第3話

小さな赤い車の中はエンジンをかけたばかりで

まだ吐く息が白かった…

冷たいシートの上だとさらに冷える。膝掛けを助手席から引っ張って足元にかける

冷たくなった指先を両手で擦りながら

自分の息で温める

フロントガラスは真っ白だが、エアコンをつけるにはエンジンが温かくなってないからまだ早い


「先にエンジンかけとけばよかった…あーあ…」


香西恵美は44歳を迎えたばかりだった

子供は1人中学の息子がいる

まだまだ思春期で手に負えないがやはりお金がかかるので共働きをしている

結婚当初は優しい感じだった旦那はいるが…どうにもこうにも酒に呑まれている…

職場は有名どころの大手の工場でパートで働いている。さすがに社員では子どもを産んでからは働いていない


「そろそろ大丈夫かな?エアコンつけよう」


エアコンスイッチをいれてフロントガラスの霜が溶けるのをぼんやりと眺めている…

だんだん溶ける様子を楽しんでいるかんじだ

今年もあと1か月を切っていた…


半分くらい溶けてきたのを眺めていると携帯が鳴った、画面を見ると彼からだ

「もしもし?」

「仕事終わったから今からでるね。1時間後かな?大丈夫?」

「うん、大丈夫よ。気をつけて、またね」


いつもと同じ、慣れた会話。彼との関係はもう4年を過ぎていた


目的の場所にはもう何十回と通っていて

当たり前みたいな道のりになっていた

44歳の彼女のこめかみには

薄ら白髪も見えはじめていた

長い髪の毛もすっかり短くしたせいか

年齢よりは若く見られる

首の皺は隠せないが、美人ではないが周りから見てもまぁまぁな感じだ


彼女は化粧をするのが好きではないから

いつもすっぴんに近かった




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