識阻害魔法 アイテムボックス 氷結魔法 治癒魔法 風魔法 水魔法 追跡・探知魔法
―――
単純にステータスが足りないのか、それともこの身体の使い方にまだ馴れていないからなのか。
そんなことを考えているとデジタル腕時計から『ビー! ビー!』とアラームが鳴り響く。
ちぇっ、もうそんな時間か。もうちょっと色々試してみたかったんだけどなあ。
ふてくされた気持ちになりながら俺は眼下の色とりどりに輝くネオンを一瞥すると、いつものようにスキルを発動した。
「『空間転移』」
一瞬の暗転の後、俺は自分の部屋へと戻る。
明日は大事な入学式だからな。今日はもうさっさと寝てしまおう。
そう考えて俺は軽くシャワーを浴びて寝間着に着替えると、ベッドに潜り込むのだった。
◇◇◇
「やっぱり慣れねえ……」
洗面台に備え付けられた鏡の前に立つと、改めて自分がブレザーの制服を着ていることに違和感を感じてしまう。
俺にとって制服と言ったら、つい数週間前まで着ていた中学の学ランだったからな。
「おに……、兄さん。準備できた?」
「ああ、できたぞ」
洗面台の前でそんなことを考えていると、思春期真っ只中な佳那が呆れたように話しかけてくる。
「……なに?」
「いや、お前が『兄さん』って呼んでくるのに違和感が……」
「あっそ。てか早く退いてよ」
「はいはい。ああそれとその髪型、そのセーラー服によく似合ってるぞ」
「~~! 早く行けっ!」
佳那は片手で若干緩んでいる口元を隠しながら、俺の足を軽く蹴って洗面所から追い出す。
それにしてもあの佳那がもう中学2年生か。時が流れるのは本当早いな。
「じゃあ外で待ってるぞ」
まだ洗面所にいる妹にそう言い残して、俺は家を出る。
「うわっ、さむ……」
4月になったはずなのだが、外はまだ冬のように寒い。
とはいえマフラーや手袋をつけるのもなあ、と悩んでいるとようやく佳那が出てきた。
「ん」
「お、カイロか。サンキュー」
佳那がブスッとした顔で使い捨てカイロを渡してくる。
こいつ、何だかんだ優しいんだよな。そのことを言ったらぶちギレるんだけど。
「じゃあ私こっちだから」
「はいよ。間違って小学校の方に行くなよ」
「うっさい」
そうして妹と別れると、駅に向かって歩き出す。
あの転移事故から2年弱、俺は高校生になった。
あれからもレベル上げは毎日欠かさず行っているが、スキルを使わざるを得ないような状況は
しかしどうやら今日は違ったらしい。
「お前がヤスの兄貴をやったガキだな?」
駅へ向かう道中、3人のしかめっ面の男が俺の前に現れる。
ったく、またこの手の連中か。
一々相手をさせられるこっちの身も考えて欲しいものだ。
「いえ、違いますけど」
「しらばっくれるんじゃねえ! てめえがやったってことは分かってるんだよ!」
男たちは怒声を張り上げると、各々が持っていた金属バットやドスなどを構える。
「はぁ……」
仕方がない。さっさと済ませるとしよう。
「がっ!?」
俺は彼らが踏み込むよりも前に先陣に立つ男の懐へ潜り込むと、顎を蹴り抜いて気絶させる。
それを見て他の2人は明らかに狼狽し、その場から逃げ出そうとするが当然逃がしたりなんてしない。
「よっと」
「ぎゃっ!?」
「ぐえっ!?」
すぐさま2人に追い付き、首の後ろを手刀で叩いて気絶させる。
と、このまま放置しておくと色々と面倒なことになるからな。
「『治癒魔法』『認識阻害魔法』」
大の大人を手刀だけで気絶させるなんてことは普通じゃ出来ない。
もし出来てしまったとしたら、その相手は神経や延髄を損傷してしまっているということだ。
なのでこうして『治癒魔法』でその傷を回復させると同時に、新たに習得したスキル『認識阻害魔法』で俺や俺に関連することを思い出せないようにしておく。
「まったく、入学式当日にこんな面倒くさいことさせないでくれよ」
そう愚痴を吐き捨てると、俺は改めて駅へと急ぐのだった。
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