ケチャップのかかってないチキンライス、人生には数多の挿話あり、断らない女
翌日。僕は目を覚ますと、ミケツさんの様子を見たけど、まだ爆睡している。疲れが深いらしい。今日くらいはそっとしておこう。
ミケツさんのエサ皿にいつものカリカリを入れておく。
バイトは朝8時始業だ。スーパーの
仕事場では、社員さんが魚を
切り身になった魚。布やクラフト紙のミートペーパーを使って、血をふき取り、トレイに盛りつける。この際、寄生虫の
トレイに盛りつけた切り身を6段カートに並べていき、適当な数量になったらオートパッカーのところへ。オートパッカーはラップかけと値付けを同時に行うハイテクマシンだ。下の商品投入口に商品を入れると上段にラップかけと値付けを済ませた商品が出てくる。ラップかけは手動でも出来るけど、アレは手間だ。その上綺麗にかけるのは難しい。 ※2
ラップかけを済ませた商品達を売場に持って行く。そして
開店した後は、商品の減り方を見つつ、社員さんにコレない、アレない、と言って商品を作ってもらって僕が並べる。暇なときは
開店してすぐは常連さんが来店する。魚は朝イチで仕入れるのがグッドだと知っている方々が今日の
そして昼になれば、少し客足が鈍る。僕の仕事がここまでだ。社員さんとパートさんに挨拶して、更衣室で着替え、バックヤードから売場に出る。昼ご飯の確保をするのだ。このスーパーは従業員
今日は何にしようかなーっと売場をそぞろ歩く。そう言えば―ミケツさんに何か買ってあげなきゃな、と思った僕は久井さんのバイト先に顔を出す。売場にはお姉さん―
「宍戸さん、こんちわ」と挨拶。
「ん?いおり君か、おっすおっす」と元気に返してくる。この人は職場が別なのもあって、フレンドリーに接してくれる。一緒だったら―まあ。色々ある。かく言う僕も鮮魚のパートさんとは緊張関係にある。仕事での人間関係というヤツだ。社員さんは庇(かば)ってくれるけど。
「今日のおすすめあります?昼ご飯のネタ探してて」
「んー?
「えっと…何ですっけ?それ」
「豚の首んトコのお肉。焼肉ではメジャーだよ?」
「ああ…あのジューシーなアレっすね?」
「そ。またもや肉えもんがしくってね」また仕入れ過ぎたらしい。
「それ、犬が食べるのはどうすかね?」
「ちょっと脂がキツい気がするなあ…って犬にあげるのかい?昼ご飯は?」
「ええ。昼ご飯はついでっす」
「犬になら
「も、いいんですけど。少し
「んー?じゃ、ちっと贅沢過ぎるかもだけど、牛モモの切り落としはどーだい?グラム400円だけど」
「わお。リッチ…だけどそれにしようかな。あ、豚トロも下さいな」
「まいどー」
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バイトから帰り、豚トロともやし炒めの昼食を済ませた僕は部屋に戻ってみた。ミケツさんの様子が気になっていたから。
当のご本人は―犬ベットに寝転がってはいたが、眼は覚ましていた。良かった…まだ起きてなかったら動物病院に駆け込むところだった。
「ミケツさん…おはよう。昨日は色々ありがとう。助かったよ」と僕はお礼を言う。
「ああー?別に
「その仕事のお陰で助かったよ…下手したら、まだあそこに居たかも」
「何とか緊急回線が繋がったお陰だ…運が良かったんだよ」
「お礼と言っちゃなんだけど、牛肉買って来たよ…食べる?」
「おうおう!食う食う!!お前肉臭いからなァ。で?どこの部位さ?」
「ん?赤身の…モモの切り落とし」
「そいつは―楽しみだ。
自室のリビングに
鍋の中で沸騰したお湯に赤身の切り落としを入れてサッと茹でる。そしてザルにあけ、犬用のお皿に盛って、くるりとした尻尾をブンブン振ってるミケツさんの前に出す。あっと言う間にがっつきだす。鼻をキュンキュン鳴らしながら食べるミケツさん。喜んでもらえてるようで何よりだ。
「…美味ェ。カリカリとはダンチですわ…んぐ」と
「そりゃ、グラム400円だかんね。よーく味わってくれよな」
「ひぃ、そらァしょっちゅう食えたもんじゃねーわ」なんか貧乏くさい。
「そんな事してみろよ、僕が破産する…ってああ。
「まったく…お前の携帯死んだせいで、
「ゴメン、油断してた」
「ま、構へん…が」ここでミケツさんの表情が
「が?」まあ、そうなんだよな。これからが面倒だ。
「お前、面倒な事になってんの分かってっか?」まん丸お目めを
「一応、ね。しかも―また行く事になると思うよ」
「もうアレはやんねー」とミケツさんは言う。
「うん。次の携帯は完全防水のタフネスなヤツにするさ…んで?僕は一体―何に行き会ったんだろうか?神様?」
「と、人が混じりあった何者か、だと思うな」とミケツさんは予測を述べる。
「混じりあった?そんな現象があるの?」と僕は疑問を
「んなモン、あるに決まってるだろ…神のお告げという物は古来、
「でもさ、それは一時の話じゃん?ずっと神様を
「そりゃ道理だが、そんな事が出来ちまう特異体質の人間が居るのも事実だ。
「その場合ってさ、人格はどうなるの?パソコンのOSみたいにマルチブート状態に出来るの?」
「ん?まあ、それは神
「へえ…ねえ、
「命を取る事も珍しくないなァ。でも、そんなのはした
「宗教とかかい?」と聞いてみる。手っ取り早い話ではある。
「それ以外もあるぞ?昔なら武将、今なら会社経営者なんてのもあるらしい」
「んげ。それってモロ
「あたぼーよい。神というのは案外、俗っぽい…つうか人を好む。力の源としてな」
「神に
「かもな?でも、
「いやさ、人間の自由意志なんて幻想だって。リベットの実験で立証済みだろ?」人間は『こうしよう』という意識の前から行動を初めているとする実験の事だ。※3
「幻想でも―それがあると信じれる事は案外大事だぞ?いおっちゃん」オッサンの説教じみてきた。
「どうだろうね…その結論を得るのは死ぬときじゃないかな、
「んー?順当に行くなら宗像3女神の誰かじゃねぇの?残念ながら」とミケツさんは言う。
「ですよねえ…僕もそんな感じじゃないかなって思ってた」と諦めてしまう僕。
「アイツら、秘密主義だかんなあ…攻略法は伝授出来んぜ?」とミケツさんは言う。
「攻略って…ゲームじゃないんだから」と僕は突っ込んでしまう。
「あんなん、恋愛ゲーの
「無理筋ヒロイン…ね。生憎、僕は姿すら見てないわ」と話に乗りつつ言っておく。
「そら、神さんは姿を見せないもんよ?」何言ってんだお前の顔で言うな。
「は?ウカノカミ様、
「アレ?あんなん、アバターみたいなモンだって。実際、宗教画なんかは明確な姿を書く事を避けるんだぜ?特に
「でも…仏教とかキリスト教はガンガン露出するよね?」
「ま、西洋のアレは宗教画にかこつけたエロ絵だったりもするけどな」なんで知ってるんだよ?管轄の外だろうに。
「
「俺、山の神のいわばパシリよ?んな事知ってる訳ないじゃん」とミケツさんは悪びれもなく言う。
「おい…牛肉返せや」と僕は
「あ?そしたら昨日の救い
「うん。ゴメン…ま、ちょっと考えてみるよ」
「おう。そうしろ…一応ウカノカミ様にも連絡しとくが―あの人面白がって情報くれんと思う」とミケツさんは
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さて。今の僕は何をしているのかというと―自分の銀行口座の残高をチェックしている。コンビニのATMで。なんでかって?スマホが水没したからだ。残高は少ない。4桁しかない。これで機種変更に
「安藤さん、ちわっすー」と僕は挨拶。
「ん…いおり君か、お疲れ様。どうしたの?事務所に何か用?」と画面を見つめながら返事をする。
「いやあ、スマホが
「別にいいけど―どうしたの?」
「水没させちゃって…」と僕は半分の事実を述べる。
「トイレで
「ははは…以後気をつけまーす」なんて返事をしながら、
父の携帯には繋がらなかった。どうやら忙しいらしい。時間を変えようかとも思ったけど、次の訪問までに連絡手段を確保しておかなければ面倒な事になりかねない。背に腹は代えられぬ。お母さんの携帯に電話をかける。
呼出音は1分近く鳴り続いたけど、電話は繋がってしまった。ああ。面倒だなあ。
「もしもし?」とキレのあるアルトボイスが受話器越しに聞こえる。
「ああ、お母さん?宇賀神いおりです。今、電話いいかな?」
「遅めのランチ中だけど―まあ問題ない。要件は?」この人はせっかちだ。
「いやさ…携帯、壊れちゃって」と僕は言う。
「で?カネがないから私に連絡したと?」そうです。助けてください。
「うん…いや、
「アンタ、管理が甘いのよ…」
「ちょっとした『事故』に見舞われてね?」と僕は事情をチラつかせる。彼女の察しに期待している。
「それは―電話口で説明できる話かしら?」と問う彼女。案外に勘が良い。まあ、彼女もまた
「うーん。まあ、難しいかな」
「じゃあ、ウチに来なさい。今日の20時には帰宅しておく」とあっけらかんと言う彼女。
「へ?忙しいんじゃないの?」僕は驚く。基本仕事を中心にして生きている彼女が平日の夜に時間を空けるのはかなり珍しいのだ。
「娘の為に時間を作る母親―珍しい話かしら?」と嫌味を述べる彼女。
「ま、昔なら考えられなかった話ではある…でも助かる。じゃ、また夜に」と僕はお礼を言いながら電話を切った。
電話を切ると安藤さんが視界に入る。その顔は何処か優しい。
「安藤さん?どうかしたんすか?」と僕は問う。
「ん?いや…家族と和解したんだなあ、てね」と応える彼女。僕の家庭の崩壊を最初に見抜いたのは彼女だ。
「ま、色々ありましたから」と僕は言う。
「人生には数多の
「ええ。人生サボる訳にもいかないし」
「ん。グッドラック」
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久々に帰った実家は綺麗に片付いていた。ヘルパーさんが来ているので当然の話なのだけど、相手は
「久しぶりね?いおり?」とテーブルで向かいあう彼女は言う。
「でもないだろ?半年ぶり位かな?」
「便りがないのは元気な証拠だと分かっていても―まあ。心配なのよ」と彼女は弱弱しく言う。似合わない…けど、コレが今の彼女で、本当の母だ。
「ゴメン、バイトしてたり、寮でみんなとダラダラしてて…忙しかったのさ」
「
「うん…」と僕は受け、ちょっと考え込む。どう説明しろというのか?
「もしかして―
「別に自分から状況に飛び込んだ訳じゃないんだ…だから『事故』なんだよ」と僕は言う。
「ふむ…まあ…貴女も私と血を分けた娘―
「いや…あのさ、長田さんにさ、訪問活動に着いて行ってほしいって頼まれてさ。宗像の女のひとの家なんだけど」
「で。ミケツ様はお留守番をしてた訳ね…まあ、しょうがないけど、長田も居たんでしょう?」
「そりゃそーだけど、あの人は普通の人なんだよ」と僕は言い訳しておく。
「とは言え。監督責任がない訳じゃない…明日説教ね」長田さんと母は昔、取引先の関係だった。知り合いなのだ。そして、その関係は母が優位を取っている。それを示すエピソードにこんなものがある、
「じゃ、入寮に際して、
「それは―構わないけど。はいコレ…長田?領収書、切ってくれるわよね?当然」と母は厳しい口調を長田さんに投げかける。
「あ、忘れてた―」と長田さんは焦ってる。
「アンタ、この金、
「いやいやいや…
「ふぅん?この
「勘弁してくれ…
「昔からそうよね?アンタ絡みの案件は何処か不備があったもの。私がどれだけ尻拭いしたか、覚えてるわよね?」母の仕事的な交渉術を初めて見た訳だが―怖い。相手に回したくない。
「その節は誠に申し訳ありませんでした―以後このような事がないよう努めますので、今回は
「よーく。覚えとくわ、その言葉。
「へい…」
ああ。要らんトコ見てしもうたぞ…
と、まあ、こんな話。長田さんは我が母に頭が上がらない、という事。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「―と。まあ、そんな訳で、僕は
「…」
「どうせ、また長田さんと宗像に行くハメになると思う」と僕は言う。この話を投げてもいいけど。そして向こう側から投げてくれることを期待するけど。でも、始まってしまっているのだ状況は。ルビコン川を渡ってしまっている。後戻りは不可能に近い。
「で?ミケツ様は―相手をどう見ているの?」と母がようやく言葉を放つ。
「神―宗像3女神の1
「
「ミケツさん
「そういう事例も無くはない…でも。それは大きすぎる対価を払って為し得るモノ。神の祝福なんかじゃない。ただの
「人というデバイスを使って社会を
「そう。神様だってお人よしではない。極めて世俗的で、欲に
「人間とさほど変わらない」と僕は感想を述べる。
「何故なら神は人の想像力の
「でも。それは人の手を離れた瞬間、力を得た。個別に存在し始めた」反論。別にここで結論を出そうとしてる訳じゃないけどさ。
「それが民衆、社会の恐ろしいところでもある」
「同時に社会を縛るルールにもなる…薬と変わらない。ベネフィットとリスク」と僕は言葉を繋げる。
「その利益が―本当にその人間の為になるかは怪しい所だけど」
「ま。上手く使えるヤツは良いけどね。そんなにうまくやれる人間はそうそう居ない。リスクに
「とは言え。貴女にどうにか出来るものなのかしらね?」と母は僕の先を
「分かんないよ、正直。あんま関わりたくないってのが本音」素直な感想。要らん目に遭いたくないのが本音。でも、でも…
「せいぜい
「そ、お母さんに似ちゃった」そう。母は『断らない女』なのだ。それがどれだけしんどい話であれ、バイタリティで何とかしてしまう。それが負担になる事も
「ウカノカミ様に
「ご心配どーも。でも僕には
「アイツ―隠れてサボる技術は目を見張るものがあったわね…よく仕事中に抜け出して私に
「そーかい…ま、何とかするさ。マジでダメそうな時は適当に投げる…という訳で、スマホ代頼まれてくれない?流石に連絡手段ナシにあそこに行くのは怖すぎる」
「…コレ、借金よ?私は投資に対して常にリターンを求める」ウチの家訓はカネには厳しく、だ。
「うーん?まあ、適当に何か考えとくよ…まさか―利息取るつもりじゃないだろうね?」僕は思わず聞いてしまう。
「10%って言おうと思ったけどね?」と珍しくジョークを言う母。
「10日でかい?それ、利息制限法違反だよ?まさか知らない訳じゃないよね?」
「まさか。返済時に1割、色をつけろ、って言おうと思っただけ」
「バイトの身では厳しいっつうの」と僕は不満を述べておく。
「とは言え。稼いでない訳でも無いでしょ?」と母は何の気もなしに言う。
「あのねえ。昼までの仕事でそんなに稼げないよ…貯金もしないとだし」
「貯金…してたの?」意外そうな声で言うな。
「一応…ね。学費になるか、転居費用になるか、はたまたって感じだけど」
「18にしては上出来ね…無駄遣いしてるものかと」
「ボルダリングジムなんかには行くけど、そもが無趣味で化粧もあまりしないし」と僕は言う。普通の女の子は色々
「化粧はしなさい。最低限」と母は言う。
「別に化粧
「あのね?人は案外、見た目、第一印象で生涯の印象が決まってしまう訳。化粧しない
「いやいやいや…まだ先の話じゃんよ?社会出てからの話でしょうが」
「もう貴女は社会に出ているじゃない?」
「はい?」
「バイトだって立派な社会参加よ…まさか―バイトだからってお客様感覚なんじゃないでしょうね?」と母は畳みかける。
「真面目にやってるってば…」
「本当かしらね?舐めてると痛い目遭うわよ?」
「怖い事言わないでよ…ていうか、今はあの『現象』優先!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
久しぶりの母との対話は―疲れた。あの人は圧が凄い。わざとではないだろうし、僕を害そうとしてる訳じゃないのは知ってるけど―なんというか、どっと疲れた。さっさと帰って寝よう。明日もバイトだ。
あの懐かしの広くて真っすぐな道をとぼとぼ、寮まで帰る僕。夏の夜は涼しくて、歩きやすい。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日―バイトを済ませ、昼ご飯を食べている時、事務所に居た安藤さんから
「宇賀神君?お母様から電話」と安藤さんは言う。
「へ?」昨日、お金を
「いおり?とりあえず口座に10万程振りこんどいたから」と簡潔に言う母。
「アレ?えらく早いじゃない?もうちょい時間かかると思ったけど」
「あのね。私はタスクは早々に潰すようにしてるの。それはプライベートでも変わらない」と母は言う。
「取りあえずありがと…でもさ、タスクは早く潰すのが主義なら、片付けもキチンとしてよね?あと郵便物も
「人間、すべて完璧という訳じゃない。何処かで釣り合いをとるもの。私の場合はそういう事ね」と反論する母。言い訳としては3流。ま、いいけどね。治る訳ないとも知ってるし。
「有り難い話をどーも。んじゃまたね」
「気をつけて」そういう母。昔では考えられなかった締めの言葉。
かくして夕方。僕は携帯ショップに居る。僕の加入してるキャリアでは、アウトドア仕様のタフネススマホが出ていて。僕はその機種を選び手続きをしている。水没したスマホの方はSIMカードを抜いて、向こうさんに渡した。修理するって手もあるけど、これから先の事を考えると正直厳しいものがある。どうせまた海みたいなトコロに飛ばされるのだ。アレではどうしようもない。今回は―母から
「しかし―派手にやりましたね?」とショップのお兄さんは言う。
「まあ―色々ありましてね」と僕は
「さっきバックで
「まあ。そんな感じっす…」と僕は応える。
「ああなると―ま、下取りは無理ですね…ばらして
「もう適当に処分しといてください…幸いデータはバックアップ取ってあるんで」
「いやあ。最新機種なのに勿体ない…こっちは儲かるから良いですけど」正直なお兄さんらしい。
手続きを済ませた僕は帰路に着いた訳だが―機種変更したばかりの電話に着信。まだデータを移し替えてないので誰からなのか分からない…ん?いやお父さんか?この番号。ま、応答してしまおう。
「もしもーし?」と僕は
「いおりぃ!やっと繋がった!」と父の声。
「へ?もしかしてこの番号にずっとかけてた?」と僕は聞いてみる。
「当たり前じゃボケ!共生組合から着信してたから何かあったのかと」
「ゴメン。
「ちっとばかし立て込んでてな。夜しか暇がなかったから共生組合には連絡取れんし、お前のスマホはだんまりだし―もう、心臓がバクバクでしたよ?お父さん」
「いや―まあ、こっちの配慮が足りんかった…ゴメンよ」と僕は
「ま、無事なら良し」いや無事でもないんだなコレが。
「さっきスマホを
「あ?お前
「うん…ま、事情によりタフなヤツに
「カネはどーしたのよ?」
「お母さんから融資してもらった」と僕は言う。
「げ。
「ウチのオカンが
「いや、思わん」即答である。どんだけカネに厳しいんだよ。ウチの母は。
「これから頑張って、色つけて返さなならなんだ…
「何?期限付き利息付きで借りたのかよ?宇賀神さん…カネには
「その口ぶりだと―お父さんも借りた事あるね?」と僕は尋ねる。嫌に話のディティールが細かいのだ。
「おん?独身時代にちっとな…
「容赦ないなあ。お母さん」感想が漏れてしまう。
「カネの恐ろしさを知ってるからじゃね?ま、いおり相手なら容赦してくれるだろうが…それとも何か?借り換えするか?」父の提案。いや、重い愛が付いてくるからいいや。
「いや。自分でどーにかするさ…赤ちゃんの調子どう?」と僕は
「んー?もう大変」と父。まあ、生まれたばかりの子どもだ。手間はかかるだろうし、奥さんの方はもっと大変だ。
「子育て2周目でも
「何時だって子どもは大変さ…ま、嫁がしっかりしてるから何とか」
「ああ。
「お互い心構えがあっても―乳児は手間がかかる…ま、可愛いけどさ」
「まあ、
「お気
「ま、ボチボチ。バイトしつつのんびりとね」と僕は現情報告。
「そいつは何よりだが―将来設計、
「それは―否定できない。バイトで手一杯って感じでさあ。情けない話だけど」
「お前さ、高校3
「多分、普通の人並には」と僕は曖昧な答えを父に示す。
「アホ。行ってたトコに連絡取って、確認しろ…後、書類も作って貰え。単位証明のな」
「へ?なんでさ?何かあるっけ?」
「
「マジで?」そう、僕は高認の科目を全部受ける事を想定していた。お陰で気が重くて後回しにしていたのだ、アホな話だけど。
「取ってた単位によっちゃ、試験をかなりパス出来る…時間短縮できるし、大学受験にリソースを回しやすい」
「…あの学校に連絡取るのは嫌だな」と僕は言ってしまう。良い思い出がないのだ。
「感情に
「ん。分かった。後で何とかしとく…そろそろ寮に着くから切るね?」
「おう。しっかりやれよな」父は案外に僕をスポイルする気はないらしい。もう少し甘くても良いのにさ。
↑ 本文、了
本稿の執筆に当たり以下のサイトを参考にした事を明記します。
※1
「ブリ糸状虫(Philometroides seriolae)」
食品衛生の窓
@東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/musi/22.html
2021年12月25日 閲覧
「アニサキスによる食中毒を予防しましょう」
@厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000042953.html
2021年12月25日 閲覧
「ラジノリンクス(Rhadinorhynchus) 鉤頭虫類」
食品衛生の窓
@東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/musi/25.html
2021年12月25日 閲覧
「タイノエって何者?タイの口から顔を覗かせる奇妙な生物を見つけた」
@FISING JAPAN
https://fishingjapan.jp/fishing/7293
2022年1月24日 閲覧
※2
「自動計量包装値付機」
@株式会社イシダ
https://www.ishida.co.jp/ww/jp/places/delicatessen/packing/automaticwrapper/
2022年1月24日 閲覧
※3
「ベンジャミン・リベット」
@Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ベンジャミン・リベット
2022年1月24日 閲覧
※4
「高等学校卒業程度認定試験(旧大学入学資格検定)」
@文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiken/
2022年1月24日 閲覧
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