第2話 不満。

 やぁ。久しぶり。自己紹介のときに出会った以来かな。

 君も呼ばれたのかい? 

 えっ、今日がデビュー日?

 それはそれは。まずは、デビューおめでとう。そして、ようこそ、私たちの世界へ。

 今日の仕事は何か、分かっているかい?

 そう、ドッキリだ。

 さっき頭にヘッドセットをつけた、若い男のスタッフが来て、私が正常に動くか確かめるために、あっちこっちを触ってきたもんで。もう、たまったもんじゃない。

くすぐったくて。

 いじりすぎて、不具合が生じたらどうするんだ。きっと責任は私に押し付けられる。「このペン、全然ビリビリしません」と。

 貴様がいじりすぎたせいなのにな。しかし私には口がないから、反論は認められない。

あまりにもいじるから、私はノック部分を男の親指めがけて動かしてやった。案の定、男はノックを押した。私は力を込めて、電気を発生させる。男は私のノックに触れた瞬間、飛び跳ねた。おそらくそのときの男の足元を見ていたら、軽く三〇センチは飛んだだろう。

 男は顔をしかめ手をぶらぶらと振りながら、去って行った。してやったりの気分だ。ドッキリの予行練習にはちょうどよかった。

 ―君、入り口を見てごらん。次々に人が入ってくるだろう? 

 あの人たちをドッキリにはめるんだ。今日はなんだか豪華だな。美男美女が勢ぞろいじゃないか。長い間、ドッキリの現場に立ち会ってきたが、ここまで華がある現場は久しぶりだ。デビュー日には荷が重いだろうが、いい経験になるさ。困ったときは私がいる。きっと大丈夫だ。

 え? いつも華がない人ばかりなのかって?

 …まぁ、ぶっちゃけそうさ。ドッキリに引っ掛かる人はおなじみの芸人ばかりだ。ドッキリの番組に来るのは、初対面の人を探す方が難しいな。

 時々、スタッフたちが、頭をヘコヘコして媚びへつらう年寄りが来るんだ。その人たちは〝オオゴショ〟と呼ばれている人たちで、私には普段、その年寄りたちが何をしているか分からない。ただ、芸能人とか有名人ではない何者かで、すごい人たちなのだろう。

 だけどその、オオゴショがとんでもない人たちばかりなんだ。

 自分で動かない。すべて付き人を動かせて何でもやってもらっている。水だってペットボトルをそのまま飲めばいいのに、わざわざペットボトルの水を紙コップに移し、ストローで飲んでいる。しかもそれらすべて、付き人にやらせている。

 私は普段カメラの後ろに待機している。すると付き人が行ったり来たり、常に駆け足で飛び回っている。ありゃ可哀想だ。

 オオゴショっていうのはそれだけ多くの人が動く価値のある人なのだろうが、私には彼らにその価値があるのか、さっぱり分からない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る