第8話魔国からの潜入工作員(嘘)
その後、弟妹を並べて気合を入れてやる。要は竜魔術使用許可なので触れれば良いのだが、上からグーで拳骨を入れてやって許可する。
「これから竜魔術の使用許可を与える、行くぞっ」
「あいたっ」
「痛っ」
「ギャッ」
「うぉっ」
「ぐえ」
五人全員に必要がないグーパンで精神を注入してやり、竜との融合率が低い粗製乱造の聖女と聖人が五匹も完成した。成りたい者は竜騎士にもなれる。
「オマエラにも治療呪文「だけ」教えてやるっ、攻撃呪文なんか教えたら兄弟喧嘩の時に家とか村ごと吹っ飛ばすから禁止だ」
凶暴な下から二番目の妹、長男、こいつらだけには教えられない。
魔法の使用許可を出した家の当主が言ったのだから禁止、隠れて呪文を覚えても、長老以外に拝み倒して教えて貰っても使用禁止なので使えない。
「まず軽い治療呪文、クリーコココカカカ(治療)、リピートアフタミー?」
「「「「「「クリーコココカカカ」」」」」」
元々意味のある単語の組み合わせなので一回言えば覚えるし、多少間違っても意味が通じれば通る。
「次、範囲治療呪文、キャーク、コココカカカ」
「「「「「「キャーク、コココカカカ」」」」」」
「次は大怪我治す呪文だが、竜の敵とか、おら達の家の敵には使うな。さっきおっ父の敵に使ったら、天使が降りて来ないで悪魔が来た。そのオッサンはヌトヌトの化け物の腕に乗っ取られて、助ける呪文知らなかったから団長さんに焼かれて死んだ、分かったか?」
「うん」
「分かった」
「ええ」
一番下のクソガキ二人が「イミワカンナイ」状態なので教えず、他にも竜の呪いや他の呪いを解呪する呪文、竜と飛ぶ前に一体化する呪文などもついでに教えた。
天使が呼べそうにない時は術者が気付くので、その場合は無理をしないよう使用停止にした。
もっかい騎士団長と小隊長に報告するため振り返り、細かく報連相した。
「以上であります、上の三匹は大聖女と同じ、下の二匹は普通の聖女ぐらいの力です」
「あ、ああ……」
「そうか……」
調教が終わったのを伝えると、同じように「イミワカンナイ」団長とかも曖昧な返事をした。
クソ親父だけが、他のガキどもも高く売れそうなので、ニンマリと気味の悪い笑顔を浮かべていた。
その頃には近隣の村から聖女に治療してもらうため、診療所に向かって怪我人や病人が殺到していて、歩けない者は戸板に乗せられて運ばれ、よくある「お姉ちゃん、おかあさんがっ、おかあさんがあああっ」イベントも多数発生していた。
他にも「売身救母」と傘に書きこんで街中を走り、大人(たいじん)に救いを求めて、母の治療費を出してくれれば奴隷にでも何でもなると言う孝行息子もいて、「士は己を知る者の為に死し、女は己を悦ぶ者のために容づくる」と言う「知己」の語源を作る、刺客列伝に出てきそうな忠義の烈士が得られるイベントも発生していた。
「あのっ、医師様、大変ですっ」
「何かね?」
「診療所に凄い行列がっ」
看護師の一人が幼竜舎まで走って来て、診療所に百人以上の住人が集まっているのを告げた。
「ヨシッ、オマエラ初仕事だ、行列の怪我人病人を片付けて来いっ」
「「「「「「ヤーー」」」」」」
相方の竜も同行し、弟妹達の聖女聖人デビュー戦が開始された。今回も団長とか勤務医の許可は得ていない。
診療所
流石に六人も聖女聖人がいるので、通りがかりに病人怪我人を包囲して範囲治療呪文を掛けてやると大抵の問題は解決した。
「ああ、聖女様、ありがとうございます」
「ありがたやありがたや」
「助かりました」
結核などの肺病や天然痘、コレラ、赤痢といった病気はエクスヒールでも治らないのだが、その辺りは見境が無い呪文なので感染前に時間を戻したのか何故か治った。
「聖女様、母を救って下さい」
「あら?」
そこで次女がイケメンの少年を見付け、不治の病を患っている母を背負ったままヤバイぐらいの目付きをして泣いていたので、順番待ちの列を無視してその場で呪文を唱えた。
「クルルカー、コココッ、クリクククッ(全ての病よ消え失せろ)」
病魔や死神は追い払った後なので、天使を召喚してやると時間が巻き戻り、全身に腫瘍が転移して体中腫れている末期ガンでも何の苦労もせず治った。
サンタさんに「ママのがんがなおるくすり」とかお願いしないでも治った。
病気を患う前の年齢まで巻き戻って、背負っていた少年の怪我とか病気も一緒に治った。
「「「「「「「「「「おおおおおおっ」」」」」」」」」」
平面世界の住人は下級天使など見たことも無く、大抵は違反条項に抵触して始末される前に見るので、見た瞬間に死ぬ系統の魔物で悪魔である。
それが今回は何の被害も与えず、治療が終われば素直に帰った。
少年が背中から母を降ろすと、体中の腫れものが消えていて、顔のゆがみや腫物、目の腫れや変色まで消えていたので、聖女が召還した天使によって完治したのを確信した。
「聖女様っ、ありがとうございますっ、少ないですが治療費をお受け取りを」
イケメンが這い蹲って次女の靴や足先にキスして感謝し、懐から金の入った財布を差し出したが、次女はカーチャよりも魔女なのでこう言った。
「いらないわ(ニヤリ)」
カンガルーか鹿の金玉袋みたいな、腐った臭い財布と小銭を受け取っても仕方が無いので、もっと価値があって決して金では買えない物を要求した。
上から見下ろして「お前の人生と命を全部この私に差し出せ」と黒い笑顔と目で語った。
「俺の人生の全てを聖女様に捧げさせて頂きますっ」
念話でも通じたのか、下僕は五体投地して魔女の要求した物を支払って魂を売り払い、目の前にいる悪魔と契約した。
「ええ」
魔女は全自動奴隷クンで下僕でATMで小間使いで無料の荷物運びを手に入れた。
イケメンは跪いて魔女の手の甲にもキスして騎士のように永遠の忠誠を誓い、魔女が次の患者に向かうと、近くの木の皮を剥いで「パタ〇ロ殿下に永遠の忠誠を誓う」みたいな書き込みをしたので、聖女への忠誠の木が誕生した。
この木の下で告白しても治療しても、特に何の効果も無い。
以降もある程度人が集まったら誰かが範囲治療のれんしゅう。ヒール程度で治らない重病人が居たら天使を呼ぶ。
下級天使と言うのは、この世界の保持のための機械でインフラでしかないので、「何度も呼ぶなよ、一回で済ませろや」とか文句も言わないで、究極範囲治療呪文でもない限り一人づつ治療して用が終わったら召喚陣から帰る。
機械なのでムカ着火インフェルノしないので、どこかの黒くて浅い水域の、にいさまねえさまみたいに「天使を呼びましょう」とか言いながら酒場でBAR機関銃をぶっ放したりしない。
ゲームのCG画像みたいなもので、この魔法の時はこんな映像が出ますよ、程度の視覚効果。
一般人に紛れて魔国の間者もいたが、竜の敵じゃないので気にせず治療、天使が降臨したのも兄弟姉妹でエリアヒールしたのも全部ガン見された。
間者は一般人にまぎれていて服装とかも全然怪しくなかったが、フードを被って顔を隠している明かに怪しいのがいた。
「オイ、顔隠しても無駄だぞ、いつも偉そうに喚き散らしやがって、竜臭いだの噛まれたら殺されるだの言いふらして、お前のうちの子は毎日竜に石投げに来るし、俺には犬の糞とかも投げてたよなあ? それでこんな時だけ治療してもらえるとでも思ったのか?」
長男が竜の敵でストナ一家の敵を見付けて、顔を隠していたフードをどけてやった。
いつも石を投げられている竜は顔を顰めて吠え掛かり、火を吹く準備までしている。
「ウウ~~~~」
「何だ、儂の家のもんだけ治さないつもりかっ、おまえら聖女か聖人じゃないのかっ、何で竜狂いの馬鹿一家に治療なんかできるんだっ、ふざけるなっ」
注意されたのに逆切れした厚かましい近所の糞ジジイ。
いつもの嫌がらせをしに来た時に、いつも通り「猛竜危険」の柵を乗り越えて石を投げ、幼竜から仕返しにロングレンジの火を吹かれた火傷の治療に来ていた。
大工仕事で梯子から落ちた時の打撲や、ハンマーで自分の指を潰してしまった所も治して貰おうと思って聖女の噂を聞いて来たが、それがいつもいつもいつも嫌がらせをしているストナ一家の者とは思いもしなかった。
「ふざけてんのはお前だろクソジジイ、あれだけうちに嫌がらせしやがって、もっと怪我増やしてやろうか? 殺される前に帰れっ!」
現在、聖人様として敬われている長男は、クソジジイに直接手出しはしなかった。これだけ揉めれば信奉者が始末してくれる。
「クソッ」
真っ赤になったジジイは、後ろを向いて他の患者に大声で喚いた。
「おーいっ、こいつらは竜狂いの馬鹿一家の奴らだっ、聖女が出たと聞いてきたらこんなインチキ野郎どもだった、俺を治せないとよっ、差別する奴が聖女とか聖人名乗ってるが後で金を取られないように注意しろよっ」
次女の下僕になった少年が小刀を抜いて襲い掛かろうとしたり、既に治って聖女や聖人の一家を眺めたり拝んでいた連中がジジイを取り押さえようとしたが、魔女で悪役令嬢でラスボスで悪魔が押しとどめた。
「およしなさい、いいんですよ、このお爺さんの言う通りじゃないですか、聖女でしたら誰でも分け隔てなく治療してあげるのが普通でしょう?」
もちろん、姉から竜の敵を治療しようとすると悪魔が降りて来て、グッチュグチュの魔物の手を付けていくと聞いていたので、もし降りて来るのならその手段で始末して、今までの借りを返してやるつもりでいた。
カーチャも長男も妹も、魔女の真意に気付いてニンマリ。
「クルルカー、コココッ、クリクククッ(全ての病よ消え失せろ)」
魔女は生贄でゴミクズが逃げてしまわないうちに呪文を唱え、クソジジイを始末しようとした。
悪魔が降りて来ないようにカーチャが制限を掛けていたが、それでも悪戯好きな悪霊が降りて来て、ジジイの外見を二目と見れない化け物に変えた。
頭の左右にも顔が出て、全部悪魔か鬼みたいな表情、気味の悪い手が六本で足も四本、幻術なので本当の姿ではないが、見る者によって姿が変わる化け物にされた。
「「「「「キャーーーーーッ」」」」」
「やっぱりっ、この一家は魔物が人間に化けてたんだっ、竜がいる聖女や聖人の家を襲ったり、火を着けようとしてたのはこれが理由だったんだっ」
セリフを用意していた長男の、多少棒読みで下手くそな芝居でも、聖女一家に治療を受けた民衆や素朴過ぎる村人には通った。
「あの爺さんの一家全員か?」
村の者にも聞かれたので、この一家は終了である。
この後、農具で武装した村人多数とか自警団がジジイの家に押し寄せて、一家全員捕らえられるか、西部の掟で広場に連れて行かれて高い所に吊るされる。
「竜騎士団抜刀っ!」
「「「「「「ヤーー!」」」」」」
クソジジイに嫌がらせをし返すつもりだったのだが、長男の作り話が団長にまで通ってしまい、さっき焼き殺した奴も魔国の間者で、壁の中に潜んでいる巨人とか人狼とかバンパイアみたいに、魔物が人間に変化して人間世界に潜入していた工作員だと思って捕らえることになった。
本物の魔国の間者の方が「え? そんな奴潜入してたっけ?」と思い、イミワカンナイ状態に陥ったがキニシナイ。
この時から、本当は存在しないアルカイダとか、魔国の陰謀で野望で蔓防(まんえんぼうし)で、国内の壁の中に何世代も草入りしてまで侵入している間者が、王都にも多数潜伏していることになり、あちこちの関所での検問が厳しくなった。
ドイツ訛りの英語をしゃべってる奴に「ミッキーマウスの彼女の名前は?」とか、アジア人だが日本語が下手な奴に「天皇の名前は?」「干支は何?」といった自国人でないと答えにくい質問が一杯作られて、本物の間者が捕らえられたりもした。らしい。
(((((((プゲラ)))))))
性根が腐っているのは両家とも同じだったが、積年の恨みを晴らせると思って兄弟姉妹はほくそ笑んだ。
「聖女様はお下がり下さいっ!」
イケメン下僕の初仕事として、自分が守るべき聖女の盾となって化け物から身を挺して守り、小刀で魔物に立ち向かおうとした。
その聖女で魔女は悪魔の笑顔でニンマリ。下僕の母親は元気になって腹が減ったのか、使用人用食堂に飯でも食いに行っている。
結局、外見が魔物に変えられているだけでただの弱いジジイは、簡単に竜騎士達に捕らえられ、縄を掛けられて牢屋入りになり、家族と共に魔国の潜入工作員として延々と取り調べと拷問を受けることになった。
「恐ろしい、ここまで完全に人間に化けて、何世代も続けて村や王都に潜伏していたとは? さっきの魔物など十年以上も竜の飼育係をしていたのだぞ、君は知っていたのか?カーチャ」
団長がやって来て、何やら深刻な表情で話し掛けて来た。
団員達も、ストナ一家の竜魔術が無ければ魔国からの潜伏者の正体を暴くことが出来なかったのだと思い込んでいて、この兄弟たちの敵で竜の敵が制裁を受けただけとは思っていなかった。
「イエ、シリマセン」
ロボットみたいな返事をして目を逸らしてごまかしていると、次女で大聖女候補で魔女で悪鬼羅刹が会話に加わって来た。
「団長様? 王都の中にも、貴族の中にも紛れていると思いますわ、わたくしが正教会に入って、中から調べて参ります」
「そうか、君が…… 君たちの父上とも話していたのだがな、教会の横暴に対抗したり、連れて行かれて閉じ込められないようにするには、形だけでも我が家の養子にと話していたのだ、どうだろうか?」
やたら貫禄がある次女を見て少し引いている団長だが、利害関係は一致しそうで、姉よりも頭が良さそうで言葉遣いが正しい次女を見て、養子の話を切り出した。
「ええ、喜んで(ニヤリ)」
黒い笑顔で微笑んだ魔女で悪魔は、まず貴族家で騎士団長の家に養子として潜入した。
さっき魔物として処理された二名は魔物でも何でもないのだが、こっちのモノホンの悪魔で大聖女は、王都へ、正教会へと潜入する。
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