幕間1

幕間1  我妻 強

 初っ端から、私の情けないエピソードで、内心忸怩じくじたる思いである。そして、妻の無双っぷりが、はじめから炸裂している。

 美しい顔に一見モデルのような華奢な体型をしている。右腕に昔負った火傷の痕はあるが、それ以外は白くて滑らかな美肌。

 そんな見た目に反して、高校生のころは元・ボクシング部だったらしい。その上、結構な進学校を出ているあたり頭脳明晰で、おまけに歌やダンスがうまかったりで、芸術的センスも秀でたものがある。

 加えて、並外れた観察力とそれに裏付けられた卓越した推理力。正直言って、私のお株を奪うことはしょっちゅうある。

 それは、妻本人もその才覚を大いに自覚しており、その自信は、しばしば妻の態度にしっかり表出する。私の前だけ。

 そして、虫の居所が悪いときは、肉体的制裁を受けることがある。元・ボクシング部で培ったスキルはこんなところで発揮される。私に対してだけ。

 なお、火傷は唯一、妻の見た目における欠点かと思いきや、本人は名誉の負傷だと言って、まったく劣弱意識を感じていない。


 そんな尊大な妻だが、そのたくましさゆえ、絶大かつ全幅の信頼を従業員から得ている(従業員と言っても津曲しかいないのだが。ちなみに津曲が我妻興信所に来たのも、実は妻の影響が大きかったりする)。

 何か決断を迫られたときは、私ではなくて妻の意見が、例外なく採用される。


 強すぎる妻を前にして、私は探偵としてのプライドはかなぐり捨てている。ただ、妻も、依頼人の前では、特に、調査結果を出すまでの間は、私をディスったりしない。一応、越えてはならない一線はわきまえているようだ。

 環境によっては、驚くほど空気を読めたりする。あるときとは、人が入れ替わったように楚々とした女性に成り変わることもあるから、妻は未だに計り知れない。


 妻に罵倒されても、制裁を喰らっても、それでも私は妻を愛している。依存しているとも捉えられるが、いなくなってしまってはとっても困る。

 だから、私のエピソードをさらけ出すことは、私の恥ではなく、妻の偉大さを綴ることである。


 ある意味、探偵として稀有けうな特性を持っていると言って良い私は、随想録にまとめ、後世に伝えたいと思ったのだ。

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