天蓋付きベットを揺さぶる一行、神々の宴、鏡の中のエレクトラ
僕たちは、あのクラシックな
「ねえ、ミケツさん?」僕は
「あァ…ん?」息を切らせている柴犬。まあ、4足歩行の彼がベットを揺らすのは中々に大変ではある。ちょっとした芸みたいでもある。
「これさあ。意味あんのかな?」思わず出た言葉。諦めの第一歩。
「さあ?」と柴犬は事も無げに言う。
「ええ…止め時分かんなくなってきたぜ?」ちょっとばかし疲れてきたぜ?
「と、言ってもねぇ」と
「彼女は―気が付いているのかな?」この揺さぶりに。もしくは自分の事に。
「ま、何もしないよりはマシ…人生と言うのは地道な作業に支えられている訳さ…あんま好みではないけどさ」と長田さんは言う。
「ま、相手は神と融合した何か、だ。時間のスケール
「マジかい…こっちは
「うーん…」考え始める神の御使い様。何か良い案は無いかな?
「このベットの中にダイビングできれば良いのにねえ…」と長田さんは言う。彼もこの
「ダイビング…ねじ込めばイケるかァ…?」とミケツさんは言う。
「ねじ込む?」
「お前の体―
「何?このベットに―非
「お前を
「ミスったら―」
「その中に
「流石に―そんな
「僕もさすがにそんなクソ度胸は無いなあ…」と
「それに―バレたら俺がウカノカミ様に消されるわい」とミケツさん。
「んだねえ。僕の身柄は彼女の手の上だ…あんま無茶出来んわ」
「なんか無かったっけなァ…いっそ、ウカノカミ様に連絡すっかなあ…」何?連絡できちゃうのかい?と言うのが表情に出たらしい、ミケツさんは僕に言うのだ―
「出来るけどさあ…頼めるけどさあ…どーすんの?
「差し出せるモノがないのか…」と長田さんは零す。そう、僕の命はもちろん無理だし、その他に何かあるのかな?
「この嬢ちゃんが、何とどんな契約しとるかは知らん、という前提の
「本人の預かり知らんところで話を進めても大丈夫かね?」と僕はミケツさんに問う。
「だいじょばない、なァ…マジで相手が
「僕も
「そんなに緊張関係なのかい?海と山の神は?」と長田さんは
「いくら、この国の神が
「ニュース見るたびに死にたくなるな、そりゃ」と僕は言う。自分のせいで―天災が起きたら…想像するだけでうんざりだ。
「話のスケールがデカ過ぎてピンと来ないねえ」と長田さん。まあ、普通はそうだ。それでいい。
「あー
「どうにかズルしたいもんだ…」と僕は零す。誰の手も
「コイツを放っておくのが一番だ」とミケツさん。まあ。
「あーめんどくさい!!もう呼んじゃえ、ウカノカミ様」僕は言っちまう。
「いや、この空間に呼んだら感づかれるっちゅうに」と半分キレ気味で言う僕を
「あ」僕は思わず口に出す。思いつき。
「あん?」とミケツさんはそれを受ける。
「前のさあ…緊急回線って、ウカノカミ様のところにも繋がるかい?」ここに呼ばずに
「んー?まあ?出来ん事もない…かァ?俺が
「ミケツさん」とこの話の蚊帳の外に居た長田さんは言う。
「おん?どした?長田?お前が何かするのか?」
「僕は―ま、普通の人だから。そしてせいぜいが
「ふん?お前さんは『何』で俺様と交渉する気だよ?」鋭く問い返すミケツさん。
「ミケツさんは『ヒレ』ってご存じかな?」長田さんは問う。
「そらあ…豚ヒレなんかは久井がくれるからな…ロースのご近所さんだ、ついでに言えば産出量の少なさ故に高級品だなァ」とミケツさん。久井さんの影響受け過ぎだろう…
「黒毛和牛のヒレって美味しいらしいよ?」と長田さんは言う。
「適度な霜降りと赤身の肉…一度食ってみてェなァ」不釣り合いな状況で涎をたらす柴犬。
「食べさせてあげようか?」と長田さんは言う。財布の心配は
「良いのォ?」ミケツさんには
「久井君に頼む…だから、さっきいおり君が言った事してくれない?じゃないとヒレはあげない」と少し意地の悪い言い方をする長田さん。
「良いんですか?お小遣いの危機ですよ?」と僕は現実的な心配をしてしまう。
「良いんだよ。若い子が頑張れる状況を
「やだ、カッコいい」と僕は言ってしまう。
「はは。嫁が居るから
「済みません…助かります」
「いや、そこはありがとう、だろう?」
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「ったく…しゃあねえのう。おい、長田、お前、リュックの中
「悪いねミケツさん」と言いながら、リュックの中身をそこらに捨てる長田さん。
「構わん。肉の為だ。仕方ねえ」
ミケツさんの目の光が、消えたような具合になる。そして、体は硬直する。まるで
「ちょ…大丈夫かい?ミケツさん!」思わず僕は叫ぶのだけど、ミケツさんの体が小刻みに震えはじめ、あの例の電子音が鳴り響く。
「トゥルルルル…トゥルルル…」以前と違うのは、相手の反応があるまで呼出音が鳴り響くところ。
「まさか―
「いやあ…多分、出ますって」と僕は希望観測を述べる。
「ミケツさん、フリーズしてるんじゃないの?」と長田さんはパソコン相手のような事を言いだす。
「ブルスクですか?まさかあ」ブルースクリーン・オブ・デス。全世界でおなじみのあのOSのカーネルパニックを指す言葉。その画面が表示される場合、そのパソコンは致命的なエラーを抱え込んでいる。対処としては電源を切るしかない。その後でリカバリするのだ。
「電源は―無いよね」と長田さんは冗談交じりに言う。
「いや、電源落としたら死にますって」と僕も半分冗談で受ける―けど。コレ、マジで
なんて。
そんな心配をしている時、ミケツさんの口がパックり開き―あの懐かしの声が聞えて来たのだけど。
「あ~い…ウカノカミでーす」嫌にテンションが高い。前は何というか柔らかさの中にクールさがある感じだったのに。
「ええと。
「ん。久しぶりぃ…」何というか―コレ酔ってらっしゃる?
「今、お時間頂いても?」僕はおっかなびっくり彼女に問う。
「いいよお…懐かしい面々と騒いで…る所だけ…ど」
「えーと。間違ってたらごめんなさい」僕はあらかじめお断りを入れ、彼女に問う―
「飲み会の最中っすか?」と。
「うん」事も無げに言う彼女。
「それはそれは。まあ、ちょっとお耳に入れたい話が―って言うかミケツさんから聞いていると思いますが―」
「ああ―アレかあ…何?今何…してん…のぉ?」
「今、相手さんの本拠地に居まして―」と僕は言いかける。それに
「ああ―あの
「はい?」
「
「へ?」一体、どういう事か―
「うん…さっきキツいの呑ませて潰したばっかだけど―ま、久々に連絡取ったら来てくれてさあ…盛り上がっちった、えへへ」旧友に会うノリで
「じゃあ―彼女を呑みこんだ
「さあね?もしかしたら―新しい神なのか…はたまたただの
「と、いう事は―僕らがやっつけても問題なし?」単純な方向に持って行こうとする。
「んー?流石にマズ…い…んでな…い?」
「影響は出ると?僕らの周りに」
「うん…人の思いやらなんやらが積み重なって―産みだされたモノだよ?」
「なるほど…そら、恐ろしいモンですわ」
「ま、君はかの女を―救…いた…いんでしょう?相変わらずお人よしだよねえ…」
「お節介なもんで…で?何か手は?」
「ちょい…待ち…
ここでしばし彼女の声が遠くなる。ワイルドな男性の声が聞える―
「いや、俺あの
「ええ~?じゃ誰が知ってるのぉ?」
「
「タケちゃん?あの剣貸してよ~」かの女神はおそらくヤマトタケルに絡んでいる―そうそうたるメンツで飲み会をしているらしい。
「いやあ…
「あれえ?どーしようか?」いや、それを僕に問われても…
「なんか
「ひとちゃん?起きてるか~い?」ひとちゃん…たぶん、
「へいへい…
「ウカノカミ様あ?」と僕は呼び出す。
「あいあい?」とノリノリの女神は
「ちょっとした空間にダイブしたいんですが…良いモノないすか?」適当な発注。
「水に
「多分…」
「おーい、
「へいへい…お呼びしました?」これは―
「得意の竹細工、見てみたいな~」と
「ワシゃあ酔っとっても凄いんですぞお…ホレホレ…ワシの指先の美技!!
「わあ~凄~い」爺様は
「…その二つ、送って
「ん…分かった…ミケツの体に
「ミケツさんの…口に手を突っ込まないと…いけんのです?」色々して貰っておいてなんだが、抵抗がない訳じゃない。
「大丈夫!ミケツから出るから!!じゃ、またねえ~」そう言ってかの女神は通信を終えた―あれ?
「…タダで働いてくれたね?神のみなさん」と黙って聞いていた長田さんが零す。
「後から請求されるに違いない…借りが増えちまった」と僕は零す。
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通信を終えたミケツさんは、口を閉じ、またもや死後硬直のような感じで、固まっていたのだが―お腹の辺りの筋肉がせり上がるような動きをしている。
「ミケツさん?」と僕は返事がない
「ああーこりゃ吐くねえ…飼ってた猫が吐く前ってこんな感じだったよ」と長田さんはのんびり言う。まったく、ミケツさんの
「ゲコォ…ゲコォ…」何だか
「うぉええええ…」とミケツさんは―
「うぐぅるるる…うぇえ」と二発目に吐き出されたのは、
「っく…ああ。死ぬかと思たでェ」ミケツさんはようやく意識を取り戻す。
「ゴメン。ミケツさん…お疲れ。後は僕が何とかしてくるさ」
「おゥ…しっかり気張ってけ。長田、済まんが頼む」とへたりこむ。
「はいはい…さて。僕はこの竹籠の命綱を持っておけばいいんだね?いおり君?」と長田さんは僕に向き直って言う。
「ええ。ただ―コレ、どうやって中に入るんだろう?」
「そこら辺はうまいことなるさ、取りあえず、その剣、腰あたりに
「それもそっか…とりあえず―カラビナでどうにか…」僕が今日、履いているパンツにはボルダリングの際にチョークバッグをぶら下げる為のカラビナが付いてる。
細身の剣を腰に結わえた僕は、竹で出来た隙間のない竹籠の前に座る。そして、ゆっくり息を吐く。そして吸い込み、蓋を開けてしまう―
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気が付けば竹籠の中に僕は居る。
「長田さーん?」外の彼に呼びかける。
「はいはい…」くぐもった声。一応外と話は出来る。
「この籠…あのベットに投げ込んじゃってください」
「ま、そうなるわねぇ…よし、食いしばってくれよ?
「何時でもオッケーです」籠の中は…まあ、竹細工な感じで、掴むことができるような部分は無い。とりあえず踏ん張る。
そして―
まるで遊園地の絶叫系マシーンみたいな状態になった。長田さんはどうやら、ブンブン振りましているらしい。僕の体に色んな方向からの
「あんま振り回されると吐きますよおお」と僕が
水の中に重たいものを沈めた時のような、ドボンという音がし、
「いおり君…グッドラック!!」と叫ぶ長田さんの声が遠くなっていく。
耳がキーンとしてくる。ああ。多分、あのベットの中の「海」に僕は沈んでいっているのだ…
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水の中に沈んでいく時のゴボゴボという音で目を覚ます。
「まったく…楽じゃない」と1人、
これが、あの
でも。今回の相手は―正体不明の何かだ。神なのか、はたまた
でも、まあ、僕はお節介焼の宇賀神いおりだ。何とかするっきゃない。
久々の1人はなかなか
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籠の
想定の
意識を自分の体に戻し終えた僕は、辺りを見回す。美しい光景ではあるけど―
「おーい誰か居ませんかあ?
こういう時にどうすべきか?
簡単だ。自分の
左手に海を
「おーい…」またもや吸われていく言葉。
ふと下に目線をやれば、僕の像が曖昧に砂浜に写し取られている。天然の鏡。
その光景を見て、僕はヘルマン・ヘッセの『デミアン』のラストシーンを思い出す。デミアンとエーミールの融合のシーン。エーミールの中にデミアンが宿るシーン。あの小説はユング心理学の影響が濃い。集合的無意識の中に自らを溶け込ませる、と言うのが物語の重要なファクタになってるように思う。 ※3
でも、自らを失ってはいけない。自らを手放した人間の行きつく果ては精神的な死でしかない。
でも、人生に向き合うのは大変だ。1人で何とか出来る程、イージーに出来ていない。
だから、僕たちは手を取り合う。『他人』達と。そして人生を分け合う。荷物もみんなで背負ってしまえば、なんて事はない…なんて。考えてしまう。
その中に
「おい!!聞こえてるか!!」その叫びに応じるかのように縛められた彼女は身をよじる。
「聞えてるね?よし、今、アンタをそこから出す―」と言ったは良いものの。どうやればいいのかしらん。貰った剣で突いてみるか?
僕は腰のカラビナに結わえた
が。
砂浜が、鏡が。バラバラに砕け散るのを、僕は見た。足元が崩れ、僕は重力の為すがまま、落下していく―
「やっべ…死ぬのか…僕…」最近命の危機が多い。多分、日本で一番死にかけている18歳女性だと思う。ああ、ヘタこいた。余計なお世話を焼いたせいで、僕は死にかけている。
大した人間じゃない癖に、
まるで―スカイダイビングをしているかのような光景が僕の目の前に広がっている。視界はひたすら、
頭が下を向いて落ちてるせいか、血液が逆流でもしてんじゃないのか?という感覚に襲われる。何とか『今は』意識があるけど、もうそろそろブラックアウトしても―おかしくない。
頼むから―どうか彼女位は見つかって欲しい…じゃないと僕が無駄死にすることになる。どう考えても、ウカノカミ様のお説教1000年コース
情報量過多で処理速度を遅めていた僕の脳が何かを捉え―彼女だ!!腕を、手を、伸ばす。頼むから届いて欲しい。
僕の指先が何かを捉える。さっきから握りっぱなしの剣の柄ではなく、何か鎖のような何か。これは、彼女を縛める蟒蛇か?
落下している中で声を出すのは難しい。だって周りの空気が高速で流れているのだ。
僕は黙って、身をよじる。重力に逆らって。そして。右腕に力を入れる。まだ
全力で体を
この体勢、どっかで見た事ある…というかスカイダイビングか…ま、いい。剣を―あの縛めに向けていく。そして、
全力で、柄を
金属が
しっかし…硬い。まあ、相手はこの世ならざるものだから仕方無いけどさあ。この無理くりの体制で頑張ってる僕にはキツい。
でも、諦めない。ここまで来ちまったからには絶対に―彼女を連れ帰る。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
あたしの
どうやら彼女は―やったらしい。まったく、意志の強い
縛めは悲鳴を上げる。
「どうして―こんな事を受け入れるの?」問われる。
「あたしさあ…
「でしょう?なら―この剣を抜きなさい」
「でもさ。あたしは―自分に嘘つくの止めようと思うんだ」
「それで、貴女は生きていけるの?」
「分かんない。人であるあたしらの人生はせいぜい100年だけど。まあ長い」
「楽して、ズルして…いいのよ?」
「ね?楽するのは悪いこっちゃない…貴女に教えてもらった事さ…でもね?自分を
「その矛盾と共に私と生きればいいのに」優しい
「なあ。貴女が姉の子どもを
「ええ。姉から与えられた―使命だったから」
「
「子どもは―守るべきものでしょう?」
「あたしはもう28だ…いい加減大人なんだよ…」
「私からしてみれば子どものようなモノ」
「子離れの時間だ…いい加減。大体あたしは君の子ですらないしね…神の世と人の世を繋いだ偉大な
「どうして―皆、私から離れていくの―」ほとんど悲鳴に近い。
「そりゃ。君の育てた子も『個』を持つからだ…自分と同化させるな」厳しい言葉を吐いてしまう。
「それが―母でしょう?」
「いんや。違うね。
「ええ。
「うん。アンタはいい母だが、それ止まりだ。いい親ではない」
「否定するのね」
「否定じゃないさ…指摘をしただけ」
「貴女が私を離れるならば―その代償を私は望む」だろうな。タダって訳にもいかんよね。
「いいよ…命でもいい。世話んなったからね」
「嘘でしょう?」
「バレるか…んまあ?あたしなんかを救おうとする、かの少女にあたしは
「貴女は―私を忘れるかしら」彼女は問う。
「貴女が記憶を奪わない限り、病に脳が
「なら―もう、いい」諦めるかのように言う彼女。
「済まん。そしてありがとう…命を落としたら…貴女にあたしの生涯を紐解いてやるから―勘弁してくれ」
「その約束―
「おう。約束するさ」あたしは優しくて、残酷な彼女に言う。
「さようなら―」
「またね…なーに、すぐ来るさ」とあたしは言っておく。大して長い生涯にはならない
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
そうして。
僕は、
あたしは、
手を取り合う。なんでだろう?初めて出会う私たちは何処か似ていて。でも『他人』で。
遠く長い人生の中で、か細い縁で繋がった…相棒なのか、
まあ、いい。
さっさと
あの―どうしようなく
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
僕たちは、手を繋いだ状態で、あの団地の廊下に戻ってきた。長田さんとミケツさんは一足先に戻っていたらしい。心配そうな顔で僕らを
「何とか―なったぜ、オイ」と僕はごちる。
「ああ、何とかしたんだね」と長田さんは言う。
「まったく―お前は見てて飽きねェわ」とリュックでぐったりしているミケツさんは言う。
さて。彼女は?繋いだ手の先の彼女。
「髪、長っ」と僕は思わず言う。
「ま、引きこもりあるあるさ…髪切りに行くのは大変だから」と長田さんは言う。
「に。したってよォ…ほぼ全身
「まったく…僕には出来ん事やで」と僕は言う。そして。肩のあたりを揺さぶる。
「おーい?美和さん?大丈夫ですかあ?」
「…うん。たださ…力が入んないんだよ…
「ええ?マジ?」と僕は言うけど、揺すぶった肩は、ほぼ皮膚と骨みたいなか細い肩だったな…もしかして?絶食状態か?
「とりあえず―そのようにしよう」長田さんはそう言い。電話をかけ始める。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
美和さんは…救急車で
病院で
美和家の人々は―数時間後に病室に現れる。
「すみません…ウチの娘がご迷惑をおかけしました」と美和老人。
「まあ…
「まったく…
「いおりくーん?どうどう」と長田さんが言う。
「済みませんね…ウチの家内は正直過ぎまして」間に挟まれる美和老人は縮こまり、消えてしまいそうになっている。
その間、ベットで点滴を受けながら和美さんは眠っていたと思うのだが―
「父さん…母さん…久し…ぶり」と絞り出すように彼女は言葉を放つ。
「和美?大丈夫か?」美和老人は心配そうに言う。
「大丈夫では…無いね…この
「自己管理さえできないの?貴女は」と美和夫人は
「まあね…でもさ、忘れない内に…言っとくよ…母さん」
「何?」興味がなさそうに婦人は返事をする。
「アンタに産んでもらった事だけは感謝する、が。あたしは『あたし』だ。アンタの人生のやり残し…は自分で何とかしろ、あたしの知ったこっちゃない…」
「そんな
「最近、気付いたもんでね…」
「別に―遅い、という事はない」美和老人は和美さんと夫人に
「父さん…ありがとう」絞り出すように言う彼女。
「なに、大したことじゃない」何気なく言う美和老人。
「さて。僕らは―いったん引き
「ですね。後は和美さんに任せましょう」と僕は言う。
↑ 本文、了
本稿の執筆にあたり、以下のサイトと文献を参考にした事を明記します。
※1 『両刃の銅剣』
①「銅剣」
京都国立博物館 所蔵
@ColBase 国立文化財機構所蔵品統合検索システム
https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyohaku/J%E7%94%B2255?locale=ja
②「銅剣」
京都国立博物館 所蔵
@ColBase 国立文化財機構所蔵品統合検索システム
https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyohaku/J%E7%94%B2507?locale=ja
③「銅剣」
京都国立博物館 所蔵
@ColBase 国立文化財機構所蔵品統合検索システム
https://colbase.nich.go.jp/collection_items/kyohaku/J%E7%94%B2260?locale=ja
※2『突剣』
「レイピア」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Different_Rapiers.jpg#/media/File:Different_Rapiers.jpg
@wikipedia
「エペ」
Object: Object: Dix pièces: bouclier repoussé et damasquiné, épée à deux mains, épées et dagues
Series: Series: Collection d'armes de cabinet de M. le Comte de Nieuwerkerke
@The British Museum
https://www.britishmuseum.org/collection/object/P_1871-0610-885
※3『デミアン』
「デミアン」
ヘルマン・ヘッセ
高橋健二 訳
新潮社文庫
1951
新潮社
※4「フェンシングのフルーレ」
『FIE競技規定(日本語訳版)・用具規定(m)』
m6~m13
@公益社団法人 日本フェンシング協会
https://fencing-jpn.jp/rule/
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