第5話人類の敵との闘い

 騎士団詰所隣の親方部屋で総女中頭部屋。


 ストナより年配で上司の親方と、飯焚きや掃除係、洗濯係や小間使いなど全女性職員のトップである総女中頭。


 そこに挨拶に行くと、いきなり怒声が響いて一発かまされた。


「てめえ、ストナの娘だろっ、どこに配属されたか知らんが、昼まで俺にも女中頭にも挨拶しないで、どこほっつき歩いてやがったっ?」


 物理攻撃されなかったので防御魔法は展開しなかったが、初歩魔法に匹敵する圧力を感じた。


 本来なら騎士団詰所の直後にここに挨拶に来るはずだったが、幼竜舎の酷い扱いを聞いて騎士と一緒に移動してしまったので、配属先が決まる前にあちこち連れ歩かれ、何故か騎士団に入隊していた。


 大体「な、何を言ってるのか分からないと思うが、親父の職場に着いて来て竜の飼育係見習いになりに来たら、いつの間にか竜騎士見習いに採用されていた」という怪奇現象が起こっていた。


 カーチャも親方に何か言い返そうとしたが、今回は揉め事が怒らないように小隊長から切り出してくれた。


「黙れ、お前にはカーチャに指揮命令する権限が無い。この子は竜の世話係では無く、魔法力や飛行能力も優秀なので竜騎士団見習いとなった。三か月後に正式任官されればこの子は士官扱い、お前が直接命令して良い人物ではない」

「「はぁ?」」


 二人とも理解の範囲を超えたのかユニゾンして疑問の声を上げた。


「今までの騒動を何も聞いていないのか? 朝に職務怠慢で幼竜舎の飼育係を解任された女中達が、つい先ほど子竜の毒殺未遂を起こして二名が処刑され、残りの人物も死ぬより苦しい刑罰を受けている、お前たちにも責任を取って貰うぞ」

「「ええ?」」


 話は一応聞いていたが、馬鹿な貴族が数人、カーチャを教育するのに殴ろうとして吹っ飛ばされて処罰。


 幼竜舎でカーチャを教育しようとした女中達のうち、一人が竜に踏み殺されて処分、子竜に毒を出した首謀者は毒を飲まされて「自殺」扱い。


 実行犯は死刑を免除された代わりに騎士団の公衆便所になって、他は命があるうちに逃げ出したと聞いていた。


「とんでもねえ事件を起こしたバカ娘がいると聞いたもんで、これからタップリ教育してやろうと思ってたとこでさあ。旦那も冗談言ってないで馬鹿娘置いて行って下せえ、俺らがぶん殴って教育してやりまさあ」


 この親方も発達障害で立場認識が一切できないらしく、被害者加害者の区別ができない。


 その上、事件の当事者なのだから二度とこんなことを起こさないよう、カーチャを殴って怒鳴り散らして教育しておく必要があると考えている。


 さらに今の小隊長の説明も一切理解できず、ストナの娘イコール平民で飼育係。


 騎士団の制服を着ているのは何かの冗談で、士官待遇の騎士団員と言う言葉は脳に入って来ても、自分やストナ以下の小娘が竜騎士になるなど絶対に理解したくない話なので、嘘だと信じて認識するのを放棄した。


「頭が悪すぎて理解できなかったようだな」


 小隊長はすぐに剣を抜いて親方に突き付け、理解させようと努めた。


「馬鹿はお前だ、お前には責任を取って辞めてもらう、ようするに首だ、今すぐ荷物を纏めて出て行け。総女中頭、お前も幼竜毒殺未遂事件の責任を取って辞めてもらう。今すぐ処刑されないだけありがたいと思え。さあ、今すぐ引継ぎをして出て行け、次の親方はストナだ」


 何やら自分が与り知らぬうちに、父親まで出世していたようで驚くカーチャ。


 娘が竜騎士団団員で、父親が竜舎の飼育係では格好がつかないので、急遽決まった人事なのだが、現親方と総女中頭は無能すぎて処分。


 先程の女中達を全員処刑しないで犯人を内部告発させ、罪の無い者は放り出して遠くに逃がしてやった手腕も評価した人事になった。


「総女中頭は君が兼任しろ、飯焚きや洗濯係にも潜入して、膿を出し切るんだ」

「「へぇ?」」


 小隊長が言うと、今度はカーチャの脳の理解の範囲を超えたので、女中頭とユニゾンして疑問の声を漏らした。


 今回は親方に怒鳴られ殴られ分からされる前に、親方の解雇が決まってしまい父親が後任。総女中頭にいびり倒されて辞める前に、先に総女中頭の首が飛ぶ怪奇現象が起こった。


 昼になり、小隊長と僚機の騎士、他の平民の隊員も昼食の為に使用人用の食堂に来ていた。


 貴族のためのシェフと士官食堂もあり、騎士はそちらでも食べられるが、料金が高いので平民騎士はこちらに来る。


「上手いことやったな、竜には碌に乗れないくせに偉そうで、魔法も大して使えない、いけ好かない貴族を四人も謹慎にして、幼竜舎のアホウ共も追い出して公衆便所が増えた、次はどこに行くんだ?」


 死人が出ているのに笑っている騎士に驚いたが、戦場やここでは普通の出来事なのだと思う事にした。


「気にすんな、竜を殴るような騎士はすぐ頭から齧られて胴体とお別れするのが普通だ、世話係だって全員命懸けで、あの年まで無傷なのはお前の親父ぐらいなもんだ、他の連中はしょっちゅう噛み付かれてる」


 指や腕の無い飼育係も大勢いて、危険が一杯な竜騎士団。


 父親だけが指まで全部そろっている珍しい人物で、尻尾の一撃で肋骨全損になったり、ブレスを浴びせられて全身火傷から治療呪文で何とか命が助かるような職場。


 そこで小隊長から次の勤務地を指定された。


「次は士官食堂に行って貰う、ストナの娘と言う事で気軽に接してもらえるだろうが、また「教育」しようとする馬鹿がいれば処分する」

「はぁ、そうですか」


 また碌でもない扱いを受けて、食堂裏に連れて行かれ、数人に囲まれて包丁や麺棒で脅され、殴られそうな未来視が簡単にできた。


「あそこは最近、食べ物が変な味をしていたり、虫の破片が入っていることが多いので俺達は行かない、君に潜入してもらって何かあれば暴いて来て欲しい」

「分かりました」


 次の任務を受諾した所で注文した食事が来た。


「あれ? あんたストナの娘だろ? なんで制服着てるんだい?」


 食堂のおばさんに声を掛けられ、平民で飼育係の娘が何故騎士団の制服を来ているのか尋ねられた。


 幼竜が大きくなりすぎて飼えなくなった時、幼竜舎でお別れして泣いていると、食堂で美味しい者を食べさせて貰ってから帰るのが普通だったので、食堂のおばさんにも顔を覚えられていた。


「うむ、この子は飼育係では無く竜騎士見習いとして採用された。おばさんもこれからは「騎士様」と呼ばないといけないぞ」


 スプーンを掲げて何やら自慢げに話す平民騎士、食堂のおばさんも訳が分からずきょとんとしている。


「この子、竜語で喋れるし、竜の魔法まで使えて、白い竜の兄ちゃんに乗ったら、俺達より早いわ魔法は使えるわで団長も驚いて一発採用って訳だ」

「へえ、良かったねえ、給金も親父さんより良いんじゃないか?」

「そうなんですか?」


 小隊長に聞いてみるが、採用に関して給金の相談はしていない。


「ああ、親父さんに聞かれると困るが、私達の給料は月に金貨二枚程度だ、見習いでも用意するものが多いから色々入用で、任官すれば支度金も出て結構な額が出るはずだ」

「フェッ?」


 小隊長の月給が二百万円程度と聞き、頭の天辺から声が出た。


 出仕する前に親父の給金を聞くと銀貨三十枚程度で、飼育係見習いの給金は銀貨十枚程度と聞いていた。


「俺も勤め始めた頃は親に金盗まれてな「管理してやる」とか言ってたけど全部嘘で、全然返してくれない上に家出たら仕送りしろって五月蠅いから、お前も親父さんに取られないよう注意しろよ」

「へえ……」

「騎士団の独身寮に入ると通勤も楽だぞ、男ばっかりで困るだろうけど、隊員は随時募集中だから空き部屋はある」


 竜に乗れる才能がある人物は非常に限られるので、隊の人員が充足したことは一度も無い。


「あれだけの魔法が使えるんなら、貴族になって屋敷に住むのも良いぞ。それか団長がどこかに取られる前に養子に欲しいって言ってたから、団長の息子と結婚したら大貴族の跡継ぎだ」

「フェッ!」


 もう一度頭の天辺から声を出し、今までの人生ではありえない、優雅な貴族ライフを夢見て「頭がフットーしそうだよ」な感じで、食べ物の味も分からないうちに飯を食った。


 午後からはすぐに士官食堂に配属されることになり、汚い恰好では追い出されるのでシャワーを浴びさせられ頭も洗い、今度は竜騎士の制服では無く食堂用の白い服に着替えさせられて、小隊長に案内されて士官食堂裏に入った。


「やあ、これからここで何日か世話になるストナの娘だ、飼育係とか色々経験して、一番適性がある所に入れようと思う」


 既に竜騎士に採用されているのは伏せ、他の職場と同じく「教育」されそうになって悪い物を出させ、他の職場での騒動は隠して食堂に潜入させた。


 昼食後の休憩時間で、皿洗いや夕食の仕込みは後回しになっている。


「おや、あんたストナの娘さんかえ、竜と仲良かったからあっちかと思ったけど、食堂に来たのかい」

「へえ」


 そこで料理長らしき人物にも見つかり、声を掛けられた。


「髪の毛は三角巾で隠せ、料理の経験は? 貴族への配膳はできるか? まず無理だろうな、最初は皿洗いと荷物運びだ」

「へい」


 厳しいが普通の扱いで、料理に虫が入っていたり、異臭がする変な料理が出るとは思えない。


「キキー、カカカ、カルカル」


 そこで竜語で気配察知の魔法を使うと、壁の中、厨房機器の裏側、かまどの裏、ソース棚、天井裏にも人類の敵「G」が多数存在するのに気付いた。


「あの、仕事の前に虫とネズミの駆除していいですか?」

「はあ? この清潔な食堂にそんな物はおらんっ」


 料理長に即座に否定されたが、気配察知に間違いはなく、士官食堂には多数のGが蠢いていた。


「食材と料理だけ全部外に出したら、虫とネズミに効く毒撒きますんで、ちょっと外で待って貰えますか?」

「言う通りにしてやってくれ、この子は竜の魔法が使える」


 まだいてくれた小隊長が口利きしてくれたので、料理長も折れた。


「騎士様が言うんなら」


 手が空いている者で食材や鍋を出し、毒が掛かるといけないまな板や料理人の自前の道具などが片付けられた。


「それじゃあ、やりますんで外に出て逃げておいてくだせえ、奴らは簡単に死にませんので服の中に逃げ込まれたりしないように注意して下せえ」


 料理長や顔見知りのおばさんは、Gを侮って笑っていた。


「え? ああ、分かった」


 小隊長やGが嫌いな人物は、建物の外まで出て警戒していたが、Gもネズミもいないと言い切った料理長と叔母さんが怖いもの見たさで残って地獄を見た。


「キリリーー、クカカクカカキーー」


 除虫の毒魔法を唱えると、まず床の色が真っ黒に変わった。


「ヒイイッ」


 おばさんが悲鳴を上げ、床の変色と大移動し始めたGと、逃げ出したネズミの数に驚いた。


「ぎゃあああっ!」


 Gが天井から雨のように降り注ぎ、料理長とおばさんの頭とか顔とか襟にも降り注ぎ、足からも袖からも大量のGが服の中に入り込んだ。


 大小織り交ぜて数千から数万のGが、今後も生きて行ける場所を探して大移動を開始した。


 即死させる毒なら人体にも有害で食堂には使えない。氷結魔法は水道も下水道も排水トラップも凍らせてしまうので使えない。


 凄まじいGの大移動は士官がいる食堂にも及び、午後ティーなど楽しんでいた貴族がいて「除虫しますので貴族様は退出をお願いします」とお願いしても出て行かなかったマヌケが被害に遭った。


「うわああああああああああああっ!」


 貴族の足元から服の中にまでGが入り込み、体の上を這いまわった。


「ぴぎゃあああああああああっ!」


 おばさんが発狂して服を脱ぎだして、下着姿のおばさんの全身をGが動き回る地獄絵図が開始された。


「あああああっ、ああああああああああっ、ああああああああっ!」


 体の色がG色に書き替えられ、顔と言わず体と言わず全身を這い回わられて、口と鼻と耳の中まで侵入され、泣き叫んで転げまわって苦しんでいる料理長。


 その地獄絵図は屋外にまで適用され、瀕死のGが最後の足掻きで明るい場所を行進し、小隊長や他の職員がいる所まで進撃、悲鳴を上げて逃げ惑う姿が見受けられた。


 カーチャ本人はGからの物理攻撃で精神攻撃と判定され、絶対防御呪文でGを近寄らせず、余裕で屋外に退避して、瀕死で発狂寸前の料理長と発狂済みの叔母さんを救助して、Gが体から離れるのを待った。


 やがて建物から放射状にGが逃げて力尽き、毒に耐性がある者は別の建物に悠々と移住した;


 毒魔法は呼吸器から入る毒なので、Gの卵に対して効果が無い、数か月後に孵卵したGに再度攻撃の必要がある。


 例え宇宙に出ようとも、宇宙船を真空で除虫しても、あらゆる場所に潜み、地球産の草花や土壌菌やミミズを捕獲して繁殖させると、自動的にGが繁殖して増殖する。


 人類を一番多く殺したと言われる蚊と、あらゆる毒に耐性を持てるGは何をしようとも殲滅することはできない。


 どこかの指導者が「穀物を食い荒らすスズメは人民の敵だ」といって軍隊農民総出で駆除すると、害虫が繁殖しすぎてあらゆる草花が枯れ果て、人民が二千万人から四千万人餓死したのと同じように、自然の一部として認識して共存する以外に道が無い。


 とても敏捷な野生動物や、蜘蛛やカマキリのような捕食昆虫、Gには害になって餌にならない昆虫が多いと繁殖しない。


 多くの自然と昆虫がいればGが減るが、コンクリートで囲まれ、冬でも暖房が効いて暖かく、食料が豊富な場所では無限に増える生物、それがG。



 竜騎士団詰所


「は~~~~~~~~」


 騎士団長のクソデカため息(本日二回目)を観測して「士官食堂、G大発生事変」は終息した。


 カーチャも「あれ? 俺、またなんかやっちゃいました?」みたいな顔で後ろ手で椅子に拘束され、貴族の騎士団員に聴取詰問されていた。


「何でこんな事件を起こしたっ?」

「いやあ、流石に二万匹もいるとは思えなくて」


 気配察知にも限度があり「多数の敵が蠢いている」としか認識できず、余りにも多数の場合、敵の勢力把握を見誤る。


「今日だけで何回目だっ?」

「え~と五回目? それと食堂のおばちゃんが、いけすかない貴族にだけ虫を刻んだり、芋虫やカエルも刻んでサラダに混ぜて出してたそうですだ」

「ウゲエエッ」


 その報いを受けた叔母さんは、Gにたかられ這いまわられ、発狂して今までの悪行を懺悔して自白していた。


 本来貴族への不敬罪で処刑物だったが、死ぬより酷い刑罰を受けた後だったので減刑されて入牢した。


「小さいのは「現物」が入ってても気付かないで食べていたようで、味も変わりますな」


 士官食堂で長年食事をしていた貴族たちは、立ちどころに気分が悪くなった。


 現世でも土曜の昼間に社員食堂に殺虫作業が入っても、月曜の朝に「天井からポトポトGが落ちて来て仕事にならない」と報告があっても調理を強行して食事が出るので、皆さん沢山Gを召しあがっている。


「異臭がしてたのはネズミの小便と糞、よくペストや赤痢が流行らないで済みましたなあ」


 調書を読んだ貴族は、便所でゲーゲー吐く羽目になって、この世に生まれてきたことを後悔した。


 夜中の鍋の中では、寸胴にお玉を入れている隙間からGとネズミが入り、シチューの上でGが大運動会をして、ネズミが水泳してダニとノミを残し糞もする、麦袋の中でも食事して小便と糞をして、塩とか砂糖にも粗相、ソース入れに頭から突っ込んで溺れ死に、黒い糞は除去されないまま煮込まれて分解、菌とウィルスは煮て死滅したかもしれないが、O157のような毒素は分解されずに食べてしまい、当たったり白血球量が一桁に下がって免疫が無くなって病気になっていた。


 料理長は士道不覚後により切腹。になりそうだったが、やはり死ぬより苦しい刑罰を受け、お腹いっぱいGを食べて、耳からも鼻からも目からも脳にGが入ってしまい、耳の中からカサカサ鳴りながら脳を食べられて発狂するという「頼むから殺してくれ」みたいな状況になったので見逃された。


 そしてGを1匹を倒した経験値が1としても、数時間で経験値が二万以上上昇し、どこかの駆除人みたいにレベルが沢山上がっていたのも忘れてはならない。


 その後は夕食後に使用人用大食堂に蠢く五万匹のGと戦い駆除し、食糧倉庫や各施設、汚染度が高かった独身寮では七万匹のGやサル〇タケと対戦して、施設全体を地獄絵図に変え、戦って戦って戦い抜いてGに勝利した。


 カーチャはレベルが10も上がった。

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