第4話処刑

 本来存在しない魔法だとか、魔物の素材や武具を無限に買取する冒険者ギルドも有り、地球にいない魔物も大量で、通貨流通量を無視した無制限の金貨もある剣と魔法の世界。


 レベルアップや固定ジョブもチートスキルも冒険者ランクもアリアリ、定期的に魔王が復活して魔王軍が攻めて来て、邪神も天使もいて勇者の概念もジョブある世界。


 ギルドや両替屋(銀行)と言うのは、ダイソンスフィアを管理している天使と呼ばれる機械達が大元を管理していて、平面世界全体にあり、他の平面世界も支配しているので資金は無限。


 科学の粋を結集した魔法としか思えない技術で、神具と呼ばれる武器でも防具でもギルドカードでもどんな製造でもできる。


 粗製乱造だが頑丈な武器防具は、ギルドや特定の武器屋から安く無限に供給されたり、神剣とか聖鎧、宝具のような物は常時設定されているクエストで入手できる、比較的自由が利くオープンワールドな世界。


 しかし印刷による知識拡散や識字率の上昇、銃砲の開発や飛行機械の存在は絶対に許されないディストピア。


 もし火薬が開発されて銃が作られ、人力飛行機が飛び、蒸気機関の初期装置が開発され、紙の印刷技術が開発されると、どんな魔法も通じない巨大な上級天使が出現して、人間大の下級天使の軍勢が城塞都市を丸ごと破壊して、見ただけの住人も一人残らず殺される世界。


 共通の言語が発生して対話できないよう、バベルの塔と呼ばれる軌道エレベータで言語を混乱させ、方言や訛りで国内でも城砦単位でも会話を成立させない。


 そこは人類が機械化して永遠の命を得て宇宙に旅立った後、核兵器などで相互確証破壊が起らないように調整された、ある意味永遠の楽園で箱庭。


 中世世界ナーロッパや時代劇世界が保存され、ノンプレイヤーキャラが愚民化処理された場所で、永遠の命を持ってしまった元人類がほんの100年ほどの夢を楽しむ場所。


 人類発祥地である聖地太陽系は保存されているが、ここバーナード星域や近隣星系では惑星がすべて解体され、ダイソン球やリングワールドが建設され地球の数万倍の表面積を持った箱庭が作られていた。



 幼竜舎


 全員が幼竜舎に到着すると、女中の少女たちは泣いていたり、下卑た笑いを浮かべながら餌の時間でもないのにご丁寧に全部の竜に器を並べ、今度は床に撒かないで丁寧に置いていた。


「え? 違うんです、これ…… この子が勝手に」


 指差された気の弱そうな少女が首を振っていると、全員がこの子がやったと言い始めた。


「何のことだか、おら皆に命令されて」


 馬鹿共の戯言は聞かず、騎士が器を取り出した。


「竜が警戒して口を付けんようだな」


 カーチャも器を出して指を漬けようとしただけで、全力で防御呪文が発動して器の中身が変色して魔法で焼き始めた。


「これ、全部毒入りですだ、人間なら一口で死んで幼竜も助からねえ、子竜なら治療呪文で命は助かっても、すごい苦しむでしょうなぁ」


 カーチャの言葉を聞いて激怒した団長がすぐに剣を抜き、女中達を驚かせた。


「きゃあああっ」

「そこに直れ、国家の財産であり、黄金よりも貴重な人に慣れた竜、それをお前たち如きが殺そうとしたのかっ? 竜の世話すらできん小娘共がっ、成敗してやるっ!」

「ひいいっ!」

「ち、違うんです、これは……」

「私じゃありません、こいつが勝手に」

「毒を並べて竜に食わそうとして、どう言い逃れするつもりだっ!」


 団長の怒り具合と団員にも一喝され、言い逃れできずに腰を抜かした数人以外、残りはまた一目散に逃げて行ったが、先程の頭目が団長に食って掛かった。


「こいつ、仲間を踏み殺したんですよっ? アタシの大事な友達をっ! 殺されて当然の事をしたんですよっ!」


 虫の息を超えて、肋骨が肺にでも刺さったのか、内臓破裂と出血多量で既に死んでいた少女。女中たちは泣きながらすぐに仕返しの為に竜達を毒殺しようとした。


「お前たちなど銀貨数枚で命が買える奴隷同然のクズ、同じ重さの黄金でも買えない幼竜と価値が同じだと抜かすか? 言いつけられた仕事もできず上位である騎士団員の新人イビりか? 騎士団最強の娘とお前如きが同じ価値だと抜かすか? 今すぐ斬られたくなくば、この器の中身を飲んでみろっ!」


 剣と毒入りの餌を突き付けられ、真っ青になって仕方なく毒の器を受け取った女中達の頭目。


 目を泳がせてからカーチャに助けを求めたが、竜を毒殺しようとした娘が許されるはずも無い。


「飲ませろっ」

「「「「はっ」」」」


 主犯で頭目は騎士団員に取り抑えられて無理矢理毒杯を飲まされた。


「んんんんんんっ」


 騎士数人に抑え込まれ口を閉じて抵抗したが、顎を掴まれて歯の間に頬肉を捩じりこまれ、飲まないようにも抵抗したが、息が続かずに肺と胃袋で腹一杯受け止めさせられた。


「げふうっ、げほっ、げほっ、うわあああっ、あああああっ!」


 指でも突っ込んで胃から吐き出そうとしたが毒が効き始め、のたうち回って苦しみ顔色が青から紫色になり、暫くするとのけ反ってガクガクと痙攣し、たっぷりと死のダンスを踊ってから絶命した。


「毒殺に関わった者全員に飲ませろ」

「「「「はっ」」」」


 朝に飼育係を解任された女中達は、凝りもせずカーチャを虐待しようとして撃退され、一人が竜に踏み殺されても改心せず逆に竜を毒殺しようとした罪で罰せられる。


 どうせ誰が主犯か調べても全員嘘をついて分からないので、貴族の騎士団長から連帯責任で全員死刑宣告を受けた。


 家族には国家の財産である竜を毒殺しようとした罪で処刑したとなれば保証金も出ない。


 娘を処刑されたから賠償だとか慰謝料などと言い出した場合、国家反逆罪を適用して親兄弟全員を連座で処刑すると言い渡すと引き下がらざるを得ない。


 貴族に歯向かって竜殺しまでしようとしたので、近所では「あそこの娘は反逆罪で処刑された」と噂され、家族全員働きに出ることなどできなくなり、村の中で物々交換の取引も貨幣での取引も拒否、小作人なら地主が貴族に気を使って追い出す。


 以後家族全員名前も知られないスラムに移動し、最低の仕事で食って行き、雨風にも困るテント生活が始まる。


 そこまでの決心をして犯行に及んだのだから、団長も騎士も全員を処刑する覚悟を決めた。


 そこで娘たちを哀れんだカーチャの父親がポツリと呟いた。


「もったいねえ、まだ15,6の若い娘だ、若い騎士の皆さんや儂らの慰み者にでもお下げ渡し下さって、手に負えなくなったり使い物にならなくなったら売春宿にでも売っちまえば良いのに、全員殺すなんてもったいねえ」


 自分の娘を虐めようとして、貴重すぎる幼竜子竜を殺そうとした犯罪者だが、せめて命だけでも助かる術(すべ)を呟いてみた。


 馬鹿者で助平と団長や団員からお叱りを受ければ、下賤の者の愚かな呟きとして陳謝すれば、今までの働きと顔見知りの気安さで仕置きを受けたとしても命までは取られないと考えた。


「好きにしろっ」


 団長からストナに向かって許可が下り、剣も収めて帰ったので、女中頭を含めた全員処刑から一等減刑され、若い団員や飼育係の男どもの慰み者になったりするかも知れないが、命だけは救われ、売春宿に売られる前に言い含めて何処かに逃がすこともできた。


「げぇ、助平親父」


 娘のカーチャからは汚物でも見る目で見られたが、若くて物事の道理も知らない、何の教育も受けずに最下層の生き方をしてきた女中の日常の行為だったので、どうにかして御目溢しをもらってから逃がそうとした親世代の考えも分からない娘に、後で教育してやってメスガキ分からせをしてやろうと思わせた。


 父親だけはカーチャを拳でぶん殴ることも、尻叩き100回でも何でも出来る。



 女中詰所


 既に何人か荷物をまとめて逃げようとしていたが、門番や騎士団員に捕まって一か所にまとめられた。


 団長がストナに一任したので、団員は不干渉で見守り、まずストナから一同に言い渡された。


「団長様から儂に「好きにしろ」とお言葉を頂いたので、全員連座での死刑は無くなった、安心すると良い」


 竜には慣れなかったが人間同士の同僚には慣れ、直接の上司ではないが飼育係の上役でもあるストナとは顔見知りで、日頃のあいさつ程度はかわしていた連中から安堵の声が漏れた。


「良かった~」

「死ぬかと思った」


 それでも竜を殺そうとした数人は許されないので、まず首謀者や関係者が探された。


「この中で、処刑された娘以外にも、竜に毒を盛った連中は突き出してくれ、そいつらだけは無罪で逃がすわけにはいかん」


 手伝うように声を掛けられた者達が共犯者を告発し、最初の5,6名の他にも数名が前に出された。


「違うんです、私じゃありません、だって竜が大好きで」

「黙れ」

「私も違うんですよ、ちょっと懲らしめてやろうとしただけで」

「懲らしめるのに殺すのかよ」


 青くなった女たちのくだらない言い逃れが続いたが、竜舎で指さされて主犯扱いされた女中が泣きだした。


「日頃からこいつらに脅されて虐められて、無理矢理手伝うように言われて」


 気が弱そうで鈍臭そうな女中は、毒を出すのも手伝わされて共犯にされ、竜が死んだ後にはこの娘だけを突き出して逃げる算段までされていた。


 他にも毒物を管理しているはずの女中頭が突き出され、処刑されたり踏み潰された気が強い女中だけを贔屓して、他の弱い者を虐めていたのを告発された。


「こいつも共犯です、清掃用の毒物を出すように言われて、何に使うか教えられなくてもすぐ出したんです」


 金具の錆び取りの毒物、洗濯清掃用の毒、あらゆる毒に困らない職場だったが、扱いは管理権限がある者に任されていた。


「いつも弱い者虐めして、強そうな奴には従って、上手いこと管理しようとしたんです」

「違う、わたすは」


 竜に近寄れずに手抜き作業を始めた本人。親方には適当に言い含めて、許可も取っていないのに寝藁の交換すらさせなかったので告発された。


「ついでに、悪いことした奴は全員追い出す、密告でも何でもして申し出てくれ」


 ストナの言葉で堰を切ったように密告合戦が始まり、自分だけが助かるために普段親友面をしていた連中まで無い事無い事告げ口し始め、収拾がつかなくなった。


「こいつ、いつも他人の枕元探って、ばれないように小銭だけ抜き取って行くんです」

「嘘ばっかり、あんたが枕荒らしで皆の金盗んでる常習犯だろうがっ」

「こいつは盗み食いの常習犯ですっ、いつも食い物が無くなるのはこいつのせいですっ」

「こいつが人の着物盗んで、寝藁と一緒に焼いて嫌がらせしてるのを見ましたっ」


 盗みを自己紹介した女に対し、別の罪を言い返したり、罪を突き付けられると同じ文言をオウム返しして敵の罪にしようとする発達もいて、すぐに掴み合いの喧嘩になり、平手打ちが飛び、爪で引っかいて、スカートを翻して上段蹴りが決まり、女同士の生存を掛けた醜い争いが始まった。


「ストナ、この通りだ、全員殺そう」


 騎士団員が大きな声でそう告げると、争いがピタリと収まった。


「ちがいます、あたしは悪くないんでさあ、こいつが嘘を」

「助けて下さいっ、こいつが全部悪いんで」


 ストナや騎士団員に縋る女が続出し、これも収拾がつかなくなった。


「なあ、この子俺の好みなんだ、殺すんなら連れて帰ってもいいか?」

「ああ、どうぞどうぞ」


 地獄絵図の中に、少女を一人吊り上げるための蜘蛛の糸が降ろされ、一人だけ一本釣りで釣り上げられた。


 それは日頃の行いと、憧れの騎士様に茶菓子を持って行ったり、差し入れに行ったり茶を入れて来た苦労の結果だったが、愚鈍な少女は理解できなかった。


「お、お許しを」


 以前なら、あわよくば騎士の愛人になったり、玉の輿に乗って平民の騎士の妻の座に座ろうとしていたが、慰み者になり嫁にいけない体にされてから放り出されたら、年を取ると生きて行く道が無いので折角の助け舟を断った。


「あれ、振られちまったよ」

「お前じゃ駄目だとよ、ははっ」


 それでも毒を盛った少女は結局処刑されるようなので、最後の生き残れる道筋に藁をも掴む思いで捕まった。


「騎士様、私をお連れ下さい、何でもご奉仕しますから」

「ストナさんっ、後妻にしてください、カーチャさんや竜の母親になりますから」

「スケベ親父」


 相変わらず娘からは汚物を見る目で見られたが、周りを見回し、気立ても評判も良く、働き者の女中の手を引いて外に送り出した。


「お前とお前、お前もお前もっ、食堂で飯でも食わせてもらって自分の寝床に行ってろ、明日からは藁の持ち運びでも飯焚きでも、好きな所に入れてやる」


 日頃の行いが物を言った少女たちは、ストナに救われて食事まで出来た。


 朝の挨拶から休憩中の日常会話、竜の世話の苦労話、上司や貴族の無理で筋道がおかしい命令の愚痴、馬鹿過ぎないで気立ても良い数名は、命を救われて寝床に送り返された。


「竜に毒を盛った奴も命だけは助けてやる、騎士団の宿舎に行ってご奉仕しろ」


 最終決定が下され、若い騎士の慰み者になっても生きたい者は、女中頭他十名近く、縄を掛けられて騎士団宿舎に送られた。


 元々小銭で体を売っていたような阿婆擦(あばず)れ円光女なので、誰も心配などしなかった。


 先程一本釣りに失敗した女中も、騎士のお気に入りなら嫁入りするよう勧められた。


「お前は騎士様に好かれとるようだから、嫁にして貰うか愛人になれ」

「へ? へえ」

「他の奴らは団長様の気が変わらねえうちに荷物纏めてとっとと逃げろ、王都やら近くの街にも寄るな、出来るだけ遠い場所で暮らせ」

「「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」」」


 今度は一糸乱れぬ勢いで、寝床で自分の荷物をまとめて逃げ去った女中達、元々竜の世話には向いていなかったので、命を落とす前に消えた。



 騎士団詰所


「という訳ですんで、竜に毒を盛った連中は死ぬより苦しい罰を受けております。後は売春宿に売るか、適当に放り出しますんでどうかご勘弁を」

「うむ、分かった」


 ご機嫌が悪そうな団長の顔を見ながら、どうにか処分を報告し終わったストナ。


 娘にはスケベオヤジと思われ、仕事終わりに女中を抱きに行ったりすると家に入れて貰えないが、実行犯も命だけは助け、他の者は団長の気が変わらないうちに連座刑から逃がしたと言えば何とかなると思っていた。


「お前の娘は台風のような子だな、騎士団の悪い所を浮き彫りにして膿も出してくれるが、毎日これでは心臓が幾つあっても足りん」


「ははぁ、申し訳ない事で」


 竜も懐かず騎士らしい搭乗もできず、魔法でも碌な成績も出せないのに、プライドだけは百人前の貴族。


 同性で年長ならば騎士団員見習い相手でも、自分が上だと思い込んで命令まで始める仕事もできない女中。


 今回どちらも相手方が間違っていたが、毎日のようにカーチャを貶めて蔑む連中が出れば、いずれ騎士団が無くなってしまう。


 年配の騎士団員の面子もあるので、飛行能力も魔法力もカーチャが一番だと公言はできないが、誰もが知る所なので今後新人虐めは控えるように言い渡す。


「これから、新人で子供だからとカーチャを虐めたりしないように、でないと竜に嫌われて踏み潰されることになるぞ」

「はい……」

「承りました」


 貴族の騎士にも、竜舎や幼竜舎の人員にも通達されたので、平民の騎士からは快哉を叫ばれ、男で成人なら団員達に一杯奢って貰えて女中で初体験させて貰える。


 虐め地獄から解放された飯焚きや雑用の女中達からも褒められるが、まだ立場認識が出来ていない親方とか、女の職員を統括する総女中頭に顔合わせすると、また問題が起こりそうなので小隊長が直接連れて行って面通しをした。

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