遡 今日子さんの妹日記と相合傘 弎
一先ず彼女から逃げ出し晩御飯を済ませた。
が、やはり母は昨日とほぼ同じ会話の流れだった。
願い事ねえ。
今まで無かった。
という事は、今日の出来事かな。
はてさて。
昨日今日知り合った人の考えてる事なんてわからないけど。
とは言っても、毎日繰り返す訳にもいかないわけで。
僕はお風呂をあがったその足で、一度今日子さんに確認をしに部屋へと向かった。
「今日子さん。入っても?」
「どーぞー」
「お邪魔します」
なんだか、これも既視感だよなあ。
とりあえず気になる事を聞いておかないと。
「さっき、お風呂で考えたんです」
「うんうん。それで? あと私妹なんだから話し方っ」
先程よりかは元気そうになった今日子さんは、ベッドで足をパタパタしてこちらを見ている。
当然口調については聞き流す。
その姿を横目に、僕はソファーに座りながらこう尋ねた。
「多分ですけど、今日の出来事の中に今日子さんの願い事があると思うんですよ」
「出来事かあ。なんだろ」
「朝、昼、夜、今。何かしたい事とか、嫌な出来事とかも当てはまるかも」
「うーん。ならお兄ちゃんと抱き合いたいとかは?」
「それは御遠慮願います」
「むう。じゃあ――」
今日子さんは仰向けになり、枕を抱きしめ「うーん」と唸る。
実際、先程の願い事が本当ならどうしようか。
色々試してダメなら仕方ないことなのか?
見ず知らずの他人の『兄妹』で?
もうそれは――ただの犯罪者で親からも勘当される出来事になるんじゃ……。
「それは大丈夫。お母さんは私の事応援してくれるよ」
「? まあ。それはいいとして心当たりは?」
「むぅ。んー、雪でびちょ濡れになったのが嫌だったとかかな?」
「ん? 昨日も雪だったのになんでびちょ濡れになってたんです?」
「あっ」
「えっ?」
急でびっくりしたけれど、今日子さんは仰向けになっていたベッドから転がり降り、何か閃いたようだ。
「多分それかもっ!」
「といいますと?」
「お兄ちゃんの傘に入れて欲しいなぁって思ってた」
「えぇ」
どうやら自信ありげに言う今日子さんは「間違いないっ」と胸を張っている。
「試しに。ね? それくらい良いでしょ?」
「んー、わかりました。ただ、学校の近くでは離れてくださいね」
「はいはーい。帰りも待ってるから一緒ね?」
「わーかーりましたー」
「何その言い方。感じ悪っ」
とは言っても、何一つ他にめぼしい宛もないわけだし、やるだけやってみるしかないのだけれど。
僕と言えば友達と呼べる人もいないし。
今日子さんは問題ないのだろうか。
まあ――他人の交友関係の心配はいいとして。
明日は朝から傘を分けて登校することになった。
「ほんっと、性格悪いっ」
と、部屋を追い出された僕は朝を待つことになり、昨日寝れなかった分、かなりすんなりと寝付くことが出来たのだった。
「行きましょか」
「うん! 嬉しい!」
何がどうなってこうなったのやら。
朝から未だに兄妹と思えない――ほぼ他人と言える人と傘を分けて登校するなんて。
しかし、フォローのつもりはないけれど、今日子さんに言いよる男もいてもおかしくないのでは。
と思うんだけど、いやはやなんでだろ?
と考えてたら腕を抓られたわけで。
世の中とは理不尽に溢れ。
満ち溢れ。
満ち満ちているのだよ。
案の定言うまでもなく、学校の授業は連日同じ内容で、不真面目な僕でもさすがに覚えてしまうほどだった。
そういえば、今日子さんの本ってどうやって手に入れたんだろうか。それさえ無ければこんな事には――聞いてみるか。
「あれは絶対に破棄できないのっ」
「うわっ」
校門前で待ち合わせていた僕達だったけれど、先に到着していた僕の後ろから今日子さんが本の件について否定してきたところだ。
僕が「なんでです?」と尋ね彼女は、
「それはまだ言えないけど、絶対の絶対に完全にダメっ」
「――よく分かりませんが。まぁ、とりあえず帰りましょうか」
「わあい」
本のことは、とりあえず今日を乗り越えてからでも良いのか?
校門から歩きだす時に今日子さんには、学校から少し離れてからと伝えたけれど、お構い無しで傘に割り込んでくる。
その状況に、なんだかなぁと僕は呟いていた。
「良いじゃーん。私の願い事叶うかもだよ? 明日来るかもなんだよ?」
「まぁ、それはそうですけど――」
「お兄ちゃん私の事そんなにイヤなの?」
どうやら少しだけ怒りのスイッチを踏んでしまったようだ。
消化スイッチはどこにあるのやら。
それにしても、思い出してみれば二日も連続で傘を持たずに登校かあ。
無防備というのか無謀というのか。
いや、案外策略だったのかっ?
中々の軍師なのかもしれない……。
「じーっ。あまり私のイメージを悪くするのはやめてね」
「ほら。今日子さんだって周りの目が気になるじゃない」
「周りのモブはどうでも良いの」
「? 意味がわからないよ」
「お兄ちゃん。お兄様」
なんだなんだ急に。
「もし、明日もダメなら……。お願いがあるの」
「な、なんでございましょ」
「ダメだったら話すね」
怖いわぁ。基本的に女子高校生なんて獣というのか、男子もそうだけど、感情ブレーキが緩いから暴走するんだよ。怖いわぁ。
そんなこんなに話している間に家へと帰宅した僕達。
今日は玄関前に妖怪雪女がいない事が前と違う。
あとは、傘を分け合った。
となると、お風呂も直行無し。
よし、これは決まりかもしれないぞっ。
明日に期待だ。
「とりあえず、明日の結果待ちということで、今日は自由行動にしましょう!」
少しガッツポーズを決めながら言ったのが間違いだったようで、それを見ていた今日子さんは、
「はー。なんで分かってくれないかな? まぁ、分かりましたよ! せいぜい明日を楽しみにしててくださいませっ」
と、大きな音を立て階段をどんどんっと昇って行くのであった。
楽しみにする。
当たり前のことだ。
毎日同じ日を繰り返すなんて地獄そのものだ。
期待しないなんて嘘になる。
早く明日にならないかなぁ。
と、ささくさと晩御飯とお風呂を済ませた僕は、すぐさまベッドに潜り込み明日を夢見て眠ることにしたのだ。
翌朝、見事に日付けが変わっており、朝一番でスマホを確認した僕は、
「やっほぉっーーい!」
と、大喜びで起き上がったのだった。
そして、それを聞いたのか同じ気持ちだったのか、今日子さんが部屋を尋ねてきて、
――愛の子作り毎日計画が
「良かったぁ! さすがお兄ちゃんだねっ!」
と、こちらも喜びでニヤけてる。
ん? 表現がおかしいかもしれないけれど。
とにかく笑顔であった。
ただ……気のせいかもだけど嫌な言葉が聞こえたような。
「でも、折角だから今日も明日も明後日も、一緒に登校しようよ。ていうかお願いしますっ」
え……。
それはまぁ、大袈裟に断る理由も無いのだけれど。
僕は無意識で頷いていたのだろうか。
「良かったっ! お兄ちゃん本当大好き!」
とりあえず。それはどうもご丁寧に……。
それより、僕の記憶がですね。
と言うと『何とかなるよ』で済まされてしまったわけで。
他人のような妹。毎度何かある度にこの繰り返す現象に付き合うことになるのか。と。
なんだかなぁ。と思うわけです。
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