第11話エイシェントドラゴンの天命

 カーチャを検分に来た司教も聖女も腰を抜かしてたので、教会からも奇跡認定を受けて無事脂肪。


 粗製乱造の聖女聖人でも、魔力の有無も魔力量も関係なく、竜との融合具合の低さも問題なく、平面世界から竜と認定されれば竜と同じ召喚魔法が使え、解呪とか病魔を殺す呪文も全部ノーコストで使える。


 竜との融合度が関わってくるのは防御結界の強さとか身体強化、攻撃魔法の当たり判定とか破壊力、相手の魔力量と防御で相殺される数値に違いが出るだけで、治療専門の聖女職には関係がない。


 長男とか次男とか、軍属に行くものはレベルを上げて物理で殴らないといけないので多少不利だが、姉に付いて火竜山に行った時や近場で食料確保する時に、有り得ないほど強大な魔獣とか魔物を倒してレベルが上がっているので、二人とも「あれ? 俺またなんかやっちゃいました?」も出来る、出来るのだっ。



 士官食堂


 大公が連れ帰る聖人と聖女が決まったので、長男と次女がペアになる竜を呼んで退出しようとした。


 父親や姉に挨拶することも言葉を交わす必要も無く出て行く二人と二匹。


 クソ親父の方は頂いた金貨を数えてホクホク。


「お待ちくださいっ、大公様っ、私は正教会に聖女や聖人を連れ帰らなければならないのですっ、どうかお待ちをっ」


 護衛兵士が司教を止めて説明を繰り返す。


「だから何度も言ってるだろう? 二人とも勤務する前に大公閣下の屋敷で支度をして養子縁組を済ませ、法服など身の回りの物を準備し終わってから次女は後日教会へと送られる。長男は歩兵師団に入隊して聖人として勤務するが、普通の聖女発見の手続きと何の違いがある?」


 聖女見習いとか聖女とか、平民でも白魔術でヒールとかエクスヒールを唱える適性があって、何らかの理由でレベルが上がり、低レベルでも呪文を覚えた程度の発見ならいつも通りの処理がされるが「治療の際に天使を召喚できる」「回数制限一切なし」なんてバカげた事態が起こったので、即座に正教会の重鎮と面会させ、竜の魔法を行使するような異端審問寸前の行為を正当化する法案を通し、審議さえ通れば法服など教会で用意するので、治療を待っている教会関係者とか王族貴族を直ちに治して解呪して祝福して防御などのバフ掛けして回らなければならない。


 以後は分ごとのタイムスケジュールで行動させ、売れっ子アイドルみたいに馬車で移動中以外に寝る暇も無く、どこかの〇りピーみたいに撮影中に久しぶりに病院のベッドで横になる役柄に当たった時、気が付いたら真っ暗なスタジオの中で眠っていて、後で聞いたらスタッフがどれだけ起こしても起きず、マネージャーに「人間、寝ないと死ぬんだよっ」と言って断固として寝たので撮影中止になった後、阿吽の呼吸で「眠らないで仕事ができるオクスリ」が出て来て、以後も寝ないで仕事出来るオクスリ中毒になって「世界の平和を祈り続けるキャンドルアーティスト」みたいな本業はヤクの売人と結婚する事になる。


 阿片的物質でアイドルを縛るのと同じように聖女も縛られる、阿片を貰うには教会に依存しなければならない。


 B級C級アイドルが芝居も声優も出来なければ、AV堕ちしてでも事務所の言う事を聞くのは、麻薬で縛られているからである。


 結局護衛に蹴り倒された司教は、長男と次女を逃がしてしまったが、他の子を誘拐してでも連れ帰らなければならない。


「さあ、お嬢ちゃん、おじさんと一緒に教会に行こうね」


 事案が発生したので他の師団長の護衛に取り押さえられ、貴族たちが妹弟を持ち帰りするまで端の方に追いやられた。


 ユーガッタ〇レントみたいな状態で審査員が一人抜けて、タレントが二人番組を卒業した。


 竜騎士団は歩兵師団の下部組織で、空輸や空爆を依頼される関係なので大公にも色々便宜を図ったが、審査員席に魔法師団や騎馬騎士団の団長が着席すると、途端に塩対応になった。


 大公が出て行った瞬間、カーチャに続いて残りの弟妹も自分の席に走って飯の残りを立ち食い手掴みで詰め込み始め、見たことも無いような高級な飯を腹一杯食い続け、それは各貴族の護衛に見とがめられるまで続いた。


「おい、閣下の御前だぞ、整列せんかっ」

「え? ほらふうひひはんほはんほうほほうひへふはは」(翻訳:え? おら達竜騎士団長の養子ですから)


 口の中に詰め込めるだけ詰め込んで、どうにか噛み砕いて腹の中に詰め込む作業の途中なので会話ができない。


 既に竜騎士団長の家の養子になる約束があるので、魔法師団と騎士団には行かないが「誠意」を見せてくれた場合は変更する。


「ああ、護衛の諸君。この子らはうちの竜舎で働いている父親と話し合いができていてな、全員我が家の養子に来ることが決まっていたのだが、竜騎士団の上部組織である歩兵師団団長で大公閣下の御下命とあらばお譲りするしかなかったのだ。敵対組織である諸君らとは話し合いたくない、友好的な他の貴族家から依頼があれば話し合うつもりだ」


 魔法師団の師団長など、公爵家当主で明かに団長よりも上の存在だが、軍の組織では同階級の軍団長で、どちらが先任かで上下が決まる。


 不文律で貴族階級が上の方が偉いが、いつもの嫌がらせの意趣返しなので、通用する間はずっと塩対応。


「下げられないうちに食えっ」

「こんなもん二度と食えんぞ」


 新入社員も空気読んで、大公が出て行くまでは大人しくして、嫌な奴らを目にしたら飯の方を優先したので、団長も内心ゲラゲラ笑っていてプルプルが止まらない、クソガキどもの嗅覚の高さに笑い出さないようにするのに必死だった。


 そこで腹一杯詰め込んで一息ついたカーチャがやっとこさ返答をした。


「いんやあ、さっきの貴族様は太っ腹で、平民のゴミに金貨で支払ってくれましてなあ、ゲップ、あそこまで「誠意」を見せて下さると弟妹も素直になるんですが、飯の途中に乗り込まれましても」


 団長は笑いを堪えられず、片手で顔を覆って隠し、下を向きながら笑った。


「払ってやれ」


 魔法師団長が言い渡すと、護衛の兵士がエサで誘因するように一人銀貨一枚出して釣ろうとしても動かないので、数枚に増やすと食うのを止め、それでも動かないので仕方なく金貨で釣ると、手掴みで食っていたベトベトの手を伸ばしてきたので慌てて手を引っ込めた。


「そこのフィンガーボウルで手を洗えっ」


 弟妹達は手を洗ってナプキンで拭き、浄化済みの高いレモン水をゴックゴック飲んでから、金貨に釣られて移動した。


 ケチな護衛が、定位置に移動させ終わると金貨を引っ込めたので「誠意」が無いと判断され、何人か飯に戻ろうとした。


「待てっ」


 支払いしないくせに腕を掴んで無理矢理戻そうとしたので、三女の防御呪文が発動して護衛兵士を吹き飛ばした。この兵士たちは「竜の敵」認定された。


 カーチャ本人のような課金しまくった成果の絶対防御呪文ではないが、ここの兵士全員に襲い掛かられても、教会が全力で誘拐しに来ても、全部撃退できる程度の防御は掛けてある。


「馬鹿者っ、金貨をケチって聖女を敵に回すなっ」


 時既に遅く、魔法師団は竜の敵認定、今の状態で魔法師団の負傷者を治療しようとすると、悪霊なり低級悪魔が来て、全員魔物になる。


 いつもいつもいつも「魔法師団に邪魔されて補給が届かない」「魔法師団に嫌がらせで買い占められて必要な物資が来ない」と父親から聞かされ続けて来たので、マジ喧嘩の開始で魂のゴングが鳴った。


「おんやあ? 誠意も見せないで取り押さえようとして吹っ飛ばされるぅ? こりゃあストナ一家の敵で竜の敵ですなあ。竜騎士団とケンカしやすか?」


 ゴキゴキと指を鳴らしながら団長に目配せすると笑うのを止め、両手を下に向けて動かし、その程度にしてやれと指示があった。


「これから夢の十二階梯魔法で、魔法師団の駐屯地ごと月まで吹っ飛ばして見せやしょうかぁ?」


 両目を見開いて、片側の頬を吊り上げて睨む「ヤンキーのガン付け」をお貴族様に向ける。


「「「待て」」」


 この場合の「待て」は、喧嘩するのを「待て」ではなく、存在しないはずの十二階梯魔法に向けての「待て」である。


 喧嘩を売る時に大口を叩いているだけなのか、竜魔術を好き放題使えて大聖女と同等の魔法も使える奴なので、もしかすると人類の限界である十階梯を超える呪文を唱えられるのか、各師団の団長も真意を測りかねた。


「まあ、団長様がそう仰るなら」


 団長に注意されたので、この辺りが引き際と拳もガン付けも収めたカーチャ。「待て」の意味は分かっていない。


「今、十二階梯と言ったな? あらゆる魔法を十階級に分けたのが魔法階梯だ、そんなものは存在しないっ」


 魔法には厳しい魔法士から、魔法警察が出動して十階梯以上は存在しないとタイホされた。


「竜魔術は十二階梯までありますだ」


 団長からも「待て」と言われたので、後ろ手に手を組んで「休め」の体制で言い切った。


 言葉通りなら、目の前のメスガキは「竜が行使する極大魔法を使える」「魔法師団の駐屯地ごと月まで吹き飛ばせる」と言っている。


 喧嘩の前のハッタリではないなら、国家安全保障上大きな問題が発生する。


 竜魔術も破壊力の大きさで比べ、人間が行使するものと似た物が並べてあるが、人類最強呪文の更に二階梯上まで竜魔術は存在する。


「君は、十二階梯まで使えるのか?」

「へえ、まあ…… 就職祝いにエイシェントドラゴンの長老から教えて貰いやした」

「「「「「ナ、ナンダッテーーーーーッ!」」」」」(AA略)


 話は聞いた、人類は滅亡する(AA略)


 魔法師団だけでなく、騎士団も竜騎士団も動き出し、聖女どころの問題じゃない大問題が発生し「新入社員のクソ馬鹿がまたやらかしやがったーーーっ! 今から緊急会議」が行われる。


「なんでも、山向こうまで魔王軍が来てるんで、村(自分の家と火竜山の巣)を守りたいなら、城にカチ込んで魔王とか名乗ってるクソ馬鹿と手下を全部ぶっ殺して来いって話で……」


 目の前の娘は、エイシェントドラゴンの許可を得て極大呪文を教えられ、魔王を殺すよう使命も受けている。


「鑑定士を呼べーーっ! すぐに鑑定させろっ!」


 魔力ゼロでも竜魔術は呪文さえ言えば発動する。


「おう、オマエラ、長引きそうだから飯食ってていいぞ」

「うん」

「ああ」


 弟妹を食卓に送り返し、飯の続きを食わせる、今度は時間があるので座って食わせた。


 自分も呼び出されるまでは自由のようなので、立ち食いで鳥の足とか食った。


 今回も拘束されずに詰問で済み、誰も拘束できないと言うか、拘束しようとすると魔法師団が月まで吹っ飛ばされる。



 誰でも知っている絵物語で、影絵とか芝居でもやっている勇者パーティーの物語。


 数々の艱難辛苦を超え、エイシェントドラゴンと対面して竜の加護を貰い、唯一魔王を倒せると言われる魔法を教わり、唯一魔王に傷をつけることも可能な竜の聖剣を貸し与えて貰うために、竜の巣の門番である巨大な竜との決戦をする。


 数時間にも及ぶ激戦の上、ついに倒れた門番を越えて、勇者だけがエイシェントドラゴンと対面。


 天から祝福が降り注ぐ特殊な空間で、荘厳な雰囲気の中で天命を受ける。


 曰く「人の世界に住む勇者よ、悪の化身である魔王を討伐せよ」。


 そのための聖剣を授かり、竜との言葉の壁を越えて最強の呪文を与えられ、全ての物理攻撃と魔法攻撃を無効化する防御呪文も掛けて貰い、残りのパーティーメンバーにも加護と防御呪文を授かる。


 ここにいる連中は摺り切れるほど絵物語を読み続け、天命を受ける下りを読むといつでも感動して泣いてしまい、エイシェントドラゴンから天命を受ける場面の絵を壁に張り付け、いつか勇者になる日を夢見て、勇者に並び立つ鉄壁の騎士に憧れ、魔法使いや賢者ならパーティメンバーに選ばれるよう弛まぬ努力を続けた結果、全員今の地位にいるのだが、目の前の腐ったメスガキが全部持って行ってしまった。


 それも就職祝いで祝福と天命を受け、ヤンキーかヤクザが喧嘩する程度の気軽さで「魔王とか名乗るクソ馬鹿がいるからカチ込んで絞めて来い」だとか、天命を受けるシーンを穢したメスが気が許せない連中が続出した。


「嘘をつくなっ、勇者の試練がどれだけの物かも知らないのかっ?」

「門番の竜がどれだけ強いかも知らんのかっ? 七色の魔法を全て行使して大悪魔すら倒せる、神にも近い存在なんだぞっ!」


 もう泣きながらガッタガッタ震え、幼い頃の夢を壊された騎士や賢者が一斉に責め立てた。


「ああ、門番のおっちゃんですけえ? 厳しかったですけど勝ちましたよ」

「「「「「ナ、ナンダッテーーーーーッ!」」」」」(AA略)


 話は聞いた、人類は滅亡する(AA略)


「凍る山に住む氷竜は? 燃える大地の覇者である炎竜は? 強風吹きすさぶ風の山にいる風竜は? 黒曜石の大地に住む地竜は?」

「ああ、おらもあんちゃんも方向音痴なんで、行くのに苦労しましたけんど、みんな小難しい訳わからんことばっかり言うんでボコボコにして、通る前に治療呪文掛けて「まだやるか?」って聞いたら、「その仁を認める」とか「愛を認める」とか言って降参したんで通れました」


 勇者パーティーの知力や能力、勇、義、仁、愛といった徳を試す試練を、力技で通ったと言い切ったメスガキが許せず、嘘に怒って槍の腹で殴り付けた騎士がいた。


「うおおおおおおっ!」

「ああ、無駄ですよ」


 いつも通り絶対防御呪文が展開し、カーチャは休めの体制のまま受け、騎士は反作用で吹っ飛ばされて壁に張り付いた。


「「「「「伝説の絶対防御呪文……」」」」」


 魔法に厳しい魔法警察からも絶対防御呪文認定が出た。


「まさか君は、竜の聖剣も授かって、死者でも復活できる呪文も授かったのか?」

「へ? それってこれですけえ?」


 何かマジ泣きしている団長からも質問されたので、物入れのアイテムボックスからご褒美の変な剣を出して団長の前に置いた。


「「「「「ナ、ナンダッテーーーーーッ!」」」」」(AA略)


 話は聞いた、人類は滅亡する(AA略)


 鞘に収まった神々しい聖剣を拝領した団長は、全員を代表して剣を抜こうとしたが、その資格が無いので手を弾かれ、持ち上げることすらできなかった。


「持てない…… 抜いて見せてくれんか?」

「へえ、こうですけ?」


 平然と手に取って抜き放ち、素晴らしい装飾がされた鞘をそのへんの地面に適当に投げ、神々しい刀身を全員が見れるように翳した。


「あらゆる負傷をたちどころに癒し、魔王の絶対防御呪文さえ切り裂き、次元の彼方に潜む魔王の部下すら切り伏せた聖剣……」

「はあ、長物は嫌いでしてねえ、いつも素手なんですけど、持てる人がいれば譲りますけんど?」


 騎士団長が立ち上がり、光の速さで走り込んで聖剣を持とうとしたが、その権利が無いので手を弾かれたので泣いた。


「儂には勇者になる権利が無いのか……」


 暫く「勇者チェッカー」になった聖剣と鞘は、この場にいる剣士全員を拒否した。

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