凍てつく母、いおりのモーニングルーティン、久井のお仕事、コーリング・ファザー
「
「ただいま…別に僕が居ても居なくても―いいじゃないか…気にするなよ」と僕は毒を吐く。
そう、彼女は僕を―認識してないんだ。たまたま産んでしまったけど、それは社会通念の
「晩御飯は?」と彼女は僕の
「…色々あってね、友だちと食べた」と僕は言う。
「友だち?貴女、学校なんて行ってないじゃない?まさか―非行仲間?」
「違う」違う、そんなのじゃない。
「じゃあ…なんだって言うの?悪いけど面倒は起こさないでもらえるかしら?新しいプロジェクト立ち上げたばかりなの…貴女に時間を取られたくない」ああ。分かっていたけど―コイツはそういう女だ。
「面倒をかけるつもりは…無いよ。ただ、少し時間を
「何かしら?悪いけど私の時間は高いわよ?」フレームレスの眼鏡の奥の目が鋭く僕を見据える。
「さっき言った色々に絡む話だけど―」と僕はこれまでの経緯の要点を伝える。
「追い出し屋と知り合った訳ね?」彼女はすぐさま理解し、僕に要約を投げ返してくる。
「そうじゃない!」僕は否定する。悪く言われるのは腹が立つ。知りもしないで。
「社会福祉をメシの種に変える
「アンタはさあ…」僕は声を震わせ、目の前の
「別に『1人』でも生きられるんだろうよ!お父さんが嫌ってたのはそういう部分だ!自分勝手で―自分以外の人間を
「その通り」彼女は何も無さげに言う。だから何だって言うのよ?そう言いたげな。
「僕は―悪いけど、アンタほど強くは無い、他人の力を借りなきゃ立ち直れない
「私の血を
「ああ。アンタに似た部分が無くて有り難いと思ってるよ。そこだけは父さんに感謝してる」と僕は彼女の冷笑に
「そうねえ…アンタ、この家出たいの?」と彼女は僕の話の初めに立ち返る。
「出来れば、ね」
「生計、立つのかしら?家から出たら何かと
「学校には―戻らない」
「へえ。働きなさいよ、じゃあ」
「でも―すぐさま完全な独立は無理だ…そこは認める」
「ふむ。で?その追い出し屋の寮の費用だけは出して欲しい訳ね?要するに」と僕に先回りし、彼女が道を
「そうです…」ああ。このままでは彼女の思い通りにされてしまう。
「…」と急に黙り込んだ彼女。多分、どうやったら一番自分が損しないか検討しているのだろう。
「今日、
「これで話はお終いでいいかしら?」と彼女はうんざりしたような顔で言う。
「ああ。でも―電話してくれよな」と僕は彼女に念を押す。
「まあ、珍しく貴女が私に頼み事をしてきたんだから、してあげましょう。これは貸しよ」
「ああ。その内返す。家を出るって形でな」
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翌日。レースのカーテン越しの
僕が見る夢は想像力の
一時的な記憶が長期的な記憶に置き換わる時、連続した形ではなく細かく切り刻まれ、脳の各所に分散され刻み込まれる。そう。このカットが
僕の見た夢は昨日の出来事の時系列がめちゃくちゃになっていて。楽しかった記憶のすぐ次にあの母の冷たい目が
まったく…。ホント、彼女は僕に害しかなさない。直接的に手を下さなくてもきっちり苦しめてくる。
枕もとのスマホを見れば時刻は七時前。冬とはいえ西の方にある福岡の日の出は早い。この時刻なら、リビングに出ようが彼女は居ないはず。寝ぼけ
リビングの窓にかかったカーテンは開けてあった。お陰で明るい日差しが部屋に注ぎ込まれている。でも、その明るく
ダイニングテーブルの上には昨日の
ダイニングテーブルの向こうには巨大なテレビが
昨日着ていたナイトウェアは窓の近くに置かれたクラシックな木のフレームのモケットカラーのツーシーターのソファの上に乱雑に脱いである。どうせここで酔って寝たに違いない。でも、彼女は平日になればギアを変え、早朝から出社し、夜中しか帰って来ない。
ああ。今日もアイツの後始末で一日が始まる。そう思うと
「まったくもう…」そう言いながら僕は部屋を片付けてしまう。リキュールのボトルを棚に戻し、朝食の跡をリビングの端に繋がったアイランドキッチンのシンクにぶち込む。
新聞は排紙回収用のボックスに入れる。テレビの電源を点け、朝のニュースを見ながら乱雑に散らばるDVDのディスクをボックスの決まったところに戻し、コレも棚に戻す。
ソファの上のナイトウェアを洗濯機に入れ、僕の洗濯ものと一緒に回してしまう。
洗濯機を回している間に自分の朝食の準備。冷蔵庫のヨーグルトと適当な果物を合わせて、コーヒーメーカーでホットコーヒーをマグ2杯分作る。グラノーラを小さなボウルに入れ、牛乳を
グラノーラを
ニュースは7時半に朝の連続ドラマに切り替わる。別に追っかけては無いけど、毎日あの人後始末をしながら聞いているので話の筋は知っている。お得意の―女性が苦労して
洗濯機が止まる音を聞いてから、中身をバスケットに移し、ベランダに持って行って干していく。下着の類は―母のモノだけ部屋干ししている。どうせ20階にあるベランダなので外から
洗濯ものを干したついでに換気。窓の前に立って一杯目のコーヒー。砂糖抜きのカフェオレ。ブラックも嫌いじゃないけど、胃に悪い。一時期、逆流性胃腸炎を
コーヒーを飲んでしまうと、僕は冷蔵庫の中身をチェックする。自炊はあまりしないけど、最低限のものは買い込んでおかなければならない。母とは
で、今の状況は―最悪だ。買い物に行かねばなるまい。いや、母が食うに困るのは、どーでも良いけど、自分の分を最低限確保しなくてはならない。
新聞の折り込みチラシやネットのチラシを眺めながら二杯目のカフェオレ。今日は近所のショッピングモールの中のスーパーで冷凍食品が3割引きか…ストック作りに行くかなあ、なんて思うと、
家事が終わった僕は、自分の身支度を始める。顔を洗って、歯を磨いて。メイクはしない、というかほとんどしたことが無い。化粧水や乳液なんかでのケアは欠かさないけど。
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かくして。ショッピングモールにやって来た。平日の昼間という事もあって専門店街は人少な。のんびりと一階のアベニューを歩いて行く。アベニューの奥にスーパーがある。全国各地に存在する大手のアレだ。
こちらは
赤い果実。
そして、魚介類を見て、精肉コーナーへ向かっていく。ここのスーパーの精肉コーナーはオープンの冷蔵ケースだけの構成じゃない。直営の肉屋の他に地元の業者が対面販売の売場をもっている。そこに久井さんはバイトに行っているらしい。
「オヤジさんと奥さんだけの店でさ、忙しい午前中までは俺が接客と肉切りどっちもやってる」
その肉屋さんの売り場はクローズドの冷蔵ケースにお肉を並べていて。そのケースの上で接客が行われる。ケースの中には牛、豚、鶏、三種の色々にカットされた肉が並んでいる。お値段は直営の商品の1割増し。まあ、ブランド系を主に扱っているみたいだからしょうがない。
ケースの上に居る人を見ると、恐らく『奥さん』の方だろう、愛想のいい40位の元気なお姉さんが呼び込みをかけている。今、久井さんは肉を切っているのだろうか?今日は引き上げてまた見に来ようかな?
売場の近くのバックヤードへの通路に―頭を完全に
「
「
「スンマセン!どうにも鶏は水っぽくて…包丁がね…豚ヒレなら余裕なんすけど」
「言い訳しない!」と叱られる久井さん。熱血指導だ。お姉さんは久井さんが切った鶏肉を吟味しだす。そして1つを持ち上げる。すると、角切りにされているはずの鶏モモが繋がっていた。
「おい…分かってんだろうな?」と妙にドスの利いた静かな声を出すお姉さん。
「えろうスンマセン!今すぐやり直してきまっす!!」と久井さんはバックヤードに戻っていくのだった…。いかん。
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僕はとりあえずその場を離れた。まだ冷凍食品を吟味してなかったから。吟味し終わったら―もう一度だけ様子を見に行こう。なんか盗み見たみたいで申し訳ないし。
3割引きの冷凍食品。
カゴにそこそこの量の冷凍食品を詰め込んだ僕はまたもや肉売場に足を運ぶ。さて。久井さんはいるだろうか?
クローズドの冷凍ケースの上には先程とは違い二人の顔が並んでいる。奥さんの方は接客中だ。久井さんは呼び込みの声を出している。今日は豚肩ロースのしゃぶしゃぶ用が安いらしい。僕は意を決して冷蔵ケースに
「いらっしゃいませ!今日は何をお探しですか?」普段と違う声のトーン。少し高めと言えばいいのだろうか?男の人の低い声は
「―久井さん。僕です、
「ん?ああ。ゴメン。俺目があんま良くないから顔が良く見えてなかった…で?どしたん?」
「買い物のついでに―」と僕は買い物カゴを示しながら言う。
「顔を見に来ました」
「冷やかしかい?」と彼は
「そうですねえ…鶏のモモの角切りでも買おうかなあ」と僕は水を向けてみる。
「まさか―見てたのか?さっきのくだり?」少し焦った声色の彼は言う。
「そのつもりじゃなかったんですけど…ごめんなさい、
「ま。別に良いけどな、俺の
「そ、この子、まだ駆け出しだからねー」と接客が終わったお姉さんが僕らの会話に入ってくる。
「ああ―お仕事中に済みません」と僕はすかさず言う。
「ん?いいのいいの。
「ああ、彼はその予定のツレです、姐さん」と久井さんは答える。
「ツレ、ね。良いじゃん、仲良しさんなんだね」とお姉さんは微笑ましいものを見る顔でいう。ツレ、か。友達って事だ。その言葉が嬉しい。
「んで?マジに鶏モモの角切り
「唐揚げは―めんどいか」とお姉さんは僕の買い物カゴを見ながら言う。何か恥ずかしい。僕の買い物カゴは冷凍食品で一杯で。自炊なんてめんどくせー!って黙しながらも主張しているようなものだ。
「
「んー何か手軽に作れて小回りの利くのがあれば―有り難いんですけど」と僕は言ってみる。
「じゃ、セールの豚肩ロース買ってくれ…発注のアレで在庫凄いんよ。しゃぶしゃぶならダシと酒で煮るだけだ。千切りキャベツにでも合わせりゃ良い。ポン酢で食うと美味い」と久井さんが提案する。
「お、済まんねぇ純君。ウチの肉えもんがヤっちまったからねー」と奥さんが言う。肉えもん?旦那さんの事を指してるのだろうか?
「肉えもんに引っかかってるな?」と久井さんはニヤニヤ顔で言う。
「ええ。肉は分かるけど…えもん?」
「ああ。某猫型ロボットに似てるんだよ」と久井さん。
「ほら、商品の検品…もとい味見で丸まるしてんの。ウチの」と奥さんは言う。僕の脳裏にあの猫型ロボットにそっくりなオジさんが現れる。思わず吹き出しそうになる。
「ま。その内見れると思う…ここに通うなら…で?買う?」
「じゃ、例の豚肩ロース、一人前下さいな」と僕は言う。
プラスチックでできたヘギ―よくたこ焼きなんかが乗ってるアレだ―に薄くスライスされた赤身と脂身が混じる豚肉を久井さんは盛る。そして冷蔵ケースの上の
「っと…ざっと150gで一人前なんだが…今は145g。これで良いかい?」と聞いてくる。まあ、僕が食べるだけだからこれでオーケー。
「で。お願いします」
「ん。毎度!」と言いながら肉を包んでいく久井さん。ヘギをハトロン紙で包み込み、保冷材をかませる。それをビニール袋に入れ、口を止め、さっき乗せた秤が印字したラベルを貼る。こいつをレジに持って行けばいいらしい。
「そー言えば。長話になるかもだが―親御さんには話せたか?」と久井さんは去り
「…危うく久しぶりに親子喧嘩するところでしたけど」
「ううーん。前途多難だな?」
「長田さんの連絡先は渡したんで…彼に任せます」と僕は希望的観測を述べる。
「ま、
「ああ―後ですね…父親から京都に
「おん?別件なの?それは?」突然の話に彼は驚く。
「いや…もし母がダメだった時の事を考えて―プランBを打っておこうかと」と僕は言う。そう、昨日の
「ん?なるへそ…考えるなあ。親父さんをスポンサーに
「そうです、使えるものは使わないと
「そりゃ道理だな…じゃ、またな?」
「また会いましょう…今度は寮で」と僕は気合いを彼に披露する。
「ん。待ってる。
「ええ」
母のクレジットカードの家族カードで会計を済ませると、僕は
真っすぐ伸びる道をのんびり歩いていると、紺色のアノラックのポケットが震えている。何だろう?大抵のスマホの通知はオフにしてるんだけど―ああ。電話、電話だ。いや、でも誰から?買い物袋を片方の手に纏めて、お腹の辺りのポケットを
「
「もしもし?」
「そちら、宇賀神いおり様の携帯でよろしいでしょうか?いつもお世話になっております、共生組合の長田ですー」と取引先に電話をかける調子で長田さんがまくし立てる。何というか、
「ええ…宇賀神です」と僕はまず、名乗る。その調子を止めてくれないと吹き出しかねない。
「良かった。間違えてなかったね…うん、ゴメン、昔の癖でついやっちゃうんだよね」と長田さんは僕に弁明する。
「ウチの父親そっくりでびっくりです…」と僕は
「なんかねー営業や接客してると、こういう癖が染みついちゃってプライベートでもやっちゃうんだよね…あるあるネタだよ」そうなのか?僕は働いた事が無いから、よく分からない。
「うん。
「ええ。喧嘩しかかりましたけど…ただ―手応えは微妙です」
「僕らの事、怪しまれた?」と彼は
「まあ―かなりの抵抗がある感じでしたね」と僕は当たり
「あちゃあ…交渉が難航しそうだ」と長田さんは参ったな、と言うような声を出す。
「済みませんが…お願いします。一応の為にもう一つ手を打ちますが…」
「ん?作戦があるの?お母さんとバトル?」物騒な物言いの長田さん。
「いや。実は昨日、父親から連絡がありまして―」
「君を置いて行ったお父さんか」と少し厳しい口調の長田さん。
「ええ。新しい奥さんとの間に子どもが出来たらしく…」
「君にとっちゃ腹違いの弟か…複雑だねえ…で?奥さんが里帰りしてるからその隙に君の顔を見ようって
「そのまんまです…まあ、最初はどうなんだ?と思ってましたけど、母があの調子なので、彼も使おうかと」
「スポンサーとして、か。どう思うだろう?彼は」
「まあ。母よりはマシ、でも新しい子どもが出来たから余裕がないかも知れない…5分の賭けです」
「0よりマシだ。分かった。行ってくるといい。その間に僕はお母さんを説得する」
「時間無いのが自慢の女なんで―
「…色々あるとは思うけど―産みの親を女呼ばわりは感心しない」と
「済みません。昨日の今日でカッカしてて」
「ま、その年ごろだ。感情に
「ごめんなさい…」娘のように僕は言う。
「いいんだよ。気にしないで」
「…コレの埋め合わせと言っては何ですが―お土産、楽しみにしててください」と僕は言う。
「…子どもが気を使わなくても良いのに。でも、君の気持を無下にもしたくない。適当なお菓子か日本酒でも頼むよ」
「了解です」
「じゃ、作戦開始だ。上手くいきますように」彼は切り際に祈る。
「上手く行きますように…それでは」と僕は電話を切ったのだった。
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家に帰り、冷凍食品を冷蔵庫にしまう。それから流しの下から深めのフライパンを取り出し、水を張る。そして少し日本酒を注ぐ。料理酒の
ヘギに盛られた肉をフライパンに落とす。固まっていた肉が
パックご飯と豚のしゃぶしゃぶの昼食。お箸で肉とキャベツを一緒に取り口に運ぶ。
酒のうまみ成分、ダシのコク、ポン酢の酸味、それと赤身と脂身のバランスの良い豚肩ロースが合わさる。うん。これは中々美味しい。大した手間なんてかけて無いのに。
思わずがっつく僕。ご飯とも合うなあ。コレ。
あっという間の完食。ありがとう久井さん。お陰で良い思いが出来ました。
腹ごなしついでに皿とフライパンを洗う。フライパンは少し油っぽい。この脂が少し落ちたからあの肩ロースはあっさりしてたんだな、と思う。そして掛け時計を見やる。現在12時半。普通のサラリーマンならお昼時。我が家の父は営業職だから時刻通り動いてない可能性もあるけど、第一報を入れるにはちょうどいいかな?
洗い物をラックに移し替え、タオルで手を
機械と機械が繋がる音を聞きながら、僕は待つ。もしかしたら
「おう…久しぶりだなあ?いおり?元気にしてるか?」長田さんと違っていきなり僕を呼び指す父。相変わらずだ。周りがうるさいのを
「ゴメン。仕事中だった?」と僕は事務的に返す。
「おん?まあ、1つ片付けてメシ食おうかと思っていたところだ。気にすんな」
「そ?じゃいいけど―手紙読んだよ。変な気だけは良く回るよね、お父さん」
「あの冷血に感づかれるのが嫌だっただけさ」とそれがどうした?の口調で聞いてくる。
「その冷血と結婚して子を
「俺だな…うん。お前が生まれたのは良かったって思ってるけど」
「あっそ。あのさ、あの京都行きの話、乗るよ」と僕は父の愛を避けて言う。
「…は?来る?今まで嫌がってたじゃん?ダメ元だったのに」と意外な事態に出くわした彼は言う。
「気が変わった―って訳じゃない、悪いけど」
「なんだよーもっとお父さんを大事にしてくれよなあ…」と父。ややうっとおしい。
「頼みたいことが出来た」
「…出たいんだろ?あの家?」まったく、勘『は』良いのだ、この親父。
「そ。まあ、
「そうだなあ…福岡だろ?飛行機でも新幹線でも動きやすいよな?」
「空港も駅もすぐだね」そう。福岡はコンパクトシティなのだ。都市部に機能が集中している。
「じゃ、こっちで何らかの便を抑える…行きの発券のカネは立て替えてもらうが…大丈夫か?」
「お年玉は貯金してるから大丈夫」
「よろしい。泊まり先はどうしたい?ウチでもいいが―」
「断る!」他の家族の住む家に上がり込んで泊まる趣味は無い。
「だろうな…ま、ホテルとっとくわ」
「ありがとう」
「どういたしまして…っと切る前に1つ」と父は言う。なんだろう?もう用事は済んだじゃない?
「ボルダリング…続けてるか?」と聞く。そう。僕のボルダリング趣味の始まり、先生は彼だ。たまに一緒に登りに行っていた。上手くなったらロッククライミングに行こうな、って彼は言ってた。それが果たされる事は無かった。
「こっち来てからはご
「ん。じゃ、持って来い」
「一緒に行きたいの?」
「まあね…何もしないでは―場が持たんかも知らんだろ?」まったく。こういうところには気が回るんだから。
「分かった。じゃ、段取り組めたら連絡して」
「宇賀神さんにはお前から言うか?」
「いや、悪いけど頼まれてくれる?喧嘩したばっかなんだよ」
「しゃーねえなあ」と彼はウンザリした声で言う。
「可愛い娘の頼みだろ?」
「まったく…手間のかかるヤツだ。じゃあな」で、電話は切れた。
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