第13話 学園の天使様と遭遇しました
電車を乗り継いで10分ちょっと。
辿り着いた高校の正門前は記念撮影をする生徒とその保護者でごった返していた。
高校の入学式は人生で一度しか体験することがないイベントだ。その思い出を写真や映像に収めるのは至極当然のことだろう。
実際父さんも仕事の予定が入らなければ来る気満々だったからな。
その人の波を何とか掻い潜って校舎に入ると、そのまま教室を目指す。
この後は教室に行って先にクラスメイトや教師と顔合わせをするんだったよな。
既に自分がどのクラスなのかは通達されている。
とりあえず変に目立つことはせずに無難な行動を心掛けよう。
「と、あそこか」
1-C、それが俺がこれから1年を過ごすことになるクラスだ。
「……よし」
若干緊張しながら後ろの扉から教室に入る。
その瞬間、既に教室に入っていた20人くらいの生徒が一斉に俺へ視線を向けた。
多分皆、相手がどういう人間なのか見極めようと躍起になっているのだろう。
そんな慣れない視線に戸惑いながら、黒板に張り出されていた座席表を見て自分の席へ向かう。
(お、ラッキー。窓際の一番奥の席だ)
担任や隣の席の生徒はまだ誰も来ていないらしい。
なら少しの間ならのんびり休むことが出来そうだな。
そう考えていると、突然生徒たちがざわつき始める。
「何かやらかしてしまったのか!?」と一瞬不安になるが周りの生徒の反応を見るにどうやらそれは杞憂だったようだ。
だったら彼らは何に反応しているのだろうか、そう考えて視線の先を辿る。
そこにいたのは現実感を感じさせないほど容姿が整った少女だった。
シニヨンに纏められた茶髪は光沢が見えるほどサラサラだし、その肌は人形のように白く、長い睫毛と大きな瞳はなおさら無機物感を感じさせる。
彼女は他の生徒の視線を一切気にすることなく黒板の座席表を確認すると、俺の隣の席に鞄を置く。
そして席に座ると、如何にも温和そうな笑みを浮かべて会釈する。
それに俺も同じように頭を下げると、お互いに視線を別々の方向へと向けた。
「皆さん、おはようございます」
ちょうどそのタイミングで担任と思われる小柄な若い女教師が教室に入ってくる。
それに合わせて他の生徒たちも各々の席へ戻っていく。
「どうやら全員揃っているようですね。私がこの1-Cを受け持った輿水陽葵です。これから1年間よろしくお願いしますね」
女教師――輿水先生は黒板に自分の名前を書くとペコリと頭を下げる。
「それでは次は皆さんに自己紹介をしてもらいましょう。まずは……出席番号1番の相澤さん」
「は、はい! 相澤徹です! 中学ではバスケやってました。よろしくお願いします!」
「はい、ありがとう。それじゃ次は出席番号2番の――」
そうして何人かが自己紹介を終えるとすぐに俺の順番がやって来てしまう。
これも「あ行」の苗字に生まれた者の宿命か、などと考えながら席を立つ。
「えっと、伊織修です。趣味はゲームで特技は料理です。これから1年よろしくお願いします」
簡潔に、そして無難な挨拶を済ませてすぐに椅子に座る。
それからも当たり障りのない自己紹介が続き、ついに隣の席の彼女の順番が来た。
「
その時、彼女――久遠京里から強い拒絶のようなものを感じたのは気のせいだろうか。
まあどちらにしろ俺と久遠は住む世界が異なる人間だ。
今後仲良くなるようなこともないだろう。
そう考えて、俺はクラスメイトの特別面白みのない自己紹介に耳を傾けるのだった。
◇◇◇
入学式から一週間が経ったその日。
いつものように夕飯を食べて自室に戻り、誰かに通報されないよう自分自身に『認識阻害魔法』をかけてジャージに着替えると、腕時計のタイマーをセットした。
「っし、やるか」
窓を開けると昨日と同じように軽い足取りで屋根へと上ると、そのまま屋根から屋根と飛び移りながら移動する。
とりあえず今日は今の体力でどこまで行けるのかを検証してみよう。
とすると進路は駅前ではなく山の方にした方がいいな。
俺は何度も大跳躍を繰り返し、市街地から国道沿いの農地、そして山道へと移動する。
そうして30分も経つ頃には駅前の繁華街の光が全く見えなくなるほど薄暗い山の中にいた。
体力的にはまだまだ余裕があるのだが、これ以上進むと『空間転移魔法』で帰るにしても汚れやら何やらで色々と面倒くさいことになりそうだ。
今日はもうこの辺で切り上げて家に帰ろうかな。
「……ん?」
そんなことを考えていると、何処からか叫び声や何かが爆発するような音が聞こえてくる。
こんな山奥で一体何が起きているのだろうか。好奇心を抑えることが出来ず、その音の元へと走り出した。
数秒の後、俺は不自然なまでに開けた広い空き地のような場所にたどり着く。
『認識阻害魔法』はまだ有効のはずだが、念には念を入れて物陰に隠れながら音の発生地点と思われる2つの人影のようなもとへ向かう。
「……おいおい、まじかよ」
そこで繰り広げられていたのはゲームやアニメでしか見ることがないような光景だった。
一方は小学校低学年くらいの体躯で全身が黒い肌で覆われ、その頭部に2本の角を生やした鬼が必死の形相で小刀を振り回している。
そしてもう一方は―――。
「……まさかこんな形で出くわすなんてな」
全身が傷だらけ血だらけになっているにも関わらず、同じく必死な目で鬼を睨み付ける巫女服を着た少女、久遠京里だった。
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