02話.[また来たのかよ]
「メリークリスマス!」
「おう、メリークリスマスだ」
持っていた紙コップを優しくぶつけて乾杯、はいいのだが、
「なんで敢えて外なの……?」
そう、外でやっているから寒くて仕方がないんだ。
しかも今日に限って風が強いから困る。
「私達の家は無理ですし、二宮さんの家にも迷惑をかけたくなかったのでこうしたんです」
「誘ってくれたのは嬉しいよ? でも、ここまで寒いと……」
「なんだよ弱い奴だな、女である幸恵がこうなのに情けないぞ」
「そう言われても……」
というか、出会ったばかりの僕をよく誘ってくれたなと。
ようやく一ヶ月が経過、というところなのにふたりが陽キャだからだろうか?
ポジティブ思考ばかりをしている自分であったとしても自分にできるようなことではなかった。
「まあいいや、サラダとかも買ってきたから食べようか」
「そうですねっ」
ちなみに美味しい食べ物を食べていても赤長君の顔は変わらないままだ。
いまはどうにかして変えられないかと模索しているところだった。
だってそれだけで避けられてしまうようにはなってほしくないからだ。
もう自信を持って友達と言える存在でもあるため、友達のために行動しようとすることは普通だから気にしなくていい。
本人だって避けられたくない的なことを言っていたわけなんだから押し付けにはならないだろうしね。
「それにしても幸恵ちゃんは意外な感じだね、こういうことで盛り上がったりするんだね」
「私はお祭りとかも好きですよ」
「あのときはどうしてクラスメイトを頼らなかったの?」
「あ、それは一緒の係の子が用事で帰ってしまったので……」
なるほど、つまり大丈夫だとか言って帰してしまったということか。
むしゃむしゃ食べている兄の彼も同じことをしそうだ。
やらせなよとか言っても「用事があるなら仕方がないだろ」とか言ってひとりでやってしまいそう。
まあ、彼の方は力も強いからそれでも問題はないが、彼女は無理にひとりでやろうとするのはやめた方がいいとしか言えない。
「なんでもかんでも受け入れればいいわけではないが、俺の妹はいい人間だ」
「もう、やめてよ……」
「ふっ、堂々としていればいいんだよ」
兄としては妹が偉い子で嬉しいんだろう、物凄くいい笑みを浮かべていた。
あのとき彼女が言っていたように笑顔はなんか可愛らしかった。
年相応な少年っぽい感じだ。
「なんだよ? なんかついているのか?」
「ううん、可愛いと思っただけ」
「は……」
無邪気な感じでもあるから見ていて気持ちがいいものだった。
こちらは上手くできているだろうか? と不安になってしまうぐらいにはだ。
「赤長君もそういう笑みを浮かべられるんだなって」
「可愛いですよねっ」
「うん、幸恵ちゃんの言う通りだったよ」
見たこともないのに疑ってしまったのは申し訳ない。
だからなんか固まってしまっていた彼と嬉しそうな顔でいた彼女に謝っておいた。
「っと、これで終わりか」
「あれ、結構量を買ってきたと思ったんですけど……」
「クリスマスに集まれただけで満足できたからいいけどね」
こちらが話している間にも彼は食べていたんだからこうなって当然だ。
だが、別にそこを責めるつもりはないからなにかを言う必要はなかった。
あちらからすれば誘ってやっただけ感謝しろよ、というやつだから。
「はっ!?」
「おかえり」
「変なこと言うなよ」
「ま、僕はそう感じたというだけだから」
責められたところでもう変えられないんだから仕方がない。
ゴミを残してしまったら駄目だから全部ちゃんと忘れずに袋に入れてから公園をあとにした。
なんとなくこのまま解散というのは寒いのに寂しかったものの、これ以上わがままは言えないから黙ってふたりを送っていく。
「なんか二宮さんからまだ一緒にいたいという気持ちが伝わってきます」
「事実そうだからね、でも、これ以上は流石にね」
明日から冬休みとはいっても風邪を引いてしまうのはお互いに避けたいことだ。
また、時間も時間だからそもそも付き合ってもらうことは不可能だった。
だから認めつつ、わがままを言わないで別れようとしているところだった。
「仕方ねえなあ、俺が付き合ってやるよ」
「え、いいよ、だってもう外にいても寒いだけだし」
お金もなるべく残しておきたいから気持ちはともかく帰るのが一番だろう。
ふたりの気持ちが変わらなければ冬休みが終わってからでも一緒に過ごせるんだからそれで満足しておくべきだ。
「今年はまだコンビニのおでんを食ってないから食いに行こうぜ」
「幸恵ちゃんは……」
「私は帰ります、もう満足できたので」
「そっか」
偉い、年上である自分にもできていないことを彼女はしている。
僕は彼が言ってくれているのならと既に正当化してしまっているため、そっかとだけ答えておくのが精一杯だった。
恥ずかしいから情けないことを吐くのは後にしよう。
「美味えな」
「あれだけ食べていたのによく食べられるね」
「当たり前だ、あんなんじゃおやつ程度にしかならないぞ」
それだけ食べている割には細くて羨ましい、またじろじろ見ていたら違う方を向かれてしまったからやめたが。
「幸恵は二宮のことを結構気に入っているみたいだな」
「そういうのはないからね?」
「別に二宮を男として見るようになっても構わないけどな」
そんなことにはならないから大丈夫だ、だからそういうことで不安になる必要は全くない。
陽キャだから、明るいからこちらにも優しいというだけだ。
たったあれだけのことでずっといてもらえるなんて考えていなかった。
「妹贔屓なところがあるのかもしれないが二宮は幸恵より駄目だな」
「そうなんだよ、いまさっきだって別れたくないって思っちゃってさ」
その通りだからどんどん指摘してくれればいい、違うと言ったところで内にあるそれは変わらないからだ。
で、多分だが幸恵ちゃんはそういうことができなさそうだからお兄ちゃんの方を頼ろうとしているわけだ。
「そんな人間といさせていいの?」
「二宮こそ幸恵を真似すればいい」
常に明るくて、積極的で、一緒にいたいと思ってもらえるような存在になる。
こうして考えることは簡単でいいが、そうやって簡単に変えられるのなら誰も苦労はしない気がする。
僕の場合は自分らしくいられていなければポジティブに考えることすらできなさそうなので、あんまり現実的なことではなかった。
自分ができないなら他者に真似をした方がいいとか言うなよという話かと反省。
「僕は僕らしく生きていくよ、そのせいで誰かが側から離れてしまったとしても仕方がないと片付けつつね」
これもまたこれまでで実際に起きたことだから限定的にネガティブ思考になったというわけではなかった。
始まりがあれば終わりがある、なんでもそうだ、些細なきっかけで始まったり終わったりするんだ。
「そろそろ帰ろうか」
「ああ」
ずっとコンビニにいるわけにもいかないから退店、ちなみに外は直前まで暖かい場所にいたのもあって大変辛い環境だった。
「これやるよ、クリスマスプレゼントだ」
「ん? えぇ、絆創膏かよー」
「文句を言うな」
こちらは用意していないからあれだが期待して損した、なんてね。
しかもわざわざ同じやつを持ってくるところが面白い。
「やっぱり赤長君は可愛いね」
「幸恵はな」
「素直になれないところも可愛いよ」
自分より強い人を送って家まで帰ってきた。
今日だけで満足できたから学校までは家にいられればそれでよかった。
「もう少しで新年になるね」
「だな」
なんとも言えない場所の神社に来ていた。
人が多いわけではないから怖い場所ではない。
あと、赤長君の身長が高いのもいい方に働いている気がした。
「やけに口数が少ないが暗いところが怖いとか言わないよな?」
「君が付き合っていることが意外なんだよ」
「当たり前だ、幸恵だけで行かせられるわけがないだろ」
お兄ちゃんとばかりいるから少し不安になってくる。
あのときも本当は無理やり押し付けられたんじゃないかとかそういう風に考えてしまう自分もいる。
もう終わった話なのに、いまからどうこうできるわけでもないのにだ。
が、じっと見ているわけにもいかないから違う方を見て過ごしていた。
三十分も前からここにいるため、まだまだ新しい年にはならないが……。
「二宮さんは兄さんと違ってあんまり話さないんですね」
「え? いやいや、僕は喋ることが好きだよ」
「その割にはクリスマスだってあんまり……」
「色々考えることもあるからね、たまたまそのときそうしたくなるような話が出ていたというだけだよ」
信用できていないからではない、邪魔したくないとかそういうことでもない、その度その度に特定のワードに反応しているというだけだった。
「幸恵の方がしっかりしているからな、そこは仕方がないだろ」
「兄さんっ」
「本当のことだ」
ブラコンでもなんでも擁護できるわけではないということか、って、そんなの当たり前だから違和感というのはない。
指摘してくれるのは複数人ではなくひとりでいいため、そのままでいてほしい。
物凄く間違えた行動なんかをしない限りはきっとそのままでいてくれるだろう。
なんて願望を抱きつつ時間経過を待って、
「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「おう」
「よろしくね」
挨拶をして神社をあとにする。
最後までいたことがないから分からないが、物好きな人は何時ぐらいまで外で過ごすのだろうかと気になった。
「っくちゅっ、うぅ、冷えますね……」
「これでも羽織ってろ」
「でも……」
「いいから、俺は寒さに強いからな」
これは絶対に風邪を引くパターンだ。
どうしても妹である彼女の前では格好いい兄でいたいのかもしれない。
無理をしても、喜んでくれるのならと行動してしまうのかもしれない。
まあ、自分にきょうだいがいたら同じようなことをしそうだからなにも言わなかったが。
僕の場合はそういうことでしかポイントを稼げないから、というのもあった。
「無理したね」
意外にも一緒に家の中に入らなかったから言わせてもらった。
そうしたらこっちを睨んでから「当然のことをしただけだ」と返してきた。
実際のところがどうであれこちらには関係のないことだからどうでもいいことだ。
「風邪を引かないようにね、それじゃ」
こちらと違って最後までやりきるところはいいところだとしか言いようがない。
「ちょっと待て」
「物好きだね、何回も付き合ってくれて」
すぐに家に入らなかったのもおかしな話だと言える。
そうでなくてもジャンパーを貸していて寒いはずなのにアホだ。
僕の前で格好つけたって仕方がないんだから大人しく帰ればよかったのに。
「二宮はなんで俺を送るんだ?」
「また喧嘩してほしくないからだよ、それに大体幸恵ちゃんがいるからね」
自分が決めたことだ、これからも守るつもりでいる。
学校から少し遠いというだけで自宅からはあんまり離れていないから問題はない。
迷惑だということならこれからは幸恵ちゃんがいるときだけそうしよう。
もっとも、彼ひとりのときに送ったのはあのときが初めてで最後だからあれなんだけども。
「そうか、なんか変な気持ちがあるとかじゃないんだな?」
「変な気持ち?」
「いやほら、可愛いとか馬鹿なことばっかり言ってくるからさ」
「あるって言ったら? あっ、その反応は酷いな」
いいか、こちらは寒さに強いわけではないからさっさと帰ろう。
そうしたらお昼まで寝て、父が作ってくれたお雑煮でも食べようと思う。
お年玉は貰えてもすぐになにかに使うというわけでもないため、毎年こんな感じの緩さだった。
「――という感じです」
「やっぱりそうか」
お兄ちゃんは風邪を引いて寝込んでしまっているみたいだった。
これまでずっと休んでこなかったということと、風邪を引いたのが冬休みでよかったと彼女は言っていた。
確かにここまできて皆勤賞を逃すというのも微妙だから気持ちは分かる。
ちなみにいまは少しだけ話した後に一階に戻ってきたところだった。
「んー、幸恵ちゃんがいてくれたらすぐに治るかもよ?」
「そうですかね?」
「うん、だって幸恵ちゃんのことが好きだって気持ちが強く伝わってくるからさ」
「でも、ずっといようとしたら『帰れ』って怒られてしまったんですよね」
「そっか、じゃあ僕がまた行ってこようかな」
こちらは怒られたところで無ダメージだ。
この前のあの顔が気に入らなかったからというもあった。
まあ、これは逆ギレみたいなものだから悪いのは自分なんだけども。
「……また来たのかよ」
「今日はここでゆっくりするよ、丁度時間経過を期待できるアイテムもあるしね」
本棚には沢山の漫画があったから読ませてもらえればあっという間だろう。
十七時までは最低でもいたいからかなりの数の本達には期待している。
ざっと見た限りでは少年漫画ばかりみたいだから読みやすいのもいい。
「……風邪を引くつもりなんてなかったんだ、本当に寒さには強いから元気に過ごすはずだったんだが……」
「風邪なんてそんなものだよ、よく分からないときに引いたりするものだ」
風邪を引きたくないと考えたときは逆のことになったりする可能性が高い。
なんでもそのときにならないと分からないから質が悪い存在だと言える。
「はぁ、格好わりいなあ……」
「いや、そんなことはないよ」
「やめろよ、二宮もいつもの俺みたいにはっきり言えばいいんだよ」
「大切な誰かが寒そうにしているときには僕も貸せる人間になりたいよ」
つまり、そういうことをするのも必要だということだ。
格好つけていると思われてもどうでもいい、その相手が少しでも暖かくなれればそれでね。
「……馬鹿にされているような気がするんだが」
「違うよ。駄目だね、風邪のときは君も不安定になってしまうみたいだ」
それこそ堂々としていればいいんだよと彼が言っていたことをぶつけさせてもらったら反対を向いて黙ってしまった。
休んでもらわなければ駄目だからこちらも読書に集中する。
面白いシーンがあってもなんとか笑うのを我慢しつつ、暗くなってからは本を戻してただそこに座っていた。
どうせなら自然と起きて話してから帰ろうと考えているので、どこまでになるのか少しわくわくしている自分がいる。
これは大体二十時頃かな? と予想をしてみた。
「……いま何時だ?」
「十九時というところかな」
残念、一時間間違ってしまった。
それでも目的は達成できたから早く治してねって悪化するような理由を作った人間は言って赤長家をあとにした。
「ただいまー」
「おかえり、最近はこういうことが多いな」
「そうだね」
特に門限とかは設定されていないが、最近になって急にこうだから父としては言いたくなるんだろう。
悪いことをしているわけではないと説明してからお風呂に入るために着替えを持って移動をした。
夏だろうと冬だろうと長風呂派というわけでもないから十分もしない内に出て、部屋に戻ってからは課題を始める。
「大地、ご飯は食べないのか?」
「これをちょっとやってから食べさせてもらうよ」
「どうせなら温かい状態で食べてほしいぞ」
「あ、じゃあ先に食べさせてもらおうかな」
いつも通り美味しくて、ついついお喋りも多くなってしまう。
んー、実際はまだあまり仲良くなれていないから、というのもあるのかもしれなかった。
もっと仲良くなれれば幸恵ちゃんや赤長君といるときだってぺらぺらぺらと話しまくるかもしれない。
いいことかどうかは分からないものの、一緒にいるときに黙られるよりはいいだろうと正当化しようとしている自分がいる。
「赤長君……だっけ? どういう子なんだ?」
「普段は怖い顔をしているけど話してみると分かってくるそんな人なんだ」
「怖い顔か、えっと、こんな感じか?」
「ううん、それよりもっとかな」
「……弱みを握られているとかじゃないんだよな?」
頷いたら「そうか、それならいいんだ」と。
やっぱりそこはデメリットとしか言いようがない。
怖い顔をしているというだけですぐにそうなってしまうのが問題だ。
そういうのもあって、積極的にあの笑顔を出していってほしいと思った。
だが、意識すると変わってしまうかもしれないから難しい話だった。
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