幕間 異世界に召喚された者たち 1
「敵の攻撃が来るぞ! 防御スキル持ちは前へ!」
――地下迷宮の奥深く。
獅子の顔にケナガマンモスとゴリラを混ぜ合わせたような体の怪物『マンティコア』を目の前に、白亜の鎧に身を包んだ青年――『天城聖也』は臆することなく仲間に指示を飛ばす。
それを受けて彼の仲間は『物理攻撃遮断』『魔法攻撃遮断』のスキルを発動した。
「ブモォオオオ!!」
マンティコアはその拳に氷を纏わせると、天城たちを闇雲に攻撃する。
しかしその攻撃は天城の指示で展開されていたスキルによって全て相殺されてしまう。
「今だ! 凛、凌牙! 側面から攻撃を仕掛けてくれ!」
「わかった!」「おう!」
天城の掛け声に合わせて、軽戦士のポニーテールの少女『嘉山凛』と武道家の大男『大賀凌牙』は武器を構えるとマンティコアの側面に回り込む。
それを確認すると、天城は背中の鞘から光輝く片手直剣――【聖剣】を抜き放つ。
「光の精霊よ、我が剣に力を! 【天聖覇断】!」
【聖剣】から放たれた光の斬撃は光波となり、マンティコアの巨大な牙を粉々にする。
その衝撃でバランスを崩し、マンティコアはその巨体を大きくよろけさせた。
「【風牙一閃】!」
「【大瀑破】!」
その隙を逃さず、他の生徒たちもマンティコアの横っ腹に出しうる最大火力を叩き込む。
「今だ! 突撃!」
「「「うおおおおおおおお」」」
「ブオオオオォオ!!」
マンティコアは猛攻に耐えられず、ついに地面に膝をつけてしまう。
「回復士隊! スキル発動用意!」
「「光の霊よ、大地に根差す者たちに慈悲の輝きを。【
天城は攻撃を途切れさせないために、後方に控えていた回復士隊に回復スキルの発動を指示する。
そしてその間も攻撃魔法スキル持ちや射撃スキル持ちが絶えずマンティコアに攻撃を浴びせていく。
「ブオオオォオオオ……」
マンティコアは力なく鳴き声を上げると、大きな音を立ててその巨体を冷たく硬い地面に横たわらせる。
天城は万全の警戒を払って物言わぬマンティコアへ近づくと、その頭部に勢いよく剣を突き刺す。
マンティコアは最後にギョロリと目を天城に向けるが、それ以上何かをすることはなくそのまま息絶える。
それを見て天城は聖剣の刃に着いた紫色の血を払うと、剣を真っ直ぐ天に掲げた。
◇◇◇
「それじゃあマンティコア討伐を祝して、かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
クラスのムードメーカーだった畠田の音頭で生徒や騎士たちはジョッキを掲げる。
男子や護衛騎士たちは互いの健闘を祝って互いの腕を組みながら酒やジュースを飲み、女子たちは宮廷料理人が特別に用意したスイーツに舌鼓を打つ。
そんな仲間たちの様子を天城聖也はジョッキを片手に離れた場所から眺めていた。
「パーティーの主役がこんなところにいてよろしいのですか?」
「! プリシラ殿下」
天城が振り返ると、そこには青いドレスを着たブロンド髪の美少女が立っていた。
彼女の名はプリシラ・エル・センティエル。この世界に最後に残った人類国家、センティエル王国の第一王女にして、召喚の神アシェラの導きにより2-Bの教室にいた生徒たちを召喚した聖女でもある。
「殿下はおやめくださいと申したでしょう。私のことはただプリシラとお呼びください」
「そう……だったな。プリシラ」
天城が恥ずかしそうにそう言うと、プリシラは嬉しそうに笑う。
「それで勇者様は皆様と混ざらなくてよろしいのですか?」
「……何だか申し訳が立たなくて」
「勇者様は皆様を先導して立派に戦っておられましたよ。なのにどうして申し訳がないと?」
「今日の戦いはもっと上手いやり方があったはずなんだ。それができていたら杉山や檜森も……」
杉山と檜森は先のマンティコアとの戦いで負傷し、今は治癒院で治療を受けている生徒だ。
「なんか浮かない顔をしてるなと思ったらそんなこと考えてたんだ」
「凛……」
嘉山凛は呆れたようにそう言うと、天城の胸に拳を突き出す。
「言ったでしょ。【勇者】だからって何でもかんでも背負うなって」
「……そうだったな」
「あと杉山くんたちから伝言。『俺たちの分までパーティーを楽しんでくれ』ってさ」
「そうか。ならそうさせてもらうよ」
天城が笑みを浮かべると、プリシラはこれみよがしにその腕を掴む。
「それでは勇者様、私と共に会場を回りましょう! 今日は珍しい食材を使ったスイーツも用意されているんですよ!」
「あ、こら! 聖也はあたしと一緒に会場を回るのよ!」
「ちょ、ちょっと二人とも……」
凛とプリシラ、2人の美少女に引っ張られ天城は口では困ったように言いながらもその顔はどこか嬉しそうに見える。
「くそ、見せつけやがって……!」
「両手に華、いいなあ……」
「俺もあいつらみたいにイチャコラしてえなあ」
一方、そんな天城たちの様子を一部の男子生徒は羨ましそうに、或いは悔しそうに眺めていた。
「とにかくレベルを上げて戦果を上げよう!」
「女の子たちに振り向いてもらうにはそれしかないからな」
「そうと決まれば今日は目一杯食いまくるぞ!」
「ああ!」
男子生徒たちはそう決意すると、明日からの訓練に備えて英気を養うためにテーブルに並ぶ食事へと手をつける。
斯くして様々な思惑を抱きながらも、この異世界に召喚された生徒たちはそれなりに毎日を謳歌していたのだった。
自分たちがこれまでに住んでいた世界への望郷の念と、26人目のクラスメイトの存在を忘れていきながら……。
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