第4話 救う。

 ……君、聞こえるかい? 私だよ、ビリビリペンだ。

 いきなりスタジオが真っ暗になった。どうやらブレーカーが落ちたみたいだ。長年、現場にいるが、こんな体験は初めてだ。大人たちも大慌てだ。この調子だと、今日のドッキリは延期だろう。


 ——二時間後——


 なかなか電気が点かないな。小耳に挟んだ話だが、今日のドッキリが無くなると、我々の出番はなくなり、しかも、これまで撮ってきたもの、すべてがお蔵入りだそうだ。万が一そうなった場合、考えたくはないが、給料が出なくなる。

 給料は私たちには使えないって? あぁ、そうさ。給料は人間に支払われるものだ。

 なぜ我々に関係があるのか? 貰った給料で、人間たちは私たちをメンテナンスするのだ。メンテナンスの大切さは君の方がよく分かるだろう? なんせ最新技術が搭載されているっていうじゃないか。私たちが任された仕事を精一杯こなすには、しっかり動作しないといけないからな。

 話を戻すと、とにかく、給料が出ないのは困る。私も年季が入っているから、こまめに調整してもらわないと、入れ替えが激しいからな。

 しかしこの状況をどう解決しようか。

 まず電気が点かない原因は、ブレーカーというものが落ちたからだと言っていた。私はそれがどんな代物か、全く見当もつかないのだが、君はブレーカーというものを知っているかい?

 ……なるほど。そのブレーカーというものを、もう一度復活させればよい、ということか。

 では、ブレーカーを君と私で、一緒に復活させようじゃないか。君は幸いにも空を飛べる。私をブレーカーのある場所まで連れて行ってくれ。


 ずいぶんと暗いのだな。全くもって何も見えない。スイッチもたくさんある。ざっと五十個くらいあるのではないか。これでは早く電気をつけたくても、どのスイッチを入れればいいのか分からない。早く電気をつけなければ……

 え? 電気を早くつけたい理由は、給料が出ないことを恐れているのではなく、単に、暗闇が怖いからなのではないかって?

 ……はは……まさか……そんなわけないさ……

 と、とにかく。あのスタジオの電気に繋がるブレーカーを探さなければ。暗いままでは、こわ……、コホッ、仕事ができないからな。

 私たちの仕事は、ドッキリを成功させることだ。

 まず、このブレーカーを押してみるぞ。

 カチッ。

 (きゃーっ……)

 人の悲鳴が聞こえたな……。……戻そう。

 カチッ。

 (誰だ、ブレーカーを落としたのわぁぁっ……!)

 ……まずいな。今度はこっちはどうなんだ。

 カチッ。

 (……)

 ……悲鳴が聞こえないぞ。成功したんじゃないか? しかし喜びの声すらも聞こえない。電気が点けばザワザワするはずだ。何も聞こえないとなると、おそらく誰もいないスタジオのブレーカーだったのかもしれない。

 どうすればいいんだ……。いったいどのブレ―カーが、スタジオの電気と繋がっているんだ……。

 ブレーカーの上に貼ってあるシールの三桁の数字。これは一体何を示しているのか、君は分かるかい?

 スタジオの番号? ……なるほど、確かに一〇一スタジオはある。一〇一スタジオは一番大きいスタジオだから、電気の数も相当数ある。一〇一のシールが他の番号よりも多く貼ってあることは頷けるな。

 ということは、私たちが今日、仕事をするスタジオの番号が貼られているブレーカーを押せばいいのだな。……私たちのスタジオは何番か、分かるかい? 

 四〇四? それは本当かい? 四〇四、四〇四……あった。

 よし、君、しっかり支えておいてくれよ。この高さから落ちるのは御免だ。

よし、もうちょっとで届く。

 もう少し上だ。

 あぁ、ほんのもう少し。ボールペンには欠かせない、ペン先に実はついている、小さなボールの大きさくらいもう少し上。

 よし……届いたっ!

 (ブワッ)

 うおっ、おぉぉぉ——

 (ったく、誰がブレーカーをいじったんだか……、ん? なんでこんなところにボールペンと……この黒いヘリコプターみたいな、ラジコンみたいなやつはなんだ? まぁ、いいや。誰もいないじゃないか、なんで電気が消えたんだろうなぁ……)

 (バタン……)

 ……イタタタ……君、大丈夫かい……ドアが開いたために生じた風がこんなに強いものだとは思わなかった……。

 まさかさっきの、間違えてブレーカーを消してしまったスタジオの人が、見に来るとは思わなかった。とんだ災難だ。

 しかしこれでブレーカーは元に戻した。きっと四〇四スタジオも電気が点いたことだろう。

 (電気が点いたぞ! 早速、撮影再開だ! 巻いていくから早くしろ!……)

 どうやら元通りみたいだ。我々も戻らないと、出番が来てしまうぞ。

 そういえば、君の名前は? 

 自己紹介をもう、した? 

 ……失礼。言い訳になってしまうが、年老いたからなのか最近物忘れがひどくて、なかなか覚えられないんだ。本当に申し訳ない。

 ……トロンボーン? トロンボーンは楽器だろう、私はそれくらい知っているさ。冗談はよせ。

 ……ドロボー? 違う? 耳まで遠くなってきてしまったか。やはり老いには勝てないな。

 ドローン? 初めて聞いた名前だ。しかし、かっこいい名前だな。君にぴったりじゃないか。

 ドローン。これからのこの世界をよろしくな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もしもビリビリペンが窮地を救うなら…… @isa00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ