第12話パチもん勇者

 誰もが持つ子供の頃の夢で憧れ、努力して勇者になる。


 魔法の才能は無いが体力がある者は騎士を目指し、魔法の才能はあるが剣の才能は無い者は賢者を目指し、両方の才能に恵まれた者は勇者や魔法剣士を目指す。


 物語の中の世界に旅立っていつかはエイシェントドラゴンから天命を受けられるほどの愛や勇気や仁義を持つ冒険者になろうと努力し、実力を認められて王国軍に採用されたり、地方貴族の私兵になった。


 あらゆる努力をして上り詰めた者たちは、目の前にいる魔力ゼロで平民の小さいメスガキが今代の勇者だと知り、夢も希望もジェンダーも性癖も全部破壊されメスガキに分からされてしまった。


 ある者は膝を付いて頭を抱えたり顔を両手で覆って泣き、アッチの世界へ逃亡してイマジナリーフレンズと会話する者もいて、ゲシュタルト崩壊したり幼児退行して「ママーー」とか叫びだして母を求めたり、シャア少佐みたいなロリコンはメスガキにバブみを感じてオギャりたがった。


 メスガキの外見とか作法とか喋り方とか生き汚い所とか金に汚い所とか食い物にも卑しい所とかヤンキー属性でドクズな性格とか、あらゆる問題があるが許容してこの国に勇者が降臨したのを喜ぶ者もいた。


 それでも同じ国にいて近くに住んでいながら数々の心躍る冒険を知らずに過ごしたのを残念がって、自分も共に立って冒険に参加できなかったのを悔しがる。


 ほんの数日前に最難関の竜の巣の門番である神竜との決戦が行われて勝利し、新しい勇者が神の座であるエイシェントドラゴンの前に立ち、ありとあらゆる祝福と魔法と聖剣を授かり、人の身でありながら神の如き力を与えられた。


 それが年寄りとの気軽な茶飲み話で祖父からの学校の卒業祝いと就職祝いのように語られ、人語との隔たりや解釈の違いはあるだろうが、ヤンキーの親玉のようなエイシェントドラゴンから「気に食わないアホがいるからワシの代わりに軽く絞めて来い」「1万1000までキッチリ回せ」と言うのが天命の正体だったと知り、心の拠り所とか今の自分がある根幹の精神的支えでバックボーンをドチャクソに踏みつぶされて、哭して動する人物が続出した。


 まずカーチャの前に団長が来て、跪いて懇願した。


「勇者が持つ死者を復活させる呪文、去年亡くなったうちの娘の為に使って欲しい、どんな報酬でも払う」


 普通の死人で今さっき死んだような新鮮な死体は、第十階梯リザレクションで復活する。


 4分ルールを超えたり毒が回って細胞が死んでいるのは、勇者が持つ呪文か、レベル100超えの大聖女が持つ人体再生系の呪文しか通用しない。


 先代勇者の出身地が魔物に襲われて皆殺しにされた数年後、魔王を討伐してから幼馴染を復活させて結ばれたと言う伝承もあり、その文献を一年以上探して来た団長。


 妻は娘を失ったショックでレイプ目になり、生きる希望も何もかも失ってリスカし続けるメンヘラ女になっている。


「へぇ、使ったことが無いんで良く分かりやせんが、「天命が尽きていなければ復活する」らしいんで、お墓に連れて行って下せえ」

「良いのか?」

「はあ、おらが生き返らせたいと思ったら、好きにして良いそうで。この間、近所の小さい子が死んだんで、その子で練習してみやす」


 竜魔術なので魔力切れとか言わないで、いつも通り連続使用オッケー。


 団長なので「誠意」は沢山示してくれそうなので何も心配していない。


 そこに慟哭から立ち直った騎士団長も来た。


「勇者よ、儂と戦ってみてくれ」

「は?」


 脳筋の人なので、自分より強い人物がいれば戦ってみたいらしく、決闘を申し込まれた。


「いやあ、竜騎士団員が騎士団長と決闘とか、後で問題……」

「これで足りるか?」


 太っ腹の騎士団長は、カーチャの言葉を遮り、金貨も沢山入った財布を全部渡してくれた。


「おや、ありがたいことでございますだ、ではちょっくら外で」


 さらに金貨数枚を入手したゲスは、今すぐ復活させられない団長の娘は後回しにして、騎士団長との決闘の為に士官食堂を出た。


 魔法師団は「誠意」を示してくれないので、次男が入隊希望でも一切助力しないで騎士団長を優先した。


 一連の出来事を見ていた騎士団の護衛が、猫かレプティリアンみたいな縦の瞳孔になって、屋外で待機させていたコウモリを一羽飛ばしたが、この話には何の関係も無いので割愛する。



 士官食堂前


 まだGの死骸がある所は足が滑るので移動し、駐屯地の中で少し広い場所に出て、腕に覚えがある剣士たちも周囲に集まって、団長と勇者?の対戦を見守った。


 どちらも間合いが遠いので、5メートル以上離れて開始する。


「普段は素手だと言ったが、どうやって戦うのだ? 人間の手で竜は倒せぬ」

「へえ、こんな感じでさあ」


 カーチャは竜魔術で背中から生やした見えない手を出して、近くの地面を殴った。


「おお」


 衝撃で地震が起こって建物まで揺れ、地面に2メートルぐらいある拳の跡が残った。


「まずは得意の素手で行きやす」

「来い」

「クキキカカッ(縮地)」


 カーチャは身体強化無しで加速し、その場から消えて騎士団長の剣を奪い、離れた所に出現してサンライズ立ちをした。


「見えなかった」

「俺には無理だ」


 騎士団長が終われば自分の番だと思っていた者も、全く歯が立たないのを思い知らされた一同。


「素手で身体強化無しだとこのぐらいでやす」


 この時点で全く相手にならず大人と子供以上の差で、レベルが全く違うのをメスガキに分からされた。


「うむ、聖剣も使ってみてくれ」


 貰った金額が大きいので、一回金貨一枚としても十回以上コンティニューできる。


 格ゲーみたいにボッコボコにしても、先払いしてあるので治療呪文掛けてコンティニュー。


 普通の娼婦がシングルで銀貨一枚程度から、スペシャルでノースキンだと銀貨数枚、貴娼館で一晩金貨一枚から青天井。


 ガリガリで15歳のメスガキなら百万回ぐらいできるか、客を取らされる前に娼館から身受けできる金額を貰った。


 聖剣プレイがご希望のようなので、モタモタしながら剣を出して鞘を戻して対面する。


「持ち手が逆だ……」

「フェッ?」


 一度も剣を使ったことも無いので、持ち手がクロスする素人丸出しの握りで構えてサンライズ立ち。


 近くにいた剣士が正しい握りを教えてやり、やっと対戦開始。微笑ましい笑いが起こったが、そんな物は一瞬で消えた。


「クキキキキキコカ(分身)」


 今度は姿を消さないようにゆっくり走り、それでも普通の剣士では目で追えない速度で七分身。


「おおおっ!」


 剣聖でも不可能な程の分身を見せ、それも移動速度で複数いるように見せているのではなく全部が実体で、あらゆる方向から別々の動きで襲い掛かる。


「そんな馬鹿なっ」


 まるでホットナイフでバターでも切るように、騎士団支給の鉄剣が打ち込まれた回数分バラバラに切り落とされ、持ち主の腕とか切り落とさないうちに離れた。


「すいやせん、剣は慣れてないんで切れちまいました」


 周囲の者も聖剣の切れ味を思い知り、他の団員が持っている剣も同じなので、ここで対戦終了かと思った。


「確か切れないのがあったと……」


 アイテムボックスをゴソゴソと漁り、竜の巣の中で拾った固めの物を出した。


「これ使って下せえ」


 黒い剣で明かに金属では無い大剣、悪く言えばGみたいな色をしていて、刃の部分が透けて見える赤黒い所はまさにG色。


「これは…… 黒竜の鱗ではないか? それも魔法剣だっ」


 とんでもない攻撃力と耐久力で折れない錆びない、ロストテクノロジーのエンチャントまで掛かっている黒剣。


 騎士団長でも普段は帯剣していない家宝の剣よりはるかに高級品。鞘が無いのと握りが劣化している以外、刃毀れもしていない。


「これも、エイシェントドラゴンから授かったのか?」


 さぞ名のある業物で、ドワーフなどの伝説の鍛冶師か高名な錬金術師の作刀、さらに付与魔法使いとの合作で、国宝に指定されてもおかしくない剣。


「はあ、竜退治に来た剣客とかが、返り討ちに会って落として行ったもんみたいで、竜の宝とかでゴロゴロしてまさあ」


 数千年の歴史の中で、名のある剣客や冒険者が竜に挑戦し、討ち取られて残して行った品。


 ミスリルとかオリハルコンみたいな光り物が好きな竜は、自分たちの分泌物、それも他竜の皮とか剥がれた垢を宝にしたいと思わず価値を感じない。


「譲って欲しい、今は手持ちがないが後で必ず払う」

「さっき沢山頂きましたんで、持って帰っていただいて結構ですだ」


 剣の事は何も知らないので、剣の値打ちも全く知らないメスガキ。


「いや、そんな物では足りん、金貨数千枚、王に献上して国宝になれば貴族に叙爵されて領地も貰える」

「フェェッッ?」


 次の週末は火竜山に行って、ゴミ捨て場にも落ちているG色の剣を拾い集めるのに決定した。


 聖剣と剣を交えたい騎士団長だったが、もし宝剣が刃毀れしたり切り落とされると困るので、黒龍の宝剣をしまい込んだ。


「そんでは、これ使いやしょう」


 ただの曲がった棒(攻撃力5000)を2本出して対戦する、鑑定眼がある者が見ればドラゴンの牙と分かるが、一見普通の骨系統の棒でしかない。


 乳歯が抜けると床下に入れたり屋根の上に投げたりして、次の永久歯が丈夫になるよう願った後の品で、古代の錬金術師が棒に変えた。


「これもとんでもない品のようだが?」

「はあ、竜の巣に行くと竜の骨とかゴロゴロ有りますんで」

「物凄い価値がある物だ、持って来てくれれば歩兵師団で言い値で引き取るし、冒険者ギルドとか買い取る商人に持ち込めば幾らでも売れる」

「フェッ?」


 竜の死体は野ざらしにして鳥葬にして、虫や小動物に始末させるのが普通で、そいつらが力を得て魔物や魔獣になる。


 骨は残るので冒険者が死ぬような思いをして素材として盗むこともあるが、巣の奥の奥にあるので勇者ぐらいしか持ち帰れない。


「まあ手合わせしてみましょう」

「うむ」


 治療呪文以外に魔法は使えない騎士団長が振るだけで、サウザントエアカッターの魔法が発動してしまい絶対防御呪文で弾かれ、竜巻が発生してカーチャが縦に切り分けて左右に広がって観客に襲い掛かる。


「なんじゃあこりゃああああっ!」


 寡黙で表情筋が死んでいる系統の騎士団長も、顎が外れるぐらいおっぴろげ、目玉ドコーのAAみたいに眼球が発射された。


「ああ、魔法掛かってやしたか、おらが使うと出ないんで普通の棒だと思ったんですけんど?」


 魔力ゼロの者が振ると何も起こらないので、物干し竿に使われていた哀れな竜の牙。


 魔法使いか僧侶が振ると前衛並みの攻撃力が出る、迷宮でバックアタックを食らった時のための装備。


「他にも剣や武具は持っているか?」

「はあ」


 アイテムボックスから色々な武具を出すと、その場で展示即売会でオークション会場になり、怒号が飛び交う競り市が開始された。


 着ているだけで体力や魔力が回復する魔法が掛かった、G色の黒龍の鱗の聖鎧とか、竜の牙製で攻撃力三千倍とか感度三千倍の剣は国宝指定される。


 魔力ゼロの者には使い道のない、竜の牙製魔法士の杖とか古代魔法が掛かれたスクロール、とんでもない防御力のローブとか色々なアミュレットは、魔法師団が「誠意」を沢山見せてくれたので敵認定も解除され、現行通貨の金貨所有量が増えた。


 過去に滅びた国家発行の金貨銀貨は長老達からお年玉として貰っていたが、一回鋳つぶしてインゴットにでもしないと使えず、子供がそんなもの持っているはずが無いので偽金扱いで使えない。


 色々な品は「それをうるなんてとんでもない」と表示されるもの以外は買い手が付き、後日大金と交換してもらえる約束になった物はアイテムボックスに引っ込め、現金払いで貰える物はその場で引き渡した。

 


 やがて鑑定眼がある者が魔法師団から念話で呼び出され、カーチャを鑑定し始めた。


「使える魔法の一覧と称号は、竜語なので分かりませんが、レベル1240、ドラゴンスレイヤーの称号と思われる回数八回、人類の限界であるレベル100などとうに超えています、この子は本物の勇者です」

「「「「「ナ、ナンダッテーーーーーッ!」」」」」(AA略)


 話は聞いた、人類は滅亡する(AA略)


 よくあるレベル表示が二桁しかない器具を使うと、平凡な兵士レベルで解散するところだったが、鑑定士なので全部見えた。


 村の周囲にいる恐ろしい魔物魔獣を家族で全部食べ尽くし、竜の巣周辺にいる物凄い魔物も倒して食料にして、竜の試練で何度も竜と決闘して倒し、ドラゴンスレイヤーの称号も複数持っている。


 素材とか討伐証明を冒険者ギルドとかに持ち込むと、とっくにSランクの冒険者で、貴族階級扱いも受けられるはずだが、村にはギルドは無く、竜の常識しか知らないので、どんな魔物でも「食い物」でしかない。


 相撲部員とか相撲取りが、食べ物を全部「ちゃんこ」と呼ぶのと同じである。


 ストナ一家で一番下の9歳児でも、魔物の力を食べて吸収し、食料集めと言う名の冒険にも参加して高レベルなので既に騎士団長よりも強い。


 ストナの手や指が全部揃っているのは、娘に防御呪文を掛けて貰っているだけでは無く、レベルが高すぎて竜の噛み付き攻撃もブレス攻撃も効かないからでもある。


 全員幼い頃から小さい姉竜におんぶされたまま、散歩中に地獄熊とかに襲われても竜パワーでワンパン。


 あんちゃん(竜)の方も姉竜の案内でレベルが上がり、二人とも赤ちゃんのままレベル100越え、融合度100%で竜と同じ扱いなので人類の制限は適用されない。


 国内にいる国賓待遇の自称勇者は、全員レベル90程度で竜には絶対に勝てない。


 騎士団長でも人類の限界を超えられないので、レベル99でカンストしてしまってそれ以上成長できない。


 長老でジジイのエイシェントドラゴンからのお題で、各種試練を超える時に兄弟姉妹も参加するように言われ、食料集め以外で姉と同行するのは嫌で嫌で仕方なかった弟妹だが、さっき連れて行かれた長男と次女と、ここにいる次男三男は実は勇者パーティーメンバー。


 人類としてレベル99をカンストした後は竜の一族としてレベル制限を解除され、姉ほどではないがレベル300~500の弟妹達。

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