遡 今日子さんの友人と僕達の先生
翌日。
居間で朝食を食べに向かうと既に今日子さんはだね終えていた。
「おはようお兄ちゃん」
「おはようございます。母さんは?」
「仕事〜」
我が家の父上様は東京で仕事をせっせとしている。
母さんも割と忙しいらしく家にいる時間は少ないと思う。
友人が少ないから他の家の家庭事情は知らないけれど。
とは言え特に違和感は無く、今の世の中そんなに珍しい事でもないはずなのだろう。
それはさておき、昨日の件もあって僕は今日子さんへ目を合わせられないでいる。
「あはは。そうなるよね――今日は先にいくね」
「あ、はい。行ってらっしゃい」
僕は姿を横目で見ながら今日子さんへ返事をした。
またしても問題の先送りをしてしまった事を後悔してはいるのだけれど。
やっぱり母さんに相談するべきなのだろうか。
朝食を食べながらそんな事を考える。
暫くテレビを見ながら食べているとスマホがブルブル動きだした。
今日子さん――昨日はごめん 7:16
今日子さん――反省してます( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ ) 7:16
「未読多っ!」
って、授業まで一時間近くもあるのに家でたのか。
なんか悪いことしちゃったかな。
と僕はスマホを眺めながら呟いてしまう。
たまき――気にしないでください 7:19
たまき――上手くは言えませんが 7:19
たまき――大丈夫ですよ 7:20
うーん。
こんな感じで良いかな?
いかんせん人とあまり連絡等取らないのだから。
と、またしてもスマホが揺れた。
今日子さん――お兄ちゃん大好きっ♡ 7:20
いつもの緩んだ今日子さんに戻ってしまった。
一先ず返事をせずに既読だけ残して食器を片付ける。
少し早いけど学校――鉢合わせても気まずいか。
いつも通りで良いかな? とゆっくり登校することにした。
僕は暫くして家を出た。
さすがに寒い。
雪もまだまだ残ってるし。
それもそのはずで、北海道の2月は恐らくピークで冷え込むのだ。
これだけの『でっかいどう』だから、場所によってもかなり温度差も積雪量も違うのだけれど。
久しぶりに独りで登校をし教室へと辿り着いた僕は、
あまり目立ちたくはないけれど昨日のことが気になってしまった。
「えーと。おはようございます」
僕は小声で挨拶をした。
すると、愛美さんは僕へと振り返り、
「あー。うん。おはよう」
愛美さんは少しだけ気まずそうにしているように見えた。
「昨日はすみませんでした。あの後考え事をしすぎてあまり覚えてないのです」
「んー。わたしこそ、その――でしゃばってごめんね」
「僕あまり人付き合いが得意じゃないから上手く言えませんが、今日子の友達なんですよね? 愛美さんに悪いことしたかなって」
僕は、あの寒い体育館に愛美さんを独りで置いてけぼりにさせてしまった事が気になっていた。
「いやいやそれはいーの。それより」
愛美さんは周りを確認しているのかキョロキョロとしている。
「今日子と大丈夫なの? それに久しぶりに
少し声の大きさを抑えながら僕が『変わった』と言う愛美さん。
「えーと。どうなんでしょうか。よくわからないと言いますか」
「今日子はさ、あまりそんな素振り見せないけど、どちらかと言うと――うんやっぱり
「……」
なんて言って良いものやら。
次第に他のクラスメイトも登校してくる。
僕はやはり何も言えずに黙ってしまう。
僕は「うーん」「言えないよなぁ」などとボヤいていたのだろう。
愛美さんが何かに気が付いたのか「ねぇ」と言葉にし、続けて、
「悩みでもあるの? うーん。ちょっとスマホ貸して」
なんだろう?
と、よくわからないま自分のスマホを愛美さんへ渡した。
すると愛美さんがスマホを返してくれ、
「これも余計かもだけど画面ロックはしといてね」
画面ロック?
暗証番号の事だっけ。
現代若者なのに普段使わないと咄嗟の言葉に反応が遅れてしまう。
いやはやボッチにセキュリティなんて不要なのだ。
ははは。
僕は言われるがままに暗証番号を設定するしていると「席戻ってぇ」と愛美さんに小声で言われた。
どうやら授業が始まる時間のようだ。
先生が教室に入るや否や「たまきくん?」と威圧的に呼ばれる。
「す、すみません。帰りに必ず……」
「よろしくね」
――クスクス
またしても僕は目立ってしまった。
昨日から散々な目にあっているのだ。
僕の記憶がいつからおかしくなったかは定かではない。
けれど覚えている限りでは今日子さんが学校内で接触してきた事は昨日が初めてのはず。
昨日の愛美さんが言うには『公認兄妹カップル』とでも言いたげだった気がする。
どうにも食い違いのような感覚に陥る。
放課後。
相変わらず答えの出ない問題を抱え、少々疲れながらも職員室へと足を踏み入れた。
「失礼します」
「はい。たまきくん。こっちへいらっしゃい」
僕達の先生。
下の名前は知りません。
今日子さんが言うには独身。
「たまきくん、先生は好きで独り身なのですよ?」
急にプンスカ
若そうだけれど一応先生なのだ。
で、なんで呼ばれたんだっけ。
「たまきくん。妹ちゃんとは話しましたけど、ダメですっ」
「ええと?」
「もうっ! 妹ちゃんを学校の前でお姫様抱っこなんて、神が許しても先生は許しませんからねっ」
先生は「ここに証拠もありますっ」と、自分のスマホの画面を見せてくる。
「えーと、先生」
「はい。たまきくん」
「これには深い理由が」
「ふむふむ?」
あー。
ここまで来て理由が思いつかない。
猫と入れ替わったなんて頭がおかしくなったと思われる。
さて困った。
僕は視線を逸らし言い訳を考えていると、
「たまきくん。世界には色々な愛の形が有るのは知っています。ええ――知っていますとも」
なんでここでドヤっの顔をするのかわからないけれど、世界の話をするなら確かにそうなのだけれど。
更に先生は続ける。
「でもねたまきくん。妹ちゃんというより家族はどうなんですか? 理解してくれてるのですか?」
今日子さん。
先生に何を話したのだろうか。
まさかとは思うけど――相変わらず「お兄ちゃんと結婚しますっ」なんて言ったのだろうか。
そんな事を想像した僕は少し身震いしてしまう。
が、そのまさかだった。
「たまきくん。妹ちゃんはそう言ってましたよ?」
「はぁ。先生、多分ですが今日子さんは少し緩いんですよ。頭のネジが――」
「たまきくんっ! そこまで言ってはいけませんよ。家族で兄妹なのですっ。ちゃんと大切にしてあげないといけません」
いやいやどの口が言うのだ。
さっきとは逆の話に逸れているじゃないか。
「わかりました先生。大切にします。ただ」
「ただ?」
「僕達にも色々と事情があるんですよ。学校前の出来事は謝ります。ですが放っておいてください。お願いします」
僕は少しだけ強い口調で言ってしまった。
先生はそんな僕の態度に怒りもせず、
「わかりました。今日の所は一先ずこれでいいです。でもたまきくん。君の表情はなんだかよくありません。先生は君の先生です。いつでも頼ってください?」
世の中の先生でどれだけの数の先生がまともに対応してくれるのやら。
まして――わけわからないのは僕の方なのだ。
言葉の表現すらわからないのだ。
僕は深い溜息をつきながら「失礼しましたあ」と先生へ挨拶をし職員室を後にした。
僕が教室に戻ると勿論誰一人居らず家へと帰宅する。
昨日から今日子さんの事ばかり考えてる気がする。
あ。来週だっけ。
今日子さんの誕生日。
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