第2話 オーディションというものは滅多に受けるものでは無い


─── 一ヶ月前


「なぁ、零時オーディションに出てみないか?」


「・・・はぁ?オーディション?」


「あぁ、ちょっとした記念として出てみないか?」


三月の春休み。

三学期の数学の期末テストで赤点をとってしまった俺は見事に数学が成績赤点となってしまい、春休みにも関わらずこうして学校に数学の補習を受けに来ていた。

そして、二時間半以上にも及ぶ数学の補習を終えた後、兼部をしている軽音楽部の部室に立ち寄り自分のベースを軽く調整していると俺と同じく補習を受けるために学校に来ていた友人の齋藤が俺にそんな話を持ちかけてきた。


「いや、オーディションって言っても俺はまだ高校生だぜ。そう簡単にオーディションなんか受けることができるのか?」


「あー、そこら辺のことは事務所のサイトで調べてみたけど特に年齢制限は無かったから大丈夫らしいぜ。しかも、今回のオーディションはどっちかと言うと俺たちみたいな学生向けのオーディションみたいだし」


「そ・・・そうなのか?」


「オーディション」と言う言葉を聞き、真っ先に頭に浮かんだのは「アイドルのオーディション」と言うものだった。

もし、オーディションがアイドルのオーディションならば俺は絶対に受けたくはないな・・・。

俺の容姿じゃ、アイドルなんって務まるわけもないし、性格的からしてもアイドルっていうがらじゃないしな・・・。


そんなことを思いながら、更に詳しく齋藤の話を聞いてみると、今回齋藤が持ちかけてきたオーディションはアイドルのオーディションなどでは無くスタジオ・ミュージシャンのオーディションだということが分かった。

確か、スタジオ・ミュージシャンとは音楽スタジオでのレコードやCDとう作成やステージサポートのために楽器演奏を行うミュージシャンのことだったと思う。


それにしても、スタジオ・ミュージシャンのオーディションか・・・。

確かに、今の俺にとっては結構魅力的なオーディションだと思うが、俺はそもそもベースを趣味で弾いてるだけだしそこまでの熱は無いんだよな・・・。


「確かに、今の俺にとっては魅力的なオーディションだと思うけど、俺は趣味でベースを弾いてるだけだぞ。そんな奴が、スタジオ・ミュージシャンのオーディションを受けても受かるわけないだろう」


「いいから、出てみようぜ!!きっと、いい思い出になるはずだし、それにプロのベーシストだって最初は趣味でベースを始めたという人も多いって聞くぜ」


「うーん、まぁ、受けるのはいいけど、交通費とか受験料とかも出るんだろ?俺の小遣いじゃそんなに払えないぜ」


「あー、そこら辺のことは心配しなくっても大丈夫だせ、交通費や受験料とかは俺が出してやるから」


「・・・うーん、まぁ、お前がそこまで言うなら受けてみてもいいかな」


「おっ!?なら、オーディションの日程は今週の土曜日だから、十一時ぐらいに駅の前に集合な!!」


「あぁ、分かったよ」


俺が、交通費や受験料のことでオーディションを受けることをしぶっていると齋藤が「自分が交通費と受験料を出してやるよ」と言ってきた。

俺は、それを聞いて交通費や受験料を出してくれるなら記念に受けてみてもいいかなと思い、スタジオ・ミュージシャンのオーディションを受けることにした。


まぁ、趣味でベースを弾いてる奴が人生をかけてベースを弾いている奴らに勝てるわけは無いし。オーディションで落ちるのは確定だろうな・・・。

それにしても、齋藤は何でそんなに俺にオーディションを受けさせたいんだろうか・・・?

また、変なことを考えてなければいいんだけどな・・・。


俺は、そんなことを考えながら、再び自分のベースの調整を再開した。

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